エピローグ
私は女になった。
彼は男になった。
女というものは穢れなき無垢なものでならねばいけない、というイメージが邪魔で仕方がなかった。なぜ女はそんなものに従わなければならない?古くさい男尊女卑の名残を何故まだ求め続けられねばならないのだ。女という生き物は不幸だ。
清純無垢の象徴の聖母さえ、母親なのだ。
矛盾も甚だしい。世の中というものは。子を為している以上交わりがないなどとは言わせない。遺伝子技術が進んだ現代じゃあるまいし、処女懐妊など笑わせてくれる。このような思いをせずに勝手に崇められてたまるものか。
私はマリアのように清く正しく美しく行きようとしてるわけではない。むしろ意地汚く悪く醜い道を歩むことになるだろうが、これからずっと先の未来で、まだ自分の中に清純さが残り引き返せる段階だったこのときを、処女を失ったこのときのことを思い出して後悔するのだろうか?
世の中に対する黒々とした怨みを抱えながら私は破瓜を迎えた。マンガなどで描かれているような激しい痛みはなく、性器の少しヒリヒリした感じと言いようのない異物感だけがそこにはあった。
それほど痛みがないのは動いていないからかもしれない。こういうとき男性の方が痛くないように女性をリードするものなのかもしれないが、生憎私は快感をえたいのではなく、ただ清純を消し去ることだけが目的なのでその先までは敢えていかないでおく。
スブリ、と彼を私から引き剥がす。完全に抜き終わった時、傷口から血が数滴漏れた。ポタポタと、だがそれはとても無視できない、有り難い色をしていた。
私は生涯、自分の醜悪さの固まりのような黒ずんだ血の色を忘れないだろう。