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54. 入学試験 2

本日2話目です。

入り口にあった受付で受験番号の書かれた紙をもらい、会場である講堂まで二人で歩く。

 魔術科の試験会場に到着し、2人でならんで座っていると、教卓の前に魔力測定のためのいくつかの水晶と、それぞれの水晶の前に試験官が座り、試験が始まった。


「8番、前へ」

「次、16番」


 次々と受験者が呼ばれ、スイカほどもある大きさの水晶に手をあてては、試験官が結果を紙に書いていく。

 測定は簡単に終わるもののようで、受験者の列はあっという間にさばかれていく。


「つぎ、126番」

「127番はこちらにどうぞ」


 測定はさくさくと進み、ついにルナ達の順番が来た。

 受験番号はメアリが126番、ルナが127番だ。公平さを示すために、試験官は受験者の名前を知らないようになっている。

 ルナが水晶に手をおいて、試験官の指示どおりに力をこめると、透明な水晶の中央に、拳ほどの大きさの黒いもやが生じた。


「規定以上の魔力あり。属性は闇か」


 試験官が呟きながら紙に結果を書き込む。

 記入した紙をルナに差し出しながら言った。


「会場から出て5番の部屋に入るように。そこで魔力操作の試験をする」


 どうやら魔力測定はクリアできたようだ。もとから心配はしていなかったが、それでも無自覚に緊張してしまっていたらしいルナは、ふうと息をはいた。

 礼を言って試験官から結果の書かれた紙を受け取り、メアリはどうだったのだろうと思ってとなりのブースを見る。


「え?」


 まず目にはいったのは、ぱっかりと割れた試験用の水晶。

 そして、その目の前でうろたえておろおろするメアリの姿だった。


「……ああ、なるほど」


 その状況をみて、一瞬で何がおきたのかだいたい察したルナは、そのまま試験官に指示されたとおり、会場の出口へ向かった。


「ちょっと、ルナ!?」


 背後から信じられないものを見たような声がしたが、いったいルナにどうしろと言うのだろうか。



 * * * * *



 結局、関係者が近くにいたと試験官にあからさまにほっとした顔をされ、逃げるわけにもいかなくなったルナはメアリからざっくりと事情を聞く。


「なるほど。メアリ様の魔力が多すぎた、と」

「そうなのよ」


 一見した推測どおりの事実に、ルナは思わず溜息をつきかける。

 まあメアリが貴族だということを学院側に伝えたあとであるため、そんなことはできないのだが。

 試験官によると、メアリはこれから魔力暴走の対策をした部屋で二次試験をするのだという。


「まあ、頑張ってください」

「ひどいわね!?」


 とはいえ、メアリの魔力の多寡などルナにはどうしようもないことだ。

 それに、こちらの素性は明かしてあるので、学院側もメアリに対してうかつなことはできまい。学院のスタッフに任せたほうがいいに決まっているし、それ以外にできることはない。


 無自覚ハイスペックも少しは自覚すればいいのだ、とルナはメアリを試験官にまかせ、さっさと自分が案内された会場へ向かった。



 * * * * *



 試験を終たあと。

 ルナが馬車のあるところまで戻ると、御者台で本を読んで待っていたアランが手を振って迎えた。


「ルナか。試験はどうだった?」

「合格しましたよ、多分」

「それはよかった……ところで、お嬢様の姿が見えないが、どうした?」

「それが、少々問題がありまして」


 ルナの返答に、アランはどうしたのだろうと眉をひそめる。ルナが平常運転の侍女モードなので緊急事態というわけではないのだろうが、ルナがメアリの傍を離れるのは珍しい。

 そんなアランに、ルナは魔力試験での出来事を手短に伝える。

 ルナからすべて聞いたアランは、納得したように一つうなずいた。


「なるほど。だから一度俺がいるところに来たのか」

「ええ」


 見かけはただの少女であるルナよりも、自警団を示す紋章を持つアランが直接迎えに行った方が、メアリにきちんとした庇護者がいることを示して抑止力になれる。

 ルナは外見であなどられることが多いが、それが求められることもあるので、そのあたりはまあ役割分担だ。


「ところで、驚かないのですね」


 あっさりと納得したアランの平静ぶりを不思議に思って、ルナがアランに尋ねる。試験官の反応からしても、計測不能な魔力というのはわりと衝撃的な知らせだと思ったのだが。

 御者台に立て掛けてあった剣を取りつつ、アランがさも当たり前のように答えた。


「まあなあ。あのお嬢様なら、充分ありえるだろ」

「……確かに」


 疑問はしてみたものの、自分もそこまで驚いていなかった手前否定できないルナである。


 アランが馬車を牽くゴーレム馬の背を二度叩いて休眠させた。

「すまないが、少しこの馬車を見ておいてもらえないか」と、隣の同じような馬車で煙管をふかしていた御者に声を掛けると、「あいよー! 自警団の兄ちゃん!」と威勢のいい声が返ってくる。

 それを聞いたアランはひとつ頷くと、ルナのほうに向きなおった。


「で、お嬢様はどこにいるんだ? 把握はしているんだろう?」

「そろそろ実技の試験が終わる頃だと思います。行きましょう、あの棟です」


 と、ルナはやや離れた所にある建物を指差す。

 アランがルナの示す方向を見た―――瞬間、まばゆい閃光とともに、ルナが指した建物の一角が吹き飛んだ。

 数瞬遅れてゴウン、という地鳴りのような低い音が二人の体を震わせ、隣の御者がぽろりと煙管を取り落とす。


「……………」

「……………」


 アランとルナはゆっくりと顔を見合わせ、ルナが緩くかぶりを振った。

 幸か不幸か、言葉にせずともおたがい意味は伝わる。『まさか、あれじゃないよな……?』と『残念ながら……』だ。


 メアリをよく知る者として、何が起きたのかをなんとなく察してしまった二人は、揃って深い溜息を吐くと、爆発のあった建物へと駆け出した。


プロットに影響しなさげな箇所を選んで前倒しで執筆しました。

本日中にもう1話投稿します。

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