1 道中
ここから三章がはじまります。
そろそろストックがなくなるので、ペースダウンに・・・
四頭の二首馬に引かれて馬車はゆっくりと進む。
森の中を行くので、左右の小窓からは木しか見えない。
それでも、久しぶりの馬車での旅は新鮮だ
前回に乗ったのは、いつだったかな。何年も前のことで忘れてしまった。
せいぜい、となり村までいく程度で、旅ともいえない旅だったけど、父さん母さんが一緒で楽しかった。
今度の旅はこれまでとは違って、父さんも母さんもいない。それどころか、村には戻らない覚悟の旅だ。淋しくないとは言わないけども、リーゼやモコトがいるので不安はない。向かう先は、隣村どころか、ずっと遠くの王都まで。
どんな街なんだろう、途中には、何があるんだろう。《合わせ月の焚》とかいう試験も楽しみ。何をするんだろうか。人もいっぱい集まってるだろうし。お祭りになるのかな。
ワクワクドキドキで、不安しているどころじゃない。
そんな旅が、楽しくないはずがないでしょう。
『いまからそんな、気張ってちゃ、王都に着く前に死んじゃうよ』
「大丈夫・・・」
モコトが、心話で心配してきたので、つい声を出して答えた。
「え? な、なにが?」
馬車の外に顔を出そうとしていたレガレルが、こちらを振り向いた。唐突に声をあげたあたしに、なんのことかと訝しげ。モコトという存在がいることは、レガレルには言ってない。知ってる人は少ない方がいいって、村長がいってたし。そのうち話すかもしれないし、そうでないかもしれない。
「……別になんでも」
ごまかせたかな。変な子だと思われなかったかな。もうこれ以上、おかしな行動を見られないようにしようと、うつむいて目を閉じた。馬車の席を森の空気が素通りしていく。
《まだ、心話に慣れてないのかフェア。レガレルが、首をかしげてるけど》
からかってくるのは、リーゼの声だ。ずいぶん前から心話の魔法が使えたというリーゼは、顔色を変えずに話すことができるという。あたしの場合、口を閉じていても顔にはでちゃうからね。ちょっとだけ口惜しい。
《ふんっ、あたしだってすぐに慣れてやるんだから、モコトみたいに、何人も一緒に話せるようになる》
《それが、人生の最終目的かい?ガンバってくれたまえ》
うぅ〜
そんなやりとりをしている、あたしとリーゼの会話の間に、モコトが割り込んできた。
『えっと、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?』
《うぅ~、いいよ。なに?》
《護衛らしい人が馬で走ってるようだけど、この道は、それほどまで危険だってこと?》
そんなこと、知るわけない。
こんなに村から離れたことなんてほとんど無いんだから。
《いろいろ、いるんだと思う。うん、いる》
『いろいろって、なにが?』
《ほらあれ。氷虎とか霧巨人とか追いはぎとかね》
あたしが返してた適当な答えに、リーゼがあきれた声を上げる。
《そういった一般常識をフェアに尋ねるのは失礼ですねモコト。直感だけで生きてる娘ですから》
『ああ~、わかる気がする』
《なにさ、二人ともっ》
《しかし、フェアの直感はよく当たるのも事実。答えはおおむね正解なんです。氷虎は住んでないから現れないけども、弱い魔物はときどき出るんです。それと盗賊対策にもなってる。騎士がいれば、おいそれとは襲ってこられませんから》
それって褒められてるの?
騎士の護衛にはずいぶん深い意味があったんだね。
世の中って、あたしの知らないことばかりだ。
『なるほどね。で、目的地が王都ってのは聞いてるんだけど、そこまで直接行くわけじゃないよね?』
《その通り。あちこちの村や街を経由して、陸路と海路で、およそ一月かかります。最初に着くのは、隣村のプルカーンですね》
『まずはプルカーンね。ねぇ、地図があったら見せて欲しいんだけど』
地図か。モコトって変なものに、興味をもつんだね。
《地図なんか、どうするの?》
『どうするって? そりゃあこの世界が知りたいもの。地図はデカイほど嬉しい。フェアは、知りたくないの?』
いい事を聞いたな。地図があれば、世界がわかるのか。
そういえば、あたしはツェルト村の辺りしか知らない。
世の中が分かれば、もっといろんな場所にいけるかもね。
《うん、あたしも知りたい!》
『モコトの言ってる世界というのが、どこまでのことを指すのか不明ですが、王都までの地図なら、馬車が止まったときにでも見せられます》
『数時間で着くんだよね? 楽しみに待っていよう』
モコトも、ワクワクしてるみたいだし。やっぱ、旅は嬉しくなくちゃね。
《そういえばモコト、リッコの実はどうしたの?》
『試しに、仕舞い込んだアレ?』
《そう。テーブルにあったのを、消したアレ》
『なんというか、美味しいね、これ』
口をもしゃもしゃ言わせているのが聞えた。食べながら話している様子に驚く。
《ええーー食べてるの!?》
《どうやって? 身体がないばずでは?》
リーゼの疑問はもっとも。ウィルとかいう魂のようなモコトは、自分の身体を持ってないはず。それなのに。
『なんかねぇ、クラウドポケットにしまったものは、私の空間から取り出せることがわかったんだ。で、とりたしてみたら美味しそうでつい』
なんだがもう、なんでもありって感じ。
モコトの魔法は、私の知ってる魔法とも違うし。
あれ?そんなことがてきるなら。
《あたしも、その中に入ればモコトに逢えるんじゃ?》
『そりゃ、ムリムリ。ここはフェアの中だからね、自分の中に自分が入ったら、わけのわからない映画の世界になっちゃいます』
《なら、リーゼなら入れるの?》
少しだけ間をおいて、考えをまとめるように話してくる。
『それもだめ。全くの異空間だからね。命の安全は保障できない』
そっかあ。
『そろそろ、目を開けたほうがいいよ。馬車の前で何が起こってる』




