5 お買い物
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モコトの頼みを聞いてプルカーンを一回りして、ものスゴイ爆裂魔法を見物。
やっと商店街にある武具店に入れた。リーゼとレガレルがあたしの後ろに続く。
「わあっ」
服や武装はたくさんあり、種類ごとに分かりやすく並んでる。いかつい革製の鎧とか、動きやすそうな布製の防護服が目立つ。革と金属の混じった臭いが鼻につく。
思ってたよりも店の中は広い。
他のお客がいるけど、ゆったり見て回れそう。
魔法使いが好むようなローブも何着か吊り下がってる。でも一番数が多いのは、村人が着ている作業服。そんで、武具屋なのに武器といえるのは、数本の槍と短剣だけ。武器は買う人が少ないのかな。攻撃魔法使いの村だから。
斧やナタは、武器だと言えなくないけど、スコップってナニ?
『ワークショップのような品揃えだね』
目の右端に映っているモコトが、見回わしながら話す。どういう風に見えてるんだろう。レガレルに聞えないように、今度はひそひそ声で答える。口でしゃべったほうが楽しい。
「ワークショップ?」
『私の世界で、仕事のための服や道具を売ってる店屋さんのこと』
なるほど、言えてる。
あたしが着れそうなのは見つかるかな。
一つの服も見逃さないように、いちいち確かめながら品定めする。ハンガーで吊り下げてある衣服を指で触っていく。大きいとか色がちょっととか、欲しかったのとは違うのばかりだ。
でも、自由に見てられる雰囲気って、なんだか楽しい。
「あたし、新しく服が欲しいんだよね。魔法使いっぽいのを」
『今の服も可愛いけどね』
「これしかないから、替えが欲しいんだ」
『この店のラインナップじゃ、難しそう』
ほかの客の相手をしていた武具店の主人が、あたしたちのところへとやったきた。御用はないかと、豪快な大声で尋ねてきた。
「かわいいいお客さん。なにか、ご希望の品はあるのかい?」
『デモを兼ねているのかな。日本人ならコスプレにしか見えないけど』
武具店の主人らしく、ごつい革張りの鎧を着込んでる。モコトがなんか言ってるけど、よく似合ってると思う。みごとな山賊姿だ。
『か、かわいくて、それで、じ、丈夫なのを』
尻込みしながら伝えると、申し訳なさそうに主人が肩をすくめた。
「すまん。ここに置いてあるので全部なんだよ。嬢ちゃん向きなのは、オーダーメイドになるなぁ。旅の方だよね。四日はかかるけど、いつまで滞在してる?」
「あ、明日の朝には」
「そいつは、残念だ」
このおじさんは、あまり残念でもなさそう。でも、あたしは本気で残念だ。
それじゃ買取りはしてますかと、リーゼが横から尋ねる。
「武器や防具に使えるものであれば、なんだって買い取らせてもらうよ」
「アーヴァンクなんだけど、丸ごと一頭あります」
「ほぉ。そいつは珍しい。あいつら、連んで行動するから倒すのがたいへんなんだ。高く買い取らせてもらうよ」
「いま、出します」
リーゼが、あたしのほうに両手を差し出してきた。あれね。くすんだ朱色のローブをまくり、腰のポーチを外して渡す。
「え?その中に? 冗談はやめてくれ。君たちのような子供が、アーヴァンクを仕舞えるような空間保存鞄をもってるわけないだろう」
ふふん。
つい笑みがこぼれた。そういうのの適正年令ってあるのかな。常識は、あんまりわからないけど、世の中は広いんだよ。
《モコト、あの中は、モコトの入れ物とつながったままなんだよね?》
『うん、〔クラウドポーチ〕は、出し入れ自由だよ』
山賊さんの言う空間なんちゃらと、モコトの〔クラウドポーチ〕は、ちがうんだなあ。鞄なんてなくても、どこにでも、とり出せるし。
なんにもないところに、物を出したり消したりしたら大騒ぎになるから、わざと、鞄から取り出してるようにしてもらってる。
リーゼが、鞄の中に手を突っ込む。見下した目でみてる山賊主人。
その目の前で、無造作にアーヴァンクを取り出した。
『う、▶︎◎×をあっ!』
言葉にならないほどに、店主がおどろいてる。レガレルも一緒になって驚ている。仕舞うところを見みたでしょ、キミは。
みごとな一頭の姿に、山賊主人が目をみはってる。
ふっふん。
「お、驚いた。君たちを見くびっていたようだ。すまない。しかし、綺麗なアーヴァンクだな。ほとんど、傷らしい傷がないじゃねえか。剥製にしても高く売れそうだ。いま見積るから、しばらく時間を貰えるか」
さっきとは一転。職人らしい目つきで、アーヴァンクを品定めする。頭を持ち上げたりお腹を触ったり、毛の感触や重さを丁寧に確認していく。
肉が美味しいって、誰かがいってたっけ。食べてみたいなあ。あとの二頭は、皮とかお肉とかに解体してあるはずだから、そのうち食べたいな。
『剥製という言葉が気になった。もしかすると、私のスキルが活かせるかも』
山賊主人の見積もりが終わって、奥にある応接の間に招かれる。紙に書かれた引き取り金額をみながら、お茶を飲む。高いか安いかわからないけど、リーゼが上手いことやってくれるはず。
入り口の方がザワザワしだした、ほかの客が騒ぎはじめたのだ。
また爆裂魔法かな。
「おい、外で誰か暴れてるぞっ!」
「なにっ?」
山賊主人が、それを聞いて立ち上がる。待っててくれと見積もりは打ち切ると、腕まくりをしながら表へと飛び出していった。
「くそっ、遅れたかっ!」
騒ぎについて覚えがあるみたい。
楽しげにもみえるその姿は、獲物を襲撃する山賊そのものだ。
野次馬レガレルが、勢いに釣られて追いかけていった。
リーゼライもため息をつきながら腰を上げた。
「またまた騒動。最近、どこへ行っても待ち受けてる気がするなあ」
『フラグを立てた者がいるとすれば、それは私かもしれない。ごめん』
「不吉なことを言わないで、モコト」
店の表に出ると、公園の中に二十人ほどの人が集まってきていた。人だかりから、だい距離をおいた場所には、髪の毛がツートンのさっきの炭屋の主人が立っていた。出遅れたぁっ、と言いながら山賊主人が集団に加わるのが見えた。
両の手で頭を抱えている炭屋さん。しかめた表情でなにかをつぶやいていた。団扇でふうふう暑がってたときとは、まるで様子が違う。
「あの人、どうかしたんですか?」
リーゼライが、近くにいた女性に尋ねる。
女性が親切にウケ答える。三十歳くらいの風格のある人だ。
「三、四日前から時々、発作をおこすのよ。わけの分からないことを言ってね」
「発作ですか? 沢山の人が集まってるきてるけど、ただ見てるだけですね。誰か治療とかしないんですか?」
村の人がどんどん集まってきて、もう、100人は超えてそう。ゴブリンの騒ぎを思い出して、ちょっと怖くなった。
炭屋さんは大声でわめきちらしながら、頭をガンガン地面にぶつけている。マトモには見えない。ここがツェルト村なら、無理にでも押さえこんで治療魔法を試してる。絶対に。
でも誰も治療しようとしないし、なぜだか、列を作って順番に並んでる。
「オレはオレだぁ、中から出て行けー!」
ん?
中から出てけって言った?
似たようなこと、誰か言ってなかったっけ
『覚えてるフェア? 同じようなことを口にしてたのを』
モコトが、ぼそっとつぶやいてくる。
え。
あたしだっけ。
そういえばそんな気もする。
あれは、モコトが生霊とか言ったから怖くなったんだよ。
それよりも、今は治療しなきゃ。
「おばさん、あの人痛そう。治療してあげな……」
ズッガアアァァァーーン!!
耳をつんざく轟音。
公園の半分ほどを埋め尽くす灼熱の炎。
生じた突風に飛ばされないよう、あたしたちは身を伏せた。
爆裂魔法が、またしても、轟いたのだ。
炭屋の主人を狙った今度のは、さっきの二人の爆裂とは比べものにならない。村を囲んでいる遠い山の稜線が陽炎のせいでボケボケになった。
炎の余韻が収まるのを待って、おばさんが、にこやかに立ち上がる。
「プルカーンには、プルカーンのやり方があるのよ」
この村は、変すぎる!




