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12 プルカーンを後に



 集会所での会議を終えた、フェアバール、リーゼライ、レガレルの三人は、山賊の格好をした店主が営む防具店でアーヴァンクの買取精算をしてもらう。宿に戻った頃には辺りはすっかり暗くなっていた。


 宿のオヤジは不機嫌だった。客の食事が遅れると賄いの残業代が発生するというのが、ぶーたれてるの理由らしい。


 心配してい待っていた、商人のシュリ・ガスラーと、リッシュー・グッテーレは、フェアバール達を見るなり、何があったのかを問い詰めてきた。連発された爆裂魔法に巻き込まれて死んだ旅人がいるという。そんな噂が飛び交っていたらしい。


「どこに行ってたんですか!探したんですよ」

「どこっていうか。魂の戦いを見学?」


 掴みかからんばかりの剣幕のガスラー。目をそらすレガレル。要領を得ない回答に、商人の怒りのボルテージが上がる。


「巻き込まれて死んでも知りませんよ! この村の魔法使いは、爆裂魔法を使う理由をいつも探してるんです。キッカケさえあれば見境いなく攻撃してくるんですから!」


 生真面目な性格なのだろう。王都まで安全に送り届ける責任があるんですっと、プンプン怒ってる。こっちは客だ、なんて言おうものなら張り倒されそうな勢いだ。


 なぜか、矛先を向けられてるレガレルを筆頭に、三人は平謝りに誤る。


「明日は早いんですから、夕飯を食べたらすぐに寝てくださいねっ」


 ガスラーはそう言うと、乱暴に自室のドアを閉めた。中からドスドスっと鈍い音が響いてくる。壁を伝ってくる振動は、爆裂魔法よりも健康に悪い。


「あの人は、本当に心配してたんだよ。僕以上にね。道中長いから、大人しく言うことを聞いたほうがいい。逆らわないのが身のためだ」


 リッシュー・グッテーレのご高説に、コクコク首を縦にふる。王都に着く前に殴殺されそうだ。今後は、せめて行き先を告げてから行動しようという見解をまとめる。




 夕食のメニューは、郷土料理。つまり、ツェルト村と似たような食材と味付けだ。家にいるときと代わり映えしない食事だが、空腹は最高のスパイス。ガツガツと詰め込んで、ひと心地ついた。


 待ち受けたメイドが、あっと言う間に食器が下げていくと、ざわついていた空間に静寂がやってきた。誰もいなくなった宿付レストランで、ひそひそ話しが始まる。レガレルがしみじみとつぶやいた。


「秘密を持つってのは、たいへんなんだな。お前らを問い詰めてたりして、悪かった」


 リーゼライとフェアバールが深く同意する。


「それで、もう一人のウィル――マコト――だっけ? この村に残るんだよな?」

「その通りだ。炭屋のほうは旅に出たいと言ってたが」


 レストランの隅から手頃なコップをみつけると、フェアバールが水魔法で水を満たす。それを二人の前に滑らせると自分も一口飲む。


「モコトと紛らわしい。マコトじゃなく、トカチガワって言ってほしい」

「そうしよう。で、炭屋は、魔法の力を得た事で気を良くして《合わせ月の焚》に参加してしたいとも言ってるけど、借り物の魔法での参加は無謀だよな。トカチガワにもその気がないから、プルカーンにいた方がいい」


 差し出された水を、うまそうにごくごく飲みほしていくリーゼライ。それを眺めてるフェアバールは少し嬉しそうだ。


「モコトは、まだ起きないか?」

「うん。目を覚ましている間は、私の目の隅に顔が見えるからわかる」

「魔力切れで、疲れてしまうなんて意外だな」


 それを聞いたレガレルが、不思議そうな顔をした。


「そうなのか?」

「ああ。林での枝落としと訓練で、一日中魔法を使ったときでさえ、疲れは見せなかった」

「そうだね。メンドくさそうにはしてたけど」

「ぼくは、モコトの魔法量 ――マナ――は、無尽蔵と思っていたけど、そうじゃないってことだ。ウィル同士の戦いは、それほどまでにマナを使うってことだな。今後またウィルが現れたときは、なるべく触らないようにしないと、今回みたいになる」


「ウィルって、うちの村長しか知らなかったんだろ? どこにでもいるもんじゃなさそうだけど」


 そう言ったレガレルは別の話しをふる。


「そいうやフェア、こっちの村長と何を話してたんだ?」

「これをもらった」


 シャツの中に隠していた首飾りを、二人の前に見せた。

 真鍮のシンプルな飾りに、中央には青く輝く大きな石が埋め込められていた。アクセサリーや宝石には無縁な3人だが、一見しただけで、価値のあるものだと知れた。


「これは、なんか神々しい輝きがあるけど」

「お、お父さんが、預けていたんだって。もしもあたしが1人でやってきたら渡して欲しいって…」


 うつむいてしまうフェアに、リーゼライたちは顔を見合わせた。フェアの両親は五年前の戦いで、大勢の村人と共に亡くなっている。父親が、亡くなる前に預けたのは、何かを予期していたのだろうか。


「5年以上昔に、ここの村長――まだ村長になる前か――に託したってか」

「形見というには不自然だな。何か意味があるのか」

「わからない。どっちかが一緒なら、父さんか母さんが受け取るはずだったって」

「魔力を試してみた?」

「何も起きなかった」


 魔法使いが自分の子供に託す宝石といえば、何か護の付与されたアイテムという可能性が高いが反応が無かったという。魔法量を変えたり、系統の違う魔力を与えれば、何か反応があるかもしれないが、いまのところ可能性は薄い。

 答えの出ないやりとりに、みんな黙ってしまった。


「実は、亡国の姫様だったとか? 親子で落ち延びて再興の機会を待つってな」

「昔話の読みすぎた。だいたい、この10年で消えた国なんてないだろう」


 また沈黙。そろそろお開きの時間と感じて腰を上げはじめると、レガレルは、二人に顔を近づけ、低く落とした声でささやいた。


「……灯りの少ない夜のレストランで、ひそひそ話してると、なんか悪巧みしてるみたいだな……」

「何を嬉しそうに。ウィルだけどな。グッテーレさんは今夜でお別れだ。残るガスラーさんには絶対内緒だぞ。彼女は知らない方がいい」

「モコトのことバラさないでよレガレル。昼間、見惚れてたから心配だなあ」


「私がどうかしまたしたか、お客様?」


 ほの暗いレストランに響き渡る声に、ぎょっとする。

 二階へ繋がる階段のほうへ目をやると、そこには、目をつりあげダークゴブリンのような形相のガスラーが仁王立ちしていた。


「明日は、早いから寝なさいといいましたよね? 」

「いやこれは、食後のくつろぎを……」

「い い ま し た よ ね?」


 有無を言わせぬ笑顔に、悪巧みの現場を解散させられた三人は、二階のそれぞれの部屋へと退去していった。




 翌朝、馬車は日の出とともに出発した。

 昨日と同じく、馬に乗った四人の騎士に囲まれて、昨日よりは揺れが静かな街道を走る。

 昨日と違っていたのは、グッテーレが他の馬車で別の村へ向かったこと。プルカーンから二人の乗客が乗り込んできたことだ。ガスラーしかいないという、3人思惑は滑り出しから外れたことになる。

 

「私達も、《合わせ月の焚》に参加するの」


 どちらも年の頃は十五歳。イエローのミドルロング髪がキレイな双子の姉妹だった。

昨日、一番最後の炎魔法を使ったのが妹のほうだと言う。


 双子は、炭屋が集会所に連れていかれるのを目撃していた。そのメンバーの中に、自分たちと同じくらいの子供が混じっていたことを見逃さなかった。


 あの後、どうなったかのか。

 気になってしょうがない二人は、ずっと噂していたのだと言う。


「ねぇ。教えてよ」

「ねぇ。いいでしょ?」


 好奇心ネコを殺すという。姉妹は、好奇心むき出して、フェアバール、リーゼライ、レガレルをチクチク問い詰めた。


「爆裂の掟にしたがって誰にも言わない!」

「参加していた私達には知る権利がある!」

「君達ツェルト村の人はウソを言ったりしないよね?」


「あ、うう」


 フェアバールは無視、リーゼライが受け流しを決め込む中、レガレルだけは返答に窮していた。


 双子はターゲットを一人に絞ることにした。興味を持ったガスラーの脅迫と色仕掛けが加わったことで、レガレルは殺された、いや白状させらてしまた。




「出発から10分ってとこか。レガレルに秘密は無理だったな」

「ううん。10分ももったんだから、レガレルは頑張ったよね、モコト」

『ばれたついでに、地形を確認したいな。つぎの休憩のとき、雲を超えて飛ぶからね。フェア、覚悟しといて』

「ええー!?」


 嘆くフェアバールを他所に、女性陣三人は、休憩を心待ちにする。

 つぎの目的地は、商業都市カウウル。

 道のりはまだまだ遠かった。



次回は三章の最終話です。

ギャズモル男爵はどうなったのでしょうか?

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