1 トリセツ
ここから2章がスタートします!
「あー。よく寝た。」
ひどい夢をみた。あたしは死んでしまい、異世界のウィルとやらになる。
あろう事か、女の子の中に入って、魔物と戦うというのだ。
女の子の中ってのが、ロボットのコックピットときたもんだ。
笑ってしまうほど陳腐な夢だろう。今時のラノベは、ひと工夫もふた工夫もされてる。
「真っ暗だなあ。今って、何時だろう。」
目覚まし代わりのスマホを探そうと手を伸ばす。が、何にも触れず空を切る。スマホは、ときどき、違う位置に置くこともある。触らなかったことについては、おかしなことではない。伸ばした手は、何もない空間をスカスカするだけ。あるはずの畳の感触すらないのだ。
ガバッと身体をおこして、目を見開く。
そこには、薄ボンヤリとした全天モニター。
光調を下げたモニターパネルに映し出されてるのは、木造の質素な部屋。寝ているベッドが、モニター中央の空間に静かに浮いている。まるで、小型プラネタリウムの真ん中にいるみたいだ。
「何よコレー!」
叫び声に反応したのかベッドが消えた。代わりに現れたのは座り心地の良さそうなシート。
私の身体が、ぽふっと収まる。
摩訶不思議な現象に諦めの感情が湧いてくる……。
「あーーあ。 夢じゃなかったんだなあ。」
もういいや。死んだのは間違いない。こうして意識があるだけでもヨシとしよう。この際、なんでもアリに受け入れてしまうベキなんだろうな。気持ちを切り替える。ひとまず、現実の出来事としておこう。じゃないと先に進まない。
早急に解決するべき疑問は、なんで寝てたんだろうってことだ。戦いの終盤、疲れて、意識を保てなくなった。あれは、はしゃぎ過ぎた子供がぱたんと倒れるとか、ガソリンの切れた車が止まるとか。そんな、エネルギーを使い切った感じだった。
「私が使い果たしたエネルギーってなに?」
首を回してパネルを見る。正面の下側には、戦闘中にチェックしてたコンソールがある。
エネルギーゲインは、マックスになってた。
コンソールには、ほかに、ツリー状の選択肢がいくつもある。ピッピッと押していく。この辺の操作はスマホのタッチパネルに似てる。戦闘のときはグレーだった文字のうち、幾つかがグリーンへと変わっていた。
ツリーメニューの横にメッセージ欄を見つける。
これは見落としていたなぁ。
< MSG >
近距離バリア土 がアクティベート可能です。
ウィルエネルギーが80%回復しました。
フェアバールの直接操作が可能になりました。
近距離バリア風 がアクティベート可能です。
近距離バリア水 がアクティベート可能です。
ウィルエネルギーが100%回復しました。
・・・
まだまだ、メッセージ続く。
これはそのまんまアレだ。コンピュータでいうところのログだね。状態に変化があると、メッセージが表示されるヤツ。新しくソフトをインストールして始めて機動したときに、動作チェックなんかを状況を知らせるのと同じだ。最近のログは画像が伴うから、これはずいぶんと古めかしい。
『ウィルとフェアバール・Gは正常にマッチングしました』というのをメッセージの先頭に見つけた。
フェアバール・グレイフェーダーの頭部を回復しただの、浮遊メゾットを実行しただの、と続いてる。戦闘の最中に、私が操作していった順番の通りに、いちいち記録されている。まさにメッセージログそのもの。
えーと。
ウィルってのが私。だから『フェアバール・G』は、コックピットが置かれている女の子のことだろう。個人名の可能性が高いけど、もしかすると種族名かもしれない。
「・・・あ、これだ。」
< MSG >
・・・
ウィルのエネルギーがゼロになりました。
ウィルが50%回復するまで全行動を停止します。
大気マナ充填開始。
・・・
『回復するまで全行動を停止』かぁ。
思ったとおり、あたし自身のエネルギーが切れたから、力尽きて寝てしまったんだな。
マナってのがエネルギーのということだけど、これってまずくないか。
この先ずっとこんな戦闘なんかが続くとすれば、いきなり倒れるのは宜しくない。
この子。フェアバールだっけ。さっきの戦いではこの子のほうが、先に気を失ってる。
どういう世界なのか調べなきゃいけないけど、まだまだあんな戦いがあると覚悟したいた方がいい。
そしてたぶん、これがリアルな出来事なら、フェアバールがやられたとたん、私も一緒に死ぬ。
「一度死んだあたしが、もう一度死ねばどうなるの? そもそも、ウィルって……」
まあいい。
真っ先に知っておきたいことは、エネルギーの上限を上げることができるかどうか。
または、使用効率を高める手段を見つけること。
あの子を助けることが自分も生き延びることに繋がっているのだ。
ピッピッと、コンソールのボタンをタッチしていく。
トリセツみないなものは、ないんだろうか。
たった数分でぶっ倒れるようでは、生き残っていくのは難しい。
世界を理解しないまま力尽きるってのは、あの課長神に負けるような気がして癪だ。
「おー!これだこれ。見つけたあー!!」
なるほど……
ふむふむ……
意外とカンタンにレベルアップできるかも。
『う、うーん』
正面の、ゴーグル型の大型サイズモニターが明るくなった。
お嬢様の目覚めだ。




