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空蝉の頃   作者: なのは
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序章

 初投稿です。

いろいろと至らない部分があるかと思いますが、どうかよろしくお願いいたしますm(__)m連載作品になりますのでどうか温かい目で見守って下さい(*^_^*)

夏が近づくと、思い出す風景がある。どこまでも続く田園風景。舗装されてない砂利道。太陽に照り返す眩しい程の木々の緑。山の中に木霊する蝉の鳴き声。そして、あの少年と遊んだ、秘密の場所・・・・・・。                                                                         あれは、いまから八年前。まだ蒸し暑い6月の下旬。十三歳の夏の日だった。


 車の中で私は,流れていく景色をただ黙って眺めていた。もう何時間走ったことだろう。

「さっきからずっと同じところを走っているような気がする。」

そう思ってしまう程、目に映る景色は変わり映えのしないものだった。どこまで行っても緑、緑、緑、この町の大部分は緑色で占められている。木々や田畑が視界からなくなることはなかったし、ぽつん、ぽつんと建っている家はどれも似たような佇まいで、みんなどうやって見分けているのか不思議な程だった。

 ここが私の新しく暮らす町。昨日まで住んでいた町とはまるで違う。コンビニもゲーセンもデパートもここにはない。でも、不思議と嫌な気はしなかった。顔に吹き付ける風を、見渡す限りに広がる緑色の景色を、素直に気持ち良いと思う。

「ここでなら、何かが変わるかもしれない」

望みにも似た感情が胸の奥に小さく芽生えた。


 「真子、着いたよ。起きなさい。」

いつの間に眠ってしまったのか。辺りはすっかり日が暮れて夕日に照らされたオレンジ色の世界が広がっていた。

「よく眠っていたわね。さあ早く車から降りて荷物を下ろすのを手伝ってちょうだい。」 

母にそう言われ、寝ぼけ眼で車から降りた。

 新しく暮らす家は、それほど大きくはないが親子3人が暮らすには申し分のない家だった。

私は暫しの間、夕日に照らされたその家をみつめていた。

「真子、さあ何をぼーっとしてるの?暗くなっちゃうでしょ?早くこの荷物を家に運んじゃってちょうだい。」

母に再度急かされて私は荷物を降ろし始めた。車に積んであるのは服や、炊飯器、テレビなど

小さいものばかりでタンスや冷蔵庫という大きなものは引越センターに頼んで後日運んでもらうようにしてある。

 荷物を全て家に運び終えるまで、父と母は一言も言葉を交わさなかった。もう二週間近くまともな会話を交わさない日が続いている。元々、特別仲が良い夫婦というわけではなかったけれどこんな状態になるのは初めてのことだった。

 

喧嘩の原因は父にあった。

 あれは、2か月程前のこと。父のもとに1本の電話が入った。電話の主は父の古くからの友人と名乗る者で「事業に失敗して資金繰りがうまくいっていない。このままでは生活さえままならない。必ず返すので少しでもお金を融資して欲しい」というものだった。断るのが苦手な人の良い父は何の疑いも持たずに指定された口座に百万円程振り込んだ。

 しかし、お金を振り込んでから数日。いつまで経っても連絡がない。電話をかけてみてもつながらない。「何かがおかしい。」気づいた時にはもう遅かった。そう。父はいわゆる『振り込め詐欺』にひっかかってしまったのだ。

 事情を知った母は大激怒。その日の夜は久々に大喧嘩になった。怒鳴りたいだけ怒鳴りあった後は、ろくに会話を交わさない日が続いた。互いが互いを無視し合い、必要最低限の言葉しか交わさない毎日。それでも、予想した通り最終的には父の方が折れた。母も「やってしまったものは仕方ない」と、渋々怒りを鎮め事態はひとまず落ち着いたかに思えた。

 しかし、ほっとしたのも束の間。新たな事件は起こってしまったのだ。

 それは、父の浮気の発覚だった。「あの、真面目な父に限って浮気なんてありえない。」そう思っていた。しかし、長年連れ添ってきた女の勘なのか,母は最近の父の様子に微かな違和感を感じ取っていたらしい。付ける量の多くなったコロンや、服のセンス、やたら身だしなみを気にするところ。休みの日は大抵家に居たというのに、外出することが多くなったこと。他の人が見ても気にしないような小さな変化でも、母の目には大きく映ったらしい。

 何事もはっきりしていないと気が済まない性分の母は、後日探偵事務所に浮気調査の依頼をした。そして手に入れた真実は、母が望んでいたものと全く逆のものだった。父は残業と偽って一人の女性と会っていた。それもかなり深い仲になっているらしく相手の女性は父に「奥さんと別れて私と結婚してほしい」とまでいっているらしい。父にそこまで惚れこんでいる女性がいるなんて全く信じられないが、探偵さんが調べたものだからまず間違いないのだろう。

しかし、父はその事実を頑なに否定した。「彼女とは仕事の関係上会っていただけで、やましいことは一つもない」と、いうのが父の言い分だった。父が頑として言い分を覆さないので母も仕方なく詮索を諦めた。きっと、まだ心のどこかで父を信じたい気持があったからだと思う。


 ぎすぎすした関係のままひと月が過ぎた。家中に重苦しい空気が流れている。もう元には戻れないんだと思ってた。「家族」として笑い合い、支え合っていた日々には、もう二度と・・・。それでもしょうがないんだと、諦めていた。あの少年に出会うまでは・・・。


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