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第一話 最悪な朝

復活しました。よろしければ見て行って下さい。

 ―――第七感(セブンズセンス)

 それは日本と北朝鮮の軍事問題を皮切りに始まった、後の世に『終わり無き戦争(エンドレス・ウォー)』と称されるようになる史上最悪の戦争(・・・・・・・)、第三次世界大戦終盤に初めて確認された人類の新たなる可能性。

 かつては超能力や気、魔法などと称されていた異能の力は突如として一部の人間たちに発現し始めたのだ。人間の五感―――視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚に加え、第六感(シックスセンス)に次ぐ、より高次の能力はあっと言う間に世界中に浸透し、世界中の研究機関がこぞってその能力の研究に勤しんだ。

 その結果、泥沼化していた第三次世界大戦はなし崩し的に終結。各国は互いに平和協定を結ぶことにより戦争は終わりを迎えた。

 なにせどの国も戦争により少なくない被害を受けており、疲弊し切っていたのだ。第七感(セブンズセンス)の研究に打ち込んで、と言うのは半分は建前であり、本音としては一刻も早くこの戦争を終わらせる打ち所(・・・)を探していたのである。

 その意味においては、この第七感(セブンズセンス)世界を救った力(・・・・・・・)と言えるのかもしれない。




 今現在、俺の目の前には一人の男がいる。

 キリリと鋭い瞳は凛々しさを体現し、乙女のハートを一瞬にして虜にしてしまうだろう魅力を秘め、不機嫌そうだが端整な顔立ちは道行く人々がうっとりと見蕩れるであろう。まさに光源氏も裸足で逃げ出す美少年。

 男の名前は宵月(よいづき)悠夜(ゆうや)。そう……この絶世の美少年とは鏡に映る俺のことだったのだ!


 …………すまん。嘘付いた。俺そんな美少年じゃないし。ついでに言えば自画自賛するほど自意識過剰じゃないし。そもそも、鋭い目付きは鋭すぎて人々が怯え、女が泣いて子供も泣いてその反応に俺が泣く。顔立ちは……まぁ、可もなく不可もなくと言った所か。

 ぶっちゃけ不良にしか見えないな、うん。

 そんな俺が真新しい制服に身を包み、仏頂面を晒しているのはさぞかしシュールなことだろう。俺自身そう思う。更に付け加えるのなら、俺の身に着ける制服がそこら辺にある学校のものではなく、限られた限られた一部の人間にしか入学を許されない“とある学園”のものならばなおのこと、である。


「はぁ……なんで俺がこんなことをしなきゃならねぇんだか」


 とは言え愚痴ってばかりではいられない。この上なく面倒くせぇが、俺にはやらなくてはならない仕事があるのだ。できることならやりたくない。叶うならば何処ぞの誰かに押し付けたい。って言うかそもそも何をトチ狂って俺を、よりにもよって(・・・・・・・)この俺にこの仕事を持ってきたのか甚だ理解に苦しむところだ。

 ―――いや、そもそもの話、あの狂人女の考えることを理解しようと言うのが無理な話か。今すぐに断ち切りたい縁ではあるがあの女と俺は残念ながらそれなりに長い付き合いがある。が、俺があの女のことを理解できたことなど初対面から今に至るまでただの一度もない。


「はぁ……」


 二度目のため息。これから俺がやらなければならない仕事のことを思うとどうしてもため息がでる。気分は憂鬱。調子は絶不調だ。

 そう言えばため息を吐くと幸せが逃げると聞いが、ため息を吐く前に既に幸せが二百光年ほど先に行ってしまっているのだからどうしようもない。


「―――何を朝っぱらから不景気な顔をしているのかしら?」

「―――テメェのせいだろうがよ、腐れ女」


 突如として聞こえてきた幼い少女の声にありったけの呪詛を込めて精一杯のラブコール。……自分で言ってて気色悪いな、コレ。冗談でも止めとこう。


「あら酷い。これでも私、貴方の『母親』なのよ?」


 クスクスと外見不相応な上品な仕草で笑みを浮かべる外見幼女の女。日本人形みたいな見た目だが、中身はババア。一応念のために言っておくが、俺は二桁の年齢になった女は皆年増、とかそんなペドとかロリコンとか言う人種ではない。

 実際に、言葉通りの意味で、この女は外見と中身が釣り合っていないのだ。それはコイツの能力―――第七感(セブンズセンス)が起因するのだが、まぁそれは別にいいだろう。面倒だし。


「テメェが俺の母親だと言う事実に今俺は猛烈な吐き気を催してるんだけどなぁ……!」


 俺の呪詛の言葉はさらりと受け流され、この女―――時統(ときとう)(めぐる)はマイペースに口を開いた。


「それより悠夜。登校準備は終わっているのかしら?」

「俺を誰だと思ってやがる。とっくの昔に終わってる。…………俺の未来も終わってるがな」

「それは感心。それじゃあ早速行きましょうか」

「………………ああ」


 皮肉を込めた俺の言葉は何事もなかったかのようにスルーされ、少々釈然としないが時統の言葉に不承不承頷いて、着替え等を詰め込んだ大きめの鞄を持ち上げ玄関へと―――って、ちょっと待て。


「なぁ、時統」

「何かしら?」

「何故か俺の家の玄関の扉がぶっ壊されてるんだが?」

「ええ。最初は鍵を開けて入ろうとしたのだけれど、鍵が見付からなかったから強引に開けさせてもらったわ」

「そうかそうかつまりこれは俺の見間違えでも幻覚でもなくテメェがやったことか……―――死ねやコラァッ!!」


 溢れ出る怒りのままに時統目掛けて拳を突き出す―――が、俺の拳は虚しく空を切るだけで肝心要の時統の姿はそこにはない。

 しかしそこは俺も予想済み。背後に生じた気配を頼りに回し蹴りを放つが、それもまた誰もいない空間を薙いだだけだった。


「頭は冷めたかしら?」

「誰のせいだと思ってやがるッ!」

「それは勿論―――このオンボロ一軒家のせいよ」

「テメェのせいだろうがああああああああああッッ!!!」


 っつか確かにオンボロ一軒家だけど! そうも簡単に人の家を貶すなよ! ってかその前にそもそも壊すなよ! 数少ない俺の癒しの空間なんだぞ。数年も暮らして愛着がある愛しの我が家なんだぞ!


「朝から元気ねぇ。あっ、もしかして今日が楽しみで眠れなかったのかしら。駄目よ、幾ら貴方が一日どころか十日は徹夜しても問題ないからって、疲労は蓄積されるのだから」

「テメェ……ッ!」


 落ち着け。Coolになるんだ、宵月悠夜。可能なら今すぐにこのクソ女をぶち殺してやりたいところだが、ぶっちゃけそれは不可能だ。やるだけ時間と労力の無駄なのだ。

 この女の戯言に付き合うだけ疲れるだけだと今までの不本意な経験から分かってるだろう? よし落ち着いた。


「……もういい加減疲れた。さっさと要件を言え、要件を」

「連れないわねぇ……」


 無視だ、無視。


「まぁ、いいわ。それじゃあ早く行きましょう。表に車を待たせてあるわ。無駄に時間も使ったことだしね」


 だから誰のせいだと―――いやいや、無視だ。スルーするんだ、俺。

 此処数年で培った俺のスルースキルと忍耐力はこの程度で揺らぐことはないはずだ。俺はやれば出来る子なのだから。

 こちらの内心など端から考える気もないのか、時統はくるりと俺に背を向けて随分と開放的になった玄関から外へと向かう。キチンと靴を履き替えている辺り、最低限のマナーはコイツにもあったらしい。甚だ意外である。

 不機嫌そうな面のまま、俺も時統の後へと続く。


「これから先貴方は寮生活で此処に戻ってくることはないわ。……いいえ。もしかしたらもう二度と戻ってくることはないかもしれない。これが最後になるかもしれないから、何か一言言っておいたらどうかしら?」


 不意に時統が振り返り、そんな訳の分からないことを言ってきた。

 意味不明の言葉に眉間に寄った皺を倍の数に増やして睨み付けるが、時統は相変わらず何を考えているのか分からない表情で真っ直ぐに俺を見詰めていた。

 本職のヤーさんでさえ怯ませるやや本気の『にらみつける』を真正面から受けて平然としていられるのはコイツを含めてそう多くはない。しかもそいつらは揃いも揃って俺にとっての最悪な奴らなので手に負えない。

 日常においてまるで役に立たないどころか支障をきたすレベルなのでこういうところで役に立って欲しいものなのだが、なかなかどうしてままならないものである。


「……別に必要ねぇよ。どうせ仕事が終われば戻ってくるんだしな。俺の家は―――俺の居場所なんて此処ぐらいなもんだろうが」


 コイツの意味不明の言葉に答えるのも癪だが、答えないと話が進みそうにない上に後々面倒くせぇことにしかならない。ので、偽らざる俺の本音を答えてやった。まぁ、そんな大層なものでもないのだが。

 街から離れたボロボロの我が家。廃屋にしか見えないが中はそれなりに清潔だ。中にある家具もオンボロで現代社会にあるまじき環境だったが、この家が俺のいるべき場所なのだ。

 本来ならこの家から一歩も出たくはないところなのだが。


「……そう。ならいいわ」


 俺の返答に何を思ったのかは分からないし分かろうとも思わないが、時統は指をパチンッ、と鳴らして再び俺に背を向けて歩き出す。これ以上話すつもりはないらしい。俺としてもコイツと会話を続けるという苦行を続けるつもりはないのでありがたいのだが。


 ―――時統と俺の背後で、破壊された玄関が綺麗に元通りになっていた。



 最新式の超高級車だからなのか、それとも運転するドライバーの腕がいいのか、あるいはその両方なのか。どれでもいいが車内には全くと言っていいほど揺れを感じない。

 この俺をしてここまで揺れを感じさせないとなると、なかなかできることではない。

 なんて、どうでもいいことをつらつらと考えるのを一度中断して、手元の資料に視線を落とす。


「繰り返しになるけれど、その資料に写っている写真の二人が今回の貴方にとっての重要人物―――護衛対象(・・・・)よ」

「世界を股に掛ける大手企業にして日本の名家、九重(ここのえ)家の御令嬢……ねぇ」


 資料に添付された写真に写る二人の少女。吊り目がちで勝ち気そうなのが姉の桜華(おうか)。垂れ目で気の弱そうなのが妹の舞華(まいか)。双子だけあってどちらもよく似通っている。それに世間一般から見てかなりの美少女である。俺はどうでもいいが。

 ついでに言えば資料に記載されている二人のプロフィールにはスリーサイズまで載っている。それによれば姉より妹の方がサイズは上らしい。何が、とは言わないが。


「セキュリティも万全な『(ひいらぎ)学園』に通わせる上で更に護衛まで付けるとか……過保護にも程があるんじゃねぇの?」

「それもあるわね」

「あるのかよ」

「でも、学園のセキュリティだけでは安心できない、と言うのは理解できるわ。資料にも書いてあるけど、その二人は特別なのよ。そのおかげで、厄介な連中に目を付けられる程度には、ね」

「だったら益々人選ミスだと思うがな。よりにもよって俺を護衛に選ぶか、普通? お前も知ってんだろうが俺は―――」

人間嫌い(・・・・)人間不信(・・・・)、だったかしら?」


 そう、俺は人間が嫌いだ。ついでに人間不信も患っている社会不適合者なのである。そんな俺に『人を護れ』とは随分と皮肉の利いている。

 そもそも、である。俺は目付きこそ悪いが見た目はどう見ても高校生ぐらいにしか見えない。その俺を護衛に、とは依頼主もよく許可したものだ。


「それも資料にも書いてあるけど、過去にも二人に護衛を付けていたのよ。どれもすぐに解雇されていたけど。その二人、護衛を付けられることを嫌っているようね。……まぁ、周りに黒服のボディガードが四六時中張り付いていたら追い出したくもなるでしょうね」

「んで、何で俺になるのかの疑問については?」

「あら、不満かしら?」

「当たり前だろうが。俺は第七感(セブンズセンス)持ってないんだぞ(・・・・・・・・・)


 柊学園は第七感(セブンズセンス)を持つ少年少女のための教育機関。この学園に通う生徒は皆ただ一人の例外もなく第七感(セブンズセンス)を持っている。逆に言えば、第七感(セブンズセンス)を持っていることが、この学園に入学する最低条件なのだ。

 翻って俺はその第七感(セブンズセンス)を持っていない。つまり、入学に必要な最低条件すら満たしていないのだ。学園のカリキュラムには当然だが第七感(セブンズセンス)に関するものが含まれている。中には第七感(セブンズセンス)を使用する授業もある。この時点でもう詰んでいる。

 それにバレたら即退学なのは間違いない。そもそも何をどうやって俺が入学できたのか。そこが今なお謎なのである。


「そこはまぁどうにかしなさい」

「おい!」

「それにもう遅いわ。―――だって、もう到着したもの」


 時統の言う通りだった。

 車の窓から見えるのはまだまだ真新しい白亜の建物―――国立柊学園。第七感(セブンズセンス)を持つ少年少女のみが入学を許可され、それぞれが自身の能力を研鑽するための施設。

 俺がこれから先神経を擦り減らして通い続けなければならない場所。こうして見ているだけで憂鬱な気分になる。


「それじゃあ私はこれから用事があるから失礼するわ。入学式には遅れないように―――それと、護衛対象の二人に貴方が護衛だとなるべく悟られないように静かにひっそりと。……大丈夫よ。貴方ならできるわ。少なくとも私はそう信じているから、頑張って」


 俺が途中で口を挟む間もなく言いたいことを言い切って、時統は車と共に去って行った。

 後に残ったのは荷物片手に立ち尽くす俺。これから寮に荷物を置いて、それから入学式だ。まぁ、『入学式』と言っても何かやらなければならないわけではなく、講堂で席に着いて学園の教師やら理事長やらの話を聞くだけだ。


「はぁ……行くか」


 ため息を一つ。俺は荷物を置くために寮へと向かって歩き出した。


感想など、いつでも待ってます。

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