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21. ドッキリ

 「さあやって来ましたドッキリイベント当日です」


 この日が楽しみで、ルナはいつもより早起きしてしまっていた。遠足前の子供か、と呆れてしまうが、中身はともかく体は子供だから仕方無いと自分を納得させ、作法の復習をして時間を潰す。


 そうしていると、すぐにジェフィードに呼ばれた。予定よりかなり早い時間だが、どうやらジェフィードもいつもより早く目が覚めたらしい。やはり二人は同類だった。

 それからメアリがどう驚くかの予想でジェフィードと話に花を咲かせた後、メアリの寝室に二人で向かった。


 ジェフィードが声を掛け、着変えるというメアリを待つこと数分、出てきたメアリはぽかんとして固まっていた。

 今だ!とルナは一歩前に出て、


 「お早う御座います、メアリ様。本日よりお嬢様付きの侍女を拝命いたしました、ルナと申します。よろしくお願い致します」


 とお辞儀をした。



(……決まったぁぁっ!)


 仕草、タイミング共に会心のお辞儀だった。ふははは、どうだ驚いたろう、とメアリを見るとメアリは何事かを呟きながら呆けている。

 ジェフィードが「誕生日プレゼントだ」と追い討ちをかける。さっきまで真面目な顔をしていたのはタイミングを測っていたためだろう。


 ルナは最早顔がにやけるのが止められない。見るとジェフィードも同じような状況だった。


 混乱しているメアリを眺めつつ、そろそろ終わりにしようとルナは計画通りに締めの言葉を放つ。名残惜しいがテンポというものを考えると仕方が無い。ぐだぐだになったドッキリほど気まずいものはないのだ。その点はジェフィードも完全に同意見で、ルナ達は締めの言葉まできっちりと考えていた。


「早速ですがお嬢様」

「は、はい。なんでしょ……なに?」


(や、やめて……! 私を笑い死にさせる気なの!? もっと続けたくなっちゃうんだけど……!)


 笑い転げる内心を必死に抑え、表情に出すのはにやりとした笑いに留めることに苦労するルナ。

 そして


「約束通りクレープを奢っていただきたく思います」


 やりきった……!という達成感とともにルナはメアリに言った。

 これはジェフィードとルナが今朝決めた今回のイベントの締めの言葉で、これを言えばメアリも頭が冷えるだろう、との判断からだ。



 ルナとジェフィードによるドッキリイベントは大成功であったのだが、この後、ルナが冷静になったメアリにジェフィード共々厳しく尋問&説教を喰らったのは言うまでもない。





「……とまあ、このような経緯でお嬢様にお仕えすることになった次第です」


 その後しばらくルナと共に怒られたジェフィードは仕事に戻り、残されたルナはメアリの私室のテーブルにメアリと向かい合い、クレープを上品に食べながら今回のあらましを説明をしていた。


 クレープは当然メアリの奢りである。


 東の市では手に入らなかった高価なフルーツを大量に買い、遠慮なく高い材料をふんだんに使わせて貰った。しばらく恨めしそうにルナを見ていたメアリも「私が食べちゃいけない理由はない」ということに気付いて先程からルナと一緒に食べている。

 メアリは最初こそルナの丁寧な言葉使いに抵抗を示したが、いくら言っても「メイドの美学です」とルナが譲らなかったため、しばらく話しをしている間に馴れたらしく、既にメアリは普通に話している。


「ルナは努力の方向が間違ってると思うわ……。あの挨拶だけを見たら、孤児がたった半月足らずで仕上げたなんてとても信じられないわよ。

 お父様も私の機嫌を取りたかったのなら事前に話してくださるだけでもよかったのに……」

「まあ旦那様も私も、途中から目的がお嬢様を『喜ばせる』から『驚かせる』に変わってしまっていましたから……。

 一体どこで間違ってしまったのでしょうか」


 恐らくルナが馬車の中でジェフィードに協力を申し出たときではあるのだが。

 あの場でルナが『サプライズ』という言葉にテンションを上げてやる気になったせいで、ジェフィードの悪戯心に火をつけてしまったのだろう。


 やれやれ、とルナが首を振ると、メアリは恨みがましい目でルナを睨む。

 そうかそうか、そんなに驚いたのね。でもそんなことしても可愛いだけだよ? とルナは余裕の表情でそれを受け流す。


 今回の経緯について、ルナはメアリに自分の行動からジェフィードの言葉までかなり詳細にぶっちゃけたので、最終的にメアリは大方の事情を把握することになった。

 結果、メアリからジェフィードへの『冷酷』やら『事務的』とかいう負のイメージを払拭できたようだ。


 代わりにジェフィードはルナと一緒にメアリから『羽目を外すと危険』と認定されたようだが。


「まあいいわ。ルナ、これからもよろしくね」

「ええ、こちらこそよろしくお願い致します、お嬢様」


 またルナと一緒にいられることに心底嬉しそうなメアリに、自分の『メイドの美学』にしたがってクールな表情を崩さないルナが返事をする。

 こうしてルナの侍女ライフは幕を開けた。









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