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2. 保護

 少女――というより幼女――が目が覚ますと、見なれた灰色の低い天井とは違う、白い高い天井が目に入った。


「………ッ!」


 あわてて飛び起きて周囲を確認し、危険はないか確かめようとすると、ベッドの脇からのびてきた手が少女の肩を押さえてベッドに押さえ付けた。


「―――っ!」

「暴れないで、落ち付いて。ここは安全よ、わかる?」


 少女はとっさに抵抗を試みたが、自分を抑え込む手が予想以上に緩いことと、こちらをいたわるような女性の声音に多少の落ちつきを取り戻し、声の主を見た。


 巨乳だった。


 あ、これ倒れる前に見えたやつだ。と、その圧倒的存在感に少女は一瞬で頭が冷えて自分の置かれた状況を把握する。


 完全に冷静になった頭で周囲を今一度見ると、白を基調とした室内に窓枠上部のステンドグラス、また壁際の煖炉に置かれた小型の2対の羽の生えた天使像が見えた。

 どうやらあの白い教会のような建物の中のようだ。


「ここは………?」

「ここは孤児院よ。あなたはここの門の前で倒れていたの。あなた、お名前は?」


 疑問の声に、ベッドの脇に座っていた巨乳……女性が答えた。部屋を見わたす時にすら、どこを向いても視界のどこかで自己主張している二つのメロンにもいい加減慣れてきた。

 少女はここにきて初めて胸から目を逸らして顔を認識したが、ゆるくウェーブのかかった長い桜色の髪に小豆色の目をしたおっとりした雰囲気の美人さんだ。

 修道服のようなデザインの服を来ているし、部屋の内装から判断しても、教会かなにかに併設されている孤児院なのだろう。


「……ルナ……です」

「そう、ルナちゃんね。私はここの院長のカリーナ。ルナちゃん、まる2日眠ってたのよ。心配したわ」


 少女――ルナは自分の頭ほどもある乳を思わず凝視しながら名乗ったが、のほほんとしたカリーナはそれに気付かず心から目覚めて嬉しいとばかりに、花が開いたように微笑みながら顔を覗き込んできた。


 近付いてますます強調されるこの二つの物体はなんなのだろうか、嫌がらせなのか、と自分の平坦な胸元をつい見やって世の無情をかみしめるが、そもそもまだ八歳なんだから希望はある、とルナは自分を鼓舞する。

 したところでどうなるわけでもないのだが。


 しかし、カリーナの話に少々聞き逃せない内容があった。二日も眠っていた?それなら自分がいたあの場所はどうなったのだろうか。


「二日も……ですか?」

「そうよ、二日。ルナちゃんもその傷……いろいろあったんだろうから、疲れていたのよ。ゆっくり休んでね」


 カリーナはルナの寝ている間に包帯を巻かれたのだろう腕を見て、痛ましそうに顔を歪める。なんだか久しぶりにまともな感性の人と話した気がする。

 自分の周りには変人ばっかりだったからなー……とつい過去形で考えたところで、彼らも一緒に襲撃を受けたことを今更ながらに実感して青ざめる。

 どさくさに紛れて自分だけ脱出してきてしまったが、皆は無事だろうか。


「あの……」

「ん、何?」

「私が眠っている間、何かありませんでしたか?迎えが来るとか……」

「……いいえ、なかったわ。何があったかは聞かないけれど、もし怖い人に狙われているのなら守ってあげるから安心してね」


 ルナの腕の傷になにかを察したらしいカリーナが、安心させるように頭を撫でてくる。


 しかし、何の音沙汰もないとはおかしい。彼らの捜索も襲撃者達の追手もないということは逃亡だけは成功したのだろうが、襲撃の顛末がわからないのは不安だ。

 とまれ、生き残れたのは幸運だった。しばらくはここでゆっくりさせてもらおう。



「……わかりました」

「この話はあとにしよっか。まだ疲れているでしょう、今はとにかくゆっくり休んでね」


 そういってカリーナは部屋から出ていった。




「………さて、これからどうしようか」


 部屋に一人になって、いつの間にか癖になりつつある独り言が口からもれる。

 今までの居場所だったあの場所はあの調子だともうなくなっているのだろう。

 帰りたいとも思わないが。


「あれ、これ私、自由じゃない?」


 自分を縛っていた(しがらみ)は先日の襲撃で消え去った。もしかしたら自分は怪我させられたことは置いておいて、彼らに感謝してもいいのかもしれない。


「ってことは今までやりたかった料理改革とか前世の知識で転生チートができる……と?」



 ―――そう、『前世』。ルナは現代日本で17歳まで生きていた記憶を持っている。つまり永遠の17歳なのだ。違う。


 今のルナが意識を持ったのは3才の時、両親のどちらにも黒髪黒目がいなかったことが原因で、身に覚えのない不貞の謗りを受けた母親が錯乱し『ルナ』に毒を盛った時だった。

 むしろよく三年も持ったものだ、と後のルナが殺されかけていたにも拘わらず同情してしまう程にひどい扱いを母親は受けていた。


 その時に『ルナ』は死に、現代日本でストーカーに刺されて死亡した女子高生、『志賀月海(しか つくみ)』がその身体に宿った、と今のルナは認識している。

 『ルナ』の肉体に入り込んだ『月海(つくみ)』は、幼かった上に死に掛けていた彼女の記憶を引き継ぎつつ、自動的に意識の主導権を握ったようで、自分の中にかつての『ルナ』の意思のようなものは感じ取れない。

 多少は記憶などで影響を受けているだろうが、あくまでも思考の主体は『月海』にある、とルナは認識していた。



 まだ見ぬ明日に期待をふくらませ、ルナが一人テンションを上げていると、ふと先ほどのカリーナとの会話を思い出した。


「そういえば、ここって孤児院なんだっけ。

 雰囲気からして私を保護してくれそうではあるし、もし申し出てくれたらここでお世話になろうかな………いや、でもどう考えても私、厄介ごとの塊だよね……?」


 怪我をして門の前に倒れていた子供、しかもさっきは子供の演技をする余裕もなくて普通に素で喋っていた。8歳児にしては静かすぎではなかっただろうか。

 そんなことも考えながら、一人ベッドの上に残されたルナが今後のことに考えを巡らせていると、いつの間にか再び眠りに落ちていった。







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