10 ウィルスキル争奪戦
「まぁ、ちゃちゃっと倒すよ。みてなさい」
スーツからナイフを取り出す気配を、背中に感じる。
「なぁに、余裕ぶっこいてんだ柴桜ぁ」
こいつって、ナイフ投げは上手かったけど格技センスはなさそうだな。優位な背後をとっていても、しゃべっていたら自分の距離を教えているようなものなのに。
近づく声を頼りに、タイミングを測る……
人間の上半身の間接ってのはね、外向きにはできてないんだ。右利きのあんたは、さっきと同じ右上から振りかぶってきてるはず。だからわたしは、あんたの右外から腕を抑えるだけ。それでジエンドにできる。
……今だっ
息をゆっくり吐きながら右足を下げる。
下げた後ろ足を軸にして腕を大きく回しながら体を反転させる。
振り下げられた十勝川の腕をこちらの右肘が捉えた。
タイミングぴったり。左腕のほうはヤツの後頭部に到達。
回転の勢いを殺さず姿勢を下げると、敵を床にねじ伏せる。
床に当たった勢いで、両手のサバイバルナイフが、手から離れた。
「いたたたッ 動けないっ離せ!」
じいちゃん、また成功したよ!
―― デュエルガ決着シマシタ。勝者 モコト・シバザクラ。 相手スキルヲ、ランダムデ奪取シマス ――
決着がついたようだ。もう手出しはできないよね?
押さえつけていた十勝川の身体を離す。
ぱんぱんっと手のホコリを払う。
ホコリは無いんだけど気分ね。
こいつに言いたいことは、山ほど、本当に山ほどある。
でもここは異世界だ。日本ではないし地球ですらない。
恨み辛みはあるんだけど、大人になって前向きに進んでみるべき。と思う。
「デュエルの決着はついたけど、この先、どうするの?」
死んで身体を失ったことで、人生もリセットされた。一度死んでしまった自分達が、過去のいさかいを蒸し返しても、いまさら解決のしようがない。
身よりも知識もない魔法の世界で、精神だけの私達が生きていく手段は限られているんだ。十勝川は私と同種の貴重なウィル。もしかすると、こうした遭遇は二度とない可能性もある。敵対するよりも、知識や認識を共通するのが建設的だ。
気持ちはスッキリしないけどね。
「どうするって何が?」
「決まってるっしょ。この世界で、この先どうやって生きていくかよ」
ずれた黒縁眼鏡を真っ直ぐに直しながら立ち上がった十勝川は、後ろにやってきた炭屋にあごを突き出す。
「どうつもこいつも、ここの奴らは、オレを拒否しやがった。話しかけても無視するし、いきなり魔法で攻撃しやがる。死にたくないから防御してたんだが、こちらの魔力がきれて気絶するまで続けやがる。やっと目がさめて話しかければ、また魔法で攻撃。どうやって生きていくもないだろ」
なるほど。その激昂もっともだ。
話しも聞かないで攻撃の的にされてたと。村長は娯楽だとも言ってたしなぁ。それは村の連中が悪いか。ひとまず仲直りが必要だ。実はちょっと急いでる。とっとと責任者に登場してもらうか。
「村長さん? ウィルの存在は認めてくれるよね?」
いきなり指名された女性村長は、あたし?と自分を指差した。
あなたです。
「これだけ見せ付けられちゃね、認めるしかないね」
よし、これはこれでOK。
こまかいやり取りは、後でもできる。多分もう時間が無い。
邪魔な件は後回しにして、私は急いでフェアのほうに駆け寄った。フェアもこっちにやってくる。いきなり飛びついてきた。
「モコトすごいっ」
「アリガトウ、うまくいったね」
やっと触れることができる。こちらからも抱きしめなおして、フェアの頭をなでまわす。可愛いなぁ、フェアはこんなに可愛い。
いつまでもこのままでいたい!
そう願ったんだけど、どうやら時間切れのようだ。
始まったときと同じ様、唐突な光りが空間満たす。
まぶしさに目を閉じると浮遊感がやってくる。
ぽふっ。
お尻がイスに収まる感触を得た。目を開いてコックピットに戻ったことを確認。
シートに深く寝そべると、急激な脱力感に襲われた。
「あ~あ。フェアともっと、いちゃこらしたかったなぁ」
『わたしも』
妹分の、どことなく空ろな声がする。
「なんか疲れた。レガレルの説得は、もうできるよね?」
『うん。自分の目でモコトをみてたからね。あれでわかんなきゃバカ』
『誰がバカだと?』
『レガレルはバカではないですよ、考えないが足りないだけです』
『うがー!!』
うん。元の調子にもどったようだね。今日はもう疲れた。
ふと、エネルギーゲージをみるとレッドゾーンにかかってる
そりゃ疲れるわな。きっと十勝川とのウィル同士のデュエルのせいだ。
あっちの炭屋は、またまた倒れているし。
「じゃ、リーゼ君。話がきまったら後で聞かせて。魔力切れなんで落ちるわ」
『うむ。承知したよ』
わ、親父くさい返答。こいつってまだ十五歳なんだよね。
『あの、モコト?』
「フェア、どうした?」
『ちょっとだったけど、会えてうれしかった』
うん。私もだ。
「きっとまた、チャンスはあるよ」
そう言ってから、コックピットの内装をワンルーム仕様に模様替えする。
メッセージログには、重力スキルをゲットしたと流れていた。
話しのストックが、切れました。
次の話からノンビリ投稿になります。




