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10 襲撃の裏側

 ツェルト村は、ゆるい丘を含んだ狭い平地にある。村の東西には、村を見下ろすような小高い丘がいくつもある。丘の中腹はなだらか起伏があり、斜面を利用した畑が作られている。午前遅くのこの時間は、農作業の姿が見られるのだが、住人総出で騒動の後始末をしてるため、今は誰もいない。


 丘のてっぺん。まばらな木々の間には三つの人影があった。隊商の恰好をしているが、その目には商人に似つかわしくない鋭さがあった。


 遠目の魔法で村を伺っていた男が口を開く。


「ゴブリンをけしかけたのは、正解だったな。」


 すると、後ろに控えていた男が応じる。


「ギャズモル様。ゴブリンの頭目に、自身の村が滅ぼされたと暗示をかけたのは、さすがでした」

「お主が、ゴブリンが出たと、村人に伝えたのが功を奏したのだ。あれで討伐隊が出払ったのだからな」


 ゴブリン集団のことを伝えて、村の主力を外におびき出した。そうして、ゴブリンの本体を村を襲わせる。残った村人はいかなる手段で防衛するか。それを見極めるための策だった。


 三人目も会話に加わる。


「しかし、噂は本当だったんだねぇ。治癒魔法使いだらけの集落があるなーんて。眉唾ネタだと思ってたんだけど」

「うむ。あれだけの被害にもかかわらず、死に人が出ていない。怪我人も、次々に回復してゆく。まるで夢でも見ているようだ」


 治癒魔法使は数が少ない。それはこの世界の常識だ。中ぐらいの集落があるなら、五年に一人生まれる程度。その魔法使いも、刃傷が回復できる程度の術がつかえれば上等なほうだ。


 神に使える巫女や神官であれば治癒魔法が使える者も多いが、何年もの厳しい試練を乗り越えなければいけない。治癒魔法使いは、いつでも足りない貴重な存在なのだ。


「最後に登場したヤツは、監察官かな? 貴族としてもかなりの身分のように見えるね」


 身分の高そうな女貴族が派遣されている。そばに控えていた取り巻きは五人。ほかにもいるだろう。動きやすい衣装ではあるが、遠目でさえ誤魔化し切れない煌びやかさがある。王族の可能性もあるだろう。こんな辺境に遣わされるにしては身分が高すぎる。


「決まりだな。あれも、王都がこの村を重要視している証拠になる」

「して、如何に致すので?」

「先ずは、報告だな。おそらくは、【合わせ月の焚】の交渉材料になるだろうが。それを考えるのは、上の仕事」


 ギャズモルは、取り出した木簡にさらさら文字を書いた。描き終えた木簡を閉じてじっと魔力を込めれば、辺りの枝葉が集まってくる。ゆっくりと息を吸って吐く間に、木簡を核として小さな鷹へと形を変えていった。


 何かを待つように見つめる鷹に、ギャズモルは行き先を告げる。


 頷くように頭を下げた鷹は、ふわりと大空に舞い上がって、すぐさま見えなくなった。




これで、一章は終了です。

二章の一話目は、明日の夜の投稿になります。



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