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12. はじめてのおつかい

ルナのメイド服姿が遠い…

 メアリが張り切って買い出しを開始したその数時間後、広場にはどこか遠い目をしたルナと大はしゃぎしているメアリの姿があった。二人の前には大量の食材とその他諸々のおまけが山と積まれている。


「どうしてこうなった……!」


 結論からいうと、メアリの「はじめてのおつかい」は大成功だった。

 具体的には、幼い金髪の天使のあどけない笑みに、肉屋のお姉さんも魚屋のおじさんも駄菓子屋のおばあちゃんも全員が陥落した。

 緊張しながらも品物を差し出して懸命に値切り交渉し、成功すると嬉しそうにはにかむその表情が皆の琴線に触れたらしく、大量のおまけを貰っていた。


 その上、後半になってくるとメアリも自分の置かれた状況を理解し、それすら利用し始めたので質が悪かった。

 持ち前の飲み込みの早さで初めから普通に交渉できていた上、ちょっと上目遣いでもじもじしながらの「お願い……」のコンボは最強だった。このあたりからルナが遠い目になったのも仕方ないだろう。

 結果、メアリは通常の二倍近い商品を獲得することに成功していた。


「これ、どうやって持って帰ろう……」

「……なんか妹がごめん。あまり多すぎても困るだろうから、一部はウチで買い取るよ。残りも運ぶのを手伝おうか」

「よろしくお願いします、アランさん」


 結局この日の戦果は、戻ってきたアランが孤児院まで運ぶのを手伝う事になったのだった。因みにその間メアリは、なまあたたかい目で見るルナとアランの二人の視線にも気づかず、興奮してにやにや笑っていた。



 それからメアリがわざと演技をやっていると市の皆にバレるまでの数週間、東の市でのメアリの快進撃は続いた。

 孤児院では東の市の立つ日にはごちそうになり、ルナの話に登場するメアリは神格化されかねない勢いだったという。



「じゃあメアリ、今日は魚をお願い。私は野菜を買ってくるね」

「わかったー。何か気をつけることある?」

「うーん、魚を売ってる漁師さんはよく見極めること、ぐらいかなー。この時期はたまに面倒臭い人も出るから。人間観察の仕方は教えたでしょ?」

「うん、大丈夫」


 自信満々に首を縦に振るメアリ。微妙に不安になるが、ルナは別の安心材料があるため問題ないと思っていた。


「まあ冒険者のアランさんが付いているから面倒事係は大丈夫だと思うけど」

「えっ、あ、うん、そうだね」


 ルナ(表)はアランは冒険者だと思っているのだ。

 それからも、値切り交渉が楽しいからとメアリがルナのアドバイスを受けながら買い出しのお手伝いをする光景が、東の市で見られるのだった。




 数カ月後


「はい、今日の分のお肉とお釣り。ふふん、どうよ」


 誇らしげにメアリはそのふくらみはじめた胸を張る。ルナは差し出されたお釣りの額を見て苦笑いした。


「うわぁ、今日もまあえげつないレベルで値切ったわね……肉屋のおねえさん泣いてなかった?」

「いや、涙目だったけど泣いてはいなかったわよ」

「南無」


 この数ヶ月でメアリはルナの教えを吸収し、商人顔負けの交渉スキルをゲットしていた。もとから貴族故か金銭感覚が少しズレていた上、ついでとばかりにルナが商品の原価や品質の良し悪し、交渉相手の見極め方などを教えたせいでさらにレベルアップした。

 最初は見る人をほっこりさせる無垢な金髪天使だったのが嘘のように、今では的確に赤字ギリギリのえげつない値切りをさせる店員泣かせの手腕を発揮するようになっていた。貴族ゆえの金銭感覚のズレのせいか、赤字にさえならなければお店は大丈夫だと思っているらしい。最近ではその金髪を見掛けた時点で警戒体制になる店もあるという。

 その噂を聞いてどうしてこうなったとルナは頭を抱えたが、そもそもの原因はルナである。メアリの影に隠れて目立たずにちゃっかり安く買っていくルナも大概だとメアリは思っていた。つまりはどっちもどっちだった。


「じゃあ人間観察でもしようよ。ルナが教えてくれたあれ、結構面白いね。それともこないだの歴史の話の続きをする?」

「あーごめんメアリ、そろそろうちのチビ達のご飯を作らないといけないのよ。もう帰るねー」

「むぅ……わかったわ。じゃあ、また来週」

「うん、また。……あ、そうそう、もう秋になってきたし、来週は前に言った私のここの市場で一番のお気に入りの場所に連れていってあげるよ」

「え、ほんとに!? ありがとう、楽しみにしてるね」

「おうよ、じゃあ、またー」


 不機嫌そうな表情から一転して期待に目を輝かせるメアリに手をふり、今週の(主にメアリの)戦利品を両手に抱えて、ルナは孤児院へと帰った。







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