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4 事情



 私は、じっと話を聞いていた。


 フェアバールが視認しているエリアを映し出してるゴーグル型の画面。

 いま映っているのは、木造の部屋にいる三人の異世界人だった。

 三人とも、髪の色は黒みのあるブラウン。

 いかにも親子だって趣きがある。


 一人は、大人の女性サリサ。フェアを見守ってる頼れるおばさんってところか。 もう一人も大人だが、こちらは男性。一見すると威勢の良い親父だけど、深い知性が伺える。話からすると、この人が村の長みたいだ。


 そして、最後の一人はリーゼライと呼ばれた少年だ。

 軽い口調で場の雰囲気を和まそうとしてる。

 失敗してるのだが、軽薄な見た目と異なって、気遣いのできる人と見た。


 うーむ。フェアの視線のほとんどが、この子に集中している。

 ま、大人よりも同年代の方が話やすいのは分かる。

 それにしても、見過ぎでは?

 後で問い詰めよう。


 フェアが流した感謝の涙。

 無自覚だったけど、積年の悩みから彼女を解放していたらしい。

 私もつい泣いてしまった。

 嬉し泣きって伝染するんだよなあ。


 鏡に写ったフェアの顔は、とても晴れやかだった。

 黒い瞳、髪の色はブルーとレッドが半々。

 あの赤は私の髪に似ているなぁ

 少女の可愛らしさが満開だ。


 私もこんな顔で生まれていたら、もっと違った人生になったかも。

 なんて、そんな歌詞のヒット曲があったことを思い出した。

 SNSなら百万ビューはとれそうな笑顔。録画の機能を探して、記録しておく。




 ウィルが、ヤドカリに例えられたのには驚いたけど。

 なるほど。納得できる部分もある。


「何にでも、例外ってのがあるだろう?」


 その通り。

 この世の中は例外だらけ。


 記録は破るためにあるし、世の中の統計は、不確定要素の集合に意味をはめ込んでいるだけというものもある。


 私も、クライアントを惹きつけるため、先方に旨味のあるグラフを作ることがあった。こちらのプランを採用してもらうには、ときに都合良く解釈させてしまうテクが必要となる。


 ライバル会社も同様なので、同じデータから真逆の結論がぶつかるなんてことも起きた。真実は一つだが、結論も一つとは限らないわけ。


 前例なんてのは、覆るためにあるようなもの。

 そんな矛盾はこの世界でも通用するらしい。




 どうやら、この会話の流れからすると、私も、参加しないといけなくなりそうだ。


《モコト? お願いしていい?》


そらきた!


「もっちろん!」


 と言ってはみたけど、ちょっとばかり緊張。

 フェアは、なんとか受け入れてくれているようだげど、彼女の場合は、私がいなけば死んでいた可能性が高い。ゴブリンの攻撃を防いだ実績があるので、ある程度、信用してくれている。


 切ろうにも切れない繋がりになってる。選択肢がないので、受け入れてくれないと困るのだ。まだ言ってないけど。


 しかし、これから相手にするのは外野の三人だ。

 会話の流れから察すると、ウィルっては、この世界は知られているようだ。

 知られているが、認知はされるとは限らない。

 最悪、フェアごと排除されてしまう危険さえある。


 迷う手でパネルをタップしていき、外部スピーカーに切り替えた。


「はじめまして、私がヤドカリ的なウィル。芝桜藻琴っていいます」


 フェアの口は開いてない。

 三人とも、キョトンとしている様子。

 聞こえているのだろうか。

 あれ。そもそも、言葉ってどうなってるんだろう?


 フェアとは普通に会話できてたから、この世界は日本国が通じると思ってしまっていた。あれは、一瞬のテレパシーだったのではないだろうか。そうだとすれば、外に発した声はわかって貰えない可能性もある。

 ちょっと焦る。


「聞こえてます? 何か反応して貰えたら、助かるんですが」


『お。本当にか?フェアの中にウィルがいるのか? 』


 これは村長の声だ。

 通じていた。ほーっと息を吐く。


『へー。面白いなあ。精霊がいるのか』


 これは、リーゼライだね。


『面白がってる場合じゃないでしょ。精霊だとしたら、このままフェアの身体が乗っ取られてしまうんじゃないの?』


 怖い顔で、サリサがリーゼライを遮る。

 まあ。当たり前なな反応ですね。

 心の中に別の人格がいるなんて事態を家族に話そうものなら、地球ならば、頭に聴診器をあてられる。

 ウィルってのが、イレギュラー過ぎるんだよ。

 負けないように、一生懸命フォローしないと。


「そうですね。それは常識的な疑問です。でも、その心配はいらないと思ってます」


『どういうこと?』


「私のいるこの場所って、小さな空間なんです。フェアと同化してるんじゃなくて、操縦席になってるの」


『操縦席? なんだそりゃ?』


 村長が食いついてきた。操縦席を知らないか。

 そりゃそうか。この異世界にフィットする例えはないかな。


「この世界に馬車はあります?」

『馬車? そりゃあるが。』

「私は、馬車の御者をしてるようなものといえば、いいのかな」


『フェアという、馬車を操ってるっての?』


「それともちょっと違うかな。馬もフェアで、操ってるのもフェア。私は後ろに乗っけてもらってるだけ。馬や馬車の具合をみて、怪我を治したりぶつかっても痛くないような施術をしてる立場です。横から意見もしますけど」


『よくわからないわ。』

『僕は、なんとなく分かります。このモコモコさんは、口出しはできるけど、主体はあくまでもフェアにある。そういうことですね?』


「も、藻琴です。そういう風にとってもらえるのが正解です」


『フェアに害はないのね?』


 いい人だなあ。こんなにもフェアのことを心配してくれてる。

 私には母親の記憶があまりない。幼い頃に亡くなってるから。

 生きていればこんな風に心配してくれたのだろうか。

 私がいなくなって、じいちゃん悲しんでいるだろうな。


「害はありません。少なくとも、私の意思で危害を加えることは、絶対にありえない」


『分かった。』


 おー。マジか。

 カンタンに分かってもらえて良かった。

 フェアは無言でいるけど、下げた視線に、汗をかいて握ってる拳。

 私にか、3人にか。気になってる空気はヒシヒシと伝わる。


『フェアから出ることは、できないの?』


「私がこう言うのも変なことですが、ウィルについて、知らないことは多いのです。詳しい人がいるなら、こちらが教えてもらいたいくらい。だから、その質問について、私は答えを知りません」


 出られるものなら、私も出たい。


「フェアにも、言ってなかったね。私は、このまま、あなたの中に居続けるのかも知れないんだ。」


 ……沈黙。


 そりゃまあ、自分の中に得体の知れない存在がいるなんて、気分のいいものじゃない。たまたま助けることは出来たけれど、それはそれだ。霊体でも精霊でも、なんでもいい。私なら、霊媒師に除霊してもらう。料金が高いなら35年ローンを組んででも工面する。


『藻琴。あなたには感謝してる。だけど』

「だけど?」

『いつまでもこのままってわけにはいかない。』


 やはりね。

 この世界にも霊媒師っているのかな。

 それが成功すれば、私は消えて無くなるのかな。


『だから、一緒に探そう。』


 はい?


『藻琴が、自分の身体を取り戻せるように』


 うーん……。


「私の身体は、もうないんだ。」


 認めたくないけど。


「つい先日、事故で死んじゃって。魂だけが、この世界にやってきたからね」

『そうなの……』


 また沈黙かと思ったら、村長のでかい声が場の空気をひっくり返した。


『なあるほどなあ。よし。じゃあ決まりだ。フェアを村の英雄にしてやろう』


 はて?


 意味がわからない。この人は何を言ってるんだろう。

 しばしの間のあと、みんなが一斉に口を開いた。


『ええーーー?』

『このタイミングですか。なるほど?』

『いやです。絶対にダメ!!』


 三者三様の驚きの反応に、村長は表情を変えないまま後の言葉を続けた。


『明日の朝、いろいろまとめて発表といこうや。リーゼライは、村中にてふれ回ってくれ。全員集合で会議するってな。主だった連中には、今日のうちに話しをつけておくわ』


 よっこらせと、腰を重そうに上げると扉をあけて部屋から出て行った。

 この展開は、どこに落ち着くんだろう。



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