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9. クレープ

「そう、メアリね。こんなところでどうしたの? もし親とはぐれちゃってるのなら一緒に探そうか? お家まで送ってあげてもいいよ」


 その瞳に未だ不安そうな光を湛えるメアリにルナが明るく言うと、メアリはおずおずと口を開いた。


「じ、実は私、アラン……お兄ちゃんと一緒に市場を見に来たんだけど、初めてだったから嬉しくなって、ついアランから離れちゃったの。それで思ってたよりも人がいっぱいいたから、迷っちゃったみたい」


 アランというのは護衛かなにかの名前だろう、とルナはメアリが呼び馴れない様子で兄と呼ぶことから判断する。

 言葉づかいも貴族とは思えない程砕けているし、とっさに護衛を兄と呼んだり言葉を変えたりと、見かけの年齢にしては頭の回転は速いようだ。外に出るのも初めてだろうし、もしかしたら言葉づかいも含めてこの日に向けて練習したのかもしれない。

 しかしそこまでしておきながらも護衛とはぐれてしまうあたりは年相応と云ったところか。

 ともあれ、ルナはこの少女は無害だと判断し、助けることにした。捨て置けなくなったと言うべきかもしれない。


「ふーん、なら私もメアリのお兄ちゃんを探すよ。一人じゃ寂しいでしょ? 一緒にお菓子でも食べようよ。おすすめのお菓子を教えてあげるから」

「え!? なんでそこまでしてくれるの? 悪いからいいよ、このまま一人でも大丈夫だし」


 あら、少し警戒されちゃったかな? そんなつもりはないんだけどなぁ……とルナは慌てて言葉を重ねる。それにこんな様子のメアリを一人にはしておけない。確実に誘拐されるだろう。


「うーんとね、私、孤児だからあまり同じくらいの歳の女の子の友達がいないの。だから、一日でもメアリにお話し相手になってくれないかなー……なんて」


 とっさに口をついて出たこのルナの言葉は確かに本心から出たものだった。

 孤児は同年代の普通の子供から対等に接してくれることはない。基本的に孤児の立場は弱く、ルナが友達と呼べる子供は孤児院以外にはいない。それに彼らとすら、ルナの精神年齢は前世がある分高いためにどこか浮いてしまうのだ。


 ルナ個人で言えば、それとなくお菓子のレシピを提供したり屋台の主人の子供の子守をしたりしていて、東の市の大人達には好意的に受け入れられているのだが、しかしそれでもやはり対等な友人というものがいないことに時折寂しさに襲われることがあった。

 なので少し話をしてみて見た目の年齢よりも賢く、精神年齢の高そうなメアリにルナは初めて同年代の友人となれる可能性を見出したのだ。


「えっ……?! ルナって孤児だったの? そうは見えなかったよ。まあ、それならいいかな? じゃあルナ、しばらく私の話し相手になってよ」


 メアリはルナが孤児だったということで意外そうな声を上げたが、そこに嫌悪や忌避、軽蔑といった負の感情はなく、あっさり承諾したことにルナは僅かに驚いた。


「え、いいの? だって孤児だよ? 汚いとか思わないの?」

「うん? だってさっきまで面と向かって話してたのに汚いだなんて思わなかったんだもの、ってことはルナは孤児だろうと汚くないってことでしょ?」


 きょとんとして心底不思議そうなメアリの答えにルナは今度こそ息をのんだ。

 メアリの懐は想像以上に深かったようだ。世間一般で信じられている偏見よりも自分の目で感じたことを信じるというのは、なかなかできることではない。


「……ありがと」

「ん? なに?」


 まだ不思議そうにルナの瞳をのぞきこむメアリに、ルナは僅かに顔を赤らめて照れ隠しするように強引に話を進める。


「なんでもないよ、じゃあ決まりだね。まずはあの屋台でお菓子を調達するよ。それから広場の真ん中で一緒に食べながらおしゃべりでもしてよっか。真ん中あたりなら探すのも楽だし、見つけて貰いやすくなるしね」

「うん、わかった。それはいいけどルナ、調達ってなにする気なの? 普通お菓子は買うものじゃないの? 盗みはよくないよ」

「違う違う、まあ見てなって」


 胡乱げな瞳でルナを見遣るメアリに肩をすくめ、ルナは市場に並んだ屋台の一つで売り子をしていたおばちゃんに声を掛けた。


「おばちゃん、久しぶり。儲かってる?」

「ああ! ルナちゃんじゃない、おかげさんで売上は上々だよ。今日はどうしたんだい」

「実は迷子を拾っちゃって。一緒にお喋りしながら保護者の人を待つつもりだから、クレープを二人ぶんもらえない?」


 ルナが訊くと、おばちゃんはルナの隣りにいるメアリを見て嬉しそうに破顔した。


「もちろん。ルナちゃんがお友達を連れて来るなんて今までなかったし、奮発してあげる。欲しければいくつでも作ってあげるわ」


 どうやらルナに友達がいないことは周知の事実だったようだ。そのことにルナは嘆息する。


「むう……友達はこれから増えるからいいもん。いつかこのお店が潰れるぐらいの友達を連れてきてやるんだから」


 ルナがむくれると、おばちゃんは吹きだして、メアリが同情の籠もった目をルナへ向けて励ますように肩を叩いた。

 ルナはますます落ち込んで肩を落とした。


「よ、よし、お菓子は貰えたし、真ん中に行こうか。お兄さん、メアリを探しているんでしょう?」

「そうだね」


 気を取り直したルナはメアリに貰ったクレープを渡し、一緒にアランとか言う護衛もとい兄に見つけてもらえやすそうな広場の中央付近に肩を並べて向かった。





 こんな素人の文章に2000pvに100人近いユニーク、14件ものお気に入り登録、ありがとうございます!

 基本的に書きたい事を書いているだけですが、これからもこの二人をできるだけ魅力的に書けるように頑張っていきたいと思います。

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