9 決別
訂正:「出発」の話を「決別」にも投稿してしまいました。申し訳ありません。
混乱させてすみませんでした。
動かなくなったトッパを見下ろしながら、村長に対してサリサが口を開いた。
「もう、そのへんにしてあげなさいよ」
「そうか? んじゃトッパ。反省したか?」
「・・・」
返事が無い。周りの声が耳に届いていないようだ。
「こりゃ、薬が効きすぎたか? おいトッパ!」
「う・・・うぅ」
こりゃしばらくダメかなと村長がボヤくと、トッパは予想もしなかった行動にでた。いきなり立ち上がると、燃え盛る家に走り出したのだ。
「まずいっ、死ぬ気だ!」
「早まらないでっ!」
後ろから村長が、トッパを羽交い締めにする。
「死ぬんだあ、あの子達に顔向けできない!」
なりふり構わない女の火事場の馬鹿力に男の村長が引きづられる。すぐ後ろにいたバーレーンとサリサかわ加勢して、トッパをどうにか地面に抑え込んだ。
「待てって。フェアは死んじゃいない!」
「嘘だあ、あたしが殺したんだあー」
聞く耳を持たず、泣き叫ぶトッパ。村長は、バタバタ暴れるトッパの腕を離さずに一言。
「おい、リーゼ!」
呼ばれて前に出たリーゼライが、軽く手を前に出すと短く呪文を唱える。
「猛火を消し去れ、ポイントブリザード!」
ブリザードは吹雪を起こす広域魔法。半径数キロから数十キロに雪の嵐を吹き起こす高位の魔法だ。かつて大軍の移動を困難にさせた事例があるが高すぎ威力ゆえに使いにくく実用性は低い。
ブリザードを特定エリア限定にしたのがポイントブリザード。領域を囲った狭い範囲にブリザード同等の災害を引き起こす。
閉ざされた空間のみに注がれた吹雪は、ごうごうと吹き荒れ、あっと言う間に家の猛火を消し去った。
目を見開くトッパ。確かに火は消えた。しかし、もう家はただの残骸と化してる。氷がついて真っ白になった骨組みが、唯一、家だった証拠を残す。氷が解けるに従い、骨組みが炭になっているのが確認できた。
「おい、やり過ぎだろ」
呆れる村長にリーゼライが返す。
「いや、これくらいしないと一気に消せませんから。本当は、完全に炭になってからのほうが、後始末が楽だっんですが」
「仕方ないだろうが」
村長達が押さえていたトッパを離す。
トッパはポタポタと雫を垂らす家の跡をみつめながら、頭の隅でぼんやり思った。この二人は、なんの話しをしてるのだろう。後始末が楽? こんな時に廃棄物の段取りを心配か。それともフェアバールの遺体のことか。
軽く衝撃音とともに残っていた柱も倒れ、立っているものは全て無くなったのを最後に、夜の闇に静かさが訪れる。誰も口を開かない。離れた小川のせせらぎだけが、人々を包む。
そのとき、崩れた瓦礫が、ギシギシ音を立てて膨らみ……いきなり吹き飛んだ。そして、女の子の独り言が続く。
「モコト、試すなら最初に言ってよ……だぁめ、反省してるように見えない」
フェアバールが、ベッドに座ったまま宙に浮いてるのだ。トッパは目を丸くする。あれだけの炎に焼かれて生きているはずがないのだ。しかもベッドごと無傷とは、どんな防御魔法でもあり得ない。
驚くトッパを尻目に、リーゼライが声をかける。
「よく眠れたかな?」
「そんなはず、ないでしょ。けっこう熱かったし」
意味がわからないトッパが、かすれた声を出す。
「な、なによ、なんで普通に話してんの」
それについては、と村長が話し出した。
「燃え広がるのが、やけに早いと思わんかったか? この家は、今夜焼いてしまう予定だったんだ。予め、燃えやすいように仕掛けをしといた。 」
「なんで、家を」
村長がトッパを向いて続ける。
「耐熱魔法のテストとやら。この家はどこからも離れているしな、燃え移る心配はない。俺が火を付ける手はずだったんだが、先にやれちまったてわけだ」
フェアバールは、ベッドごとフワフワ浮遊し、いまやただの炭と瓦礫となった家から離れた。
「それにしたって、焼かなくても」
ベッドから降りたフェアバールが、おずおずとトッパ達の前に出てきた。地面に座り込んだままのトッパと視線が合わないように、顔を背ける。
「……あたしは、この家が嫌い。お父さんとお母さんを思い出すから、嫌い。」
ぽつ、ぽつと、フェアバールが語っていく。
「あなたが、あたしの火傷をからかうたび、あたしはこの家で泣いた。なんで、助けたのって。一緒に死なせてくれなかったのって」
「あたしは、5年前のことを覚えてない。あるのは、その前の楽しかった思い出だけ。この家は、生き残ったあたしを責めてくる。なんで生きてるのって」
「モコトのおかげて、顔の火傷が無くなった。家もなくなれば、もう、あたしを責めるものは何も無くなるの」
おもえば、フェアバールが、こんな長い言葉を口にするのは、初めてだ。そんな思いを抱えて暮らしてきたのかと、リーゼライさえ胸の痛みを覚えた。
トッパが常識的な質問をする。
「でも、住むところは」
「今日、村を出て行くし、もう帰らない」
フェアバールが、やっとトッパの目に視線を合わせる。これまでの恨みごとと家を焼いた責任を問われるものと、身構える。焼却予定だったとはいえ、そのことを知って火をつけたわけではない。放火は放火なのだ。
「トッパさん、家に火をつけてくれてありがとう。よければ、ベッドを使ってください」
では、といって背を向けた。十一歳の小さな背中が全てを拒絶する。
何も言葉を返せないトッパだった。




