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「うーん」


 目を開けると、見慣れない部屋のベッドに寝ていた。

 見慣れないないけど、入ったことはある。ここはリーゼの家だ。なんでこんなところに寝てるんだろう。


 不思議に思いながら、身体を起こす。


 リーゼの家。つまりこの村を束ねる村長の家だ。部屋の中は質素そのもの。家具やテーブルなどの調度品に質の良さを感じるけど、石を敷き詰めた床やむき出しの柱とか、装飾のない造りは、親が残してくれた家とそんなに変わらない。


 我が家と違ってるのは、片付けが行き届いてることかな。

 自分のところは、あたし一人には広すぎて、ついつい放ってしまってる。


 花の刺してある洒落た花瓶が窓に置いてある。

 土魔法でつくったのだろうか。

 サリサおばさんのセンスが感じられる。

 窓の下には、あたしのリュックが置いてあった。


 なぜだろ、いつもより身体が軽い気がする。

 おかしいな。あたしは、たしか怪我を……。


 そこまで考えたところで、いきなり思い出した。

 あたしは戦っていたんだった。


「あ! ダークゴブリンは?」

『目が覚めたようだね。あのゴブリンは、手足を切り落とされたよ』


 頭の中に声がした。戦ってる最中に、聞こえてたのと同じ声だ。


「さっきの人ね? 誰? どこにいるの?」

『うーん。どう説明したらいいのかなー。私も戸惑ってるんだよね』


 困ったような、自信のなさそうな答えが帰ってくる。


『まあ、順番にいこうか。名前からね。私は芝桜藻琴っていうの』

「シバザ、クラモコト」

『切るところがちがう。しばざくら、そこで切って、もこと』

「しばさくら、もこと。ね。へんな名前」

『いきなりディスりますか? け、けっこう、いい性格してるのね』


 面食らったような、いじけたような声色に、思わず吹き出してしまう。


「ゴメンなさい。全然、意味がわかんないし、聞いたことない言葉だったから」


 相手は正体不明。なのに、なんでか居心地よく話せてる。

 いつもなら視線や表情を気にしながら、言葉ひとつにも気を使っているのに。

 顔が見えないからなのかな。こんな気楽なやり取りは、久しぶり。

 生まれて初めてかもしれない。


『ま、まあ、いいよ。ちなみに芝桜ってのは、地面を埋め尽くすように群れて咲く小さな花。藻琴のほうは植物と楽器の組み合わせだけど、そういう地名があるの』

「しばざくらさんって呼べばいの? 年上のようだし」

『藻琴でいい。そっちが名前だし。あなたのことはなんて?』

「フェアバール。フェアでいい」

『よろしくフェア。仲良くやっていきたいね』


 お互いの呼び名は確認しあったけど、顔も姿もまだわかってない。


「それで、あなた・・・モコトは誰なの?」

『まず、それだよね。フェア? ・・・ウィルって分かる?』

「知らない」


 ウィル。ウィル?

 聞いたことのない言葉だ。人の名前かな。

 それともゴブリンのような種族。モトコは、別の種族なんだろうか。


『そうか。この世界じゃ当たり前の現象かと思ったんだけど』

「モトコが、ウィルってこと? それは、種族なの?」

『種族? 種族っていえば種族か。いやー違うな。どっちかいうと・・・生き霊?』

「い、生き霊!? モトコは、死んだ人なの?」


 恐怖で身がすくんだ。

 死んだ人間の魂が、天に帰らないでそのまま地上に留まる。それが生き霊だ。普通は薄い影のように漂って消えていくけど、人に取り憑いて悪さをすることもあるとか。霊に取り憑かれるなんて、そんな! 人に恨まれるようなことなんか、なにもしてないのに!


 そのとき、部屋の扉がすーっと開いた。


「きゃー! 出てって、出てって!出てって!! 」

『落ちついて! フェア!』


 扉から顔をだしたのは、サリサおばさんとリーゼライだった。


「ゴメン。フェア。気が動転してるんだね」


 見知った顔が登場したことで、ほっと安心する。

 二人は、あたしの慌てぶりをみて、すまなそうに出て行こうとした。


「あ。そういうんじゃないんです。ごめんなさい。だ、大丈夫です」


 ベットから起きて立ち上がろうとするあたしを、サリサおばさんが慌てて押さえ込む。


「まだ、起きてはだめ」


 大げさだなぁ。怪我人扱いに苦笑い。

 あたしの身体におかしなところはない。前よりも軽くて調子がよいくらい。

 おかしな霊が取り付いてるようだけど。

 顔を二人に向けてにっこりと微笑んだ。いつもの倍増しで。


「いえ、あたしは元気ですよ。寝ているわけにはいきません」


 おばさんは、それでも押しとどめてくる。


「だーめ。治癒魔法で治したつもりだけど、完全とは限らないの。フェアの身体に何かおこったか、調べなきゃいけないし」


 身体に何かおこったかって?

 確かにいろんなことがおこった。飛んでたし防御もしたし。

 でもあれは、きっとモトコがやらかしたことだ。

 聞きたいことは山ほどあるけど。


「モコト?」

『私の声って今、そこの人に聞こえてるかな。あ、これテストね』


 なるほど。幽霊でもなんでも、とり憑いてるのがあたしの身体なら、モコトの声は周りに聞こえてないかも。


「もこと? それは何?」


 おばさんが、首をかしげる。決まり。

 すぐ前のサリサおばさんにさえ、モコトの声は届いてない。


『ほー。他の人には聞こえてないみたいね。えーと・・・あった。外部スピーカーみたいにもできそう。必要なら、その人とも話せるよ。それと、フェアが強く考えたことはこっちは聞こえるから、心でも会話ができる』


 モコトの声がおばさんに聞えたりすれば、幽霊の説明をしなきゃいけなくなる。


「ウィルがなんなのか分かるまでは黙っておいて」と考えると『りょーかい』と帰ってきた。

 ちょっと楽しいけど心が筒抜けになってる。

 変なことは考えられないなあ。


「いえ、まだ頭の中が混乱してて」

「ほーら。大人しくしてなきゃ、いけないの」


 サリサおばさんは、ほぼ無理やりにあたしをベットに寝かしつけると、小さく息を吐いて、顔をじっと見てくる。とくに、おデコのあたりを。おばさんは上級治癒魔法士。身体に異常がないか診ているのかも。


 でも、おデコを見られのは、気分のいいものじゃない。

 火傷の痕に痛みはない、


「フェア。火傷の跡--」


 ないけども、心がズキズキしてくるんだ。


「--自分で、治したの?」


 何を言ってるのおばさん。

 あたしのこの痕は、誰にも治せないって言われてる。

 村長でさえ治せなかったんだよ。

 人のいない花瓶のほうに顔を向け、小さな抗議をする。


「サリサおばさん。からかうのは、やめてください」

「気づいてないの? 髪の色も?じゃあ、なんで治ってるの? 」


 おばさんのほうを見ると、目が真剣そのものだった。

 からかってるようには、みえない。

 モコトが謝ってくる。


『あー。ゴメン。きっとそれ私だ。まずかった?』


 意味がわからないけど。まさか。まさか。

 そんなことが・・・でも、今日はやたらと信じられないことが連発している。

 さっきは、ゴブリンからあたしを護ってくれたし、モコトという生霊なら、奇跡も起こせるのかもしれない。


 恐る恐る、おデコに指を這わせてみる。


 ない。

 なかった。


 いつもなら指に触る、ゴワゴワした不快な感触が、きれいさっぱり消えて無くなっていた。



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