表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/57

19. 雇用、そして結託

PV1万アクセスを超えました!

ありがとうございます。

「なんとも妙な条件だが、本当に君はそれだけでいいのか?」


 孤児達とのお別れを多少ばたつきながらもつつがなく終えたあと、帰りの馬車でルナとジェフィードは雇用契約の内容を確認していた。

 その場でルナは、ある『条件』をジェフィードに伝えた。


「はい。ただ一人に忠誠を誓う、なんて格好いいじゃないですか。実は私、こういうのに憧れてたんですよ」


 そう無邪気に目を輝かせて言うルナをジェフィードは苦笑しながら見る。


「まあ君がそれでいいというならいいか。だがこれからもなにかやって欲しい事があったら私に言うといい。できる範囲で協力してあげよう」


 よし! とルナは内心でガッツポーズした。


 ルナがジェフィードに提示した条件は、『ルナの雇用主はメアリ・スーリヤ個人とし、報酬の全てはメアリから支払われる』というものだ。

 当然ながらメアリがルナを養うことはできないため、ルナの給金はスーリヤ家がメアリに譲渡したものをルナに支払うという形にしてもらった。ルナはメアリには仕えても、『スーリヤ家』に仕える気はなかったからだ。

 これでルナはスーリヤ家ではなくメアリ個人に仕える形になる。



 雇用契約の内容がまとまり、馬車が下町から出て窓の外にちらほら貴族の屋敷が見え始めた頃、ジェフィードがおもむろに口を開いた。


「さて、君は我がスーリヤ家についてどこまで知っている?」


 どうやら道中、ルナにメアリの家について解説してくれるらしい。スーリヤ家についてはルナはあまり知らなかったため、ありがたく当主直々のスーリヤ家講座を受けることにした。


「いえ……すみません、全くといっていい程知りません。何をなさっているのですか?」


 自慢気に語りはじめたジェフィードの解説によると、スーリヤ家は代々治安の維持を目的に動いていた子爵家で、3年前に大きな功績を上げ、それまでの功績と共に伯爵位をもらったとのことだった。

 驚いたことに、3代前の当主が設立した自警団まであるらしく、手練揃いだと伯爵は胸を張る。


「普段は軽装備で街を定期的に巡回している。特に市が立つ日は必ず廻っているからルナ君も見たことはあると思うがな。私も当主になった5年前までは所属していた」


 市場でよく見た数人の妙に統一された装備を着た一団のことだろう。とルナは当たりをつける。てっきり市民のボランティアかなにかだと思っていたが、スーリヤ家の自警団だったらしい。

 その後、どこかスイッチが入ったらしいジェフィードに延々と彼の自警団時代の武勇伝を語られることになった。


「私は5年前に父からスーリヤ家当主の座を継いだんだ。私は、自警団の正式装備としての剣を定めてそれまで自警団といっても平民の……言い方は悪いが、そこそこ強いだけの烏合の衆だった当家の自警団を、自警団の正式な装備を定め、実質的にスーリヤ家の私兵扱いにすることで組織だった正式なものにした。代償は高かったがね」

「代償?」

「ああ、当時の国王陛下にお伺いを立てた時、条件として騎士団と共同である犯罪組織の摘発を命じられたんだ。それまでは無償の奉仕活動の様なものだった自警団だが、スーリヤ家の私兵扱いにするとなると多少問題があるからな」

「特定の家の私兵が王都を巡回することになる……ですか」

「そうだ、よくわかったな。流石にそれは何の条件もなしに承認できるものではなかったから、ある程度戦力を減らしておこうと先王陛下はお考えになられたのだろう。建前としてはその組織に対抗するための私兵として扱いを認められたことになった」

「成る程……で、その犯罪組織とやらとはどうなったんですか?」

「ああ、騎士団と共同だったとはいえ一筋縄ではいかない相手でな。2年かけて十分な準備をして摘発作戦を実行したんが、その組織の壊滅と引き換えにこちらにも甚大な被害が出た」


 ジェフィードは痛ましそうな顔で黙り込む。一方、ルナは別の理由で沈黙していた。


(まさかメアリの実家がウチの壊滅の片棒を担いでいたとは……)


 5年前に命じられ、2年の準備をして挑んだ、つまり3年前の摘発作戦。それに、ルナのいた施設を襲撃した者のうち半分ほどが持っていた剣にあしらわれていた紋様は蓮の花、そしてスーリヤ家の家紋は、ジェフィードの服にも刺繍されている蓮の花だ。その犯罪組織というのはルナのいた場所で間違いないだろう。


 あの蓮の剣を持ったやつら、個々の強さは騎士団には見劣りしてたけど連携は抜群だったもんなー。そりゃあ強いって自慢できる訳だわ。と思わず遠い目になるルナ。


 そうすると一応目の前にいるジェフィードは仇になるのだろうが、そもそもあの場所は所詮裏組織だったのだし、別にルナ個人はスーリヤ家には何の恨みもない。

 むしろ平和な日常を手に入れられて感謝すらしている。


「『暁の槍』でしたか。あそこには昔お世話になったことがあります、ありがとうございました」

「……知っていたのか、君も大変だったんだろう。何があったかは聞かないが、君を苦しめたであろう『暁』はもうない。昔のことは忘れてこれからを生きるといい」

「はぁ……」


 因みにスーリヤ家側では把握できていないことだったが、この作戦で『暁の槍』の主力はスーリヤ家の自警団を見て「強い相手と戦いたい」というアホな理由で、ほぼ全員逃げることなく応戦し全滅していた。下級構成員もその大半が死亡し、ルナが生き残ったのはただの幸運だった。


 曖昧な相槌を打つルナに、ジェフィードは目の前のこの娘も『暁の槍』の被害者だったのだろうと察して口を噤み、気を紛らわせるようにさらに武勇伝を語り始めた。

 ルナとしては暑苦しいそれに余計にげんなりするだけだったのだが。




「……そういえば、なんでこんなに急いでるんですか?」


 ジェフィードの自慢話が四話目にさしかかった時、流石にうんざりしてきたルナは話題を変えようと、先ほどから疑問に思っていたことをジェフィードに尋ねてみる。

 訪ねてきたその日にルナを引き取るなど、いくらなんでも性急ではないだろうか。孤児院を訪ねるためにわざわざ馬車のグレードを落とすような配慮ができる人の行動とは思えなかった。


 そう言うと、ジェフィードは何故か気まずそうにしながら口を開いた。


「実はな、今日娘はパーティーに着るドレスの採寸のために遅くまで家にいないのだ」

「……?」


 ルナはジェフィードの言っている意味が分からずに頭の上にハテナマークを浮かべる。それがどうしたというのだろうか。


「今回君を雇うことは完全に私の独断でな。だから君のことは……その……こう言うと不快に思うかもしれないが、サプライズの誕生日プレゼントのつもりでいる」


 なるほど、とルナは納得した。どうやら彼はルナのことをある意味もの扱いしていることに罪悪感があったらしい。

 しかし、


「素晴らしいお考えです! 私も協力します。いえ、させて下さい!」


 その程度のことを気にするルナではなかった。そもそも3歳の時に親に売られているのだ、モノ扱いなど今更である。

 そんなことよりも、そういう楽しそうなことするんだったら是非自分も混ぜて欲しいとすら思っていた。


 ルナは前世からこういう無害なドッキリみたいなのが大好きだ。

 「美人というよりイケメン」やら「制服のスカート着てるとどう見ても変態」やら散々言われていた前世では、ルナは男装して合コンに行ったり幼馴染(女)の家に遊びにいって彼女の両親に「お嬢さんを私にください!」とか言ったりしていた。


 因みに合コンでは誰よりもモテていた。女子に。そして幼馴染の家では「娘を宜しくお願いします……!」とノってきた彼女の両親に真面目に返され、幼馴染があわあわしていたのが面白かったのを覚えている。


 ともあれ


「私は何をすればいいんでしょうか? 大きな箱に入って贈られる、とかベタですが面白いと思います!」


 いきなり身をのりだして拳を握り熱く語りだしたルナに、ジェフィードの護衛として一緒に馬車に乗っていたアランが若干引いている。

 彼も一応このサプライズに協力しているようだ。


 しかし、


「おお、わかってくれるか。しかしそんな演出は必要あるまい。

 君が協力してくれると言うのなら、これからパーティーまでに侍女としての振る舞いをある程度覚えてもらいたい。パーティーの翌日に君とメアリを引き会わせるつもりだ」

「なるほど、最初から一貫して侍女として振る舞うことで、メアリの想像の中の『ルナ』のイメージとの差を作ってメアリを混乱させようというわけですか。

 なんと質の悪い……!」

「ほう、即座に理解するとはなかなかやるな、その通りだ。では協力してくれるかね……?」

「ええ勿論ですともスーリヤ伯爵いや当主様。友人でありこれから仕える主でもあるメアリの笑顔のため、精一杯努力させていただきます」

「有り難い。ではその日が楽しみだな。くくくく」

「そうですね。ふふふふ」



 このとき、身分も世代も越えて共犯者となったルナとスーリヤ伯爵を諌めることができるものは、アランも含めて残念ながら車内にはいなかった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ