プロローグ
揺れの中で目が覚める。
目を開くが、見慣れない天井があるだけだった。
しかし側から聞こえるのは聞き慣れた声だった。
「兄さん起きて、そろそろ着くから。」
「おう、分かった。」
揺れていたのは和沙が起こしてくれていたかららしい。
2日ほどの浮浪バスの旅もやっと終わりが近づいてきた。
もうすぐ学園都市に着くらしい。
<原獣>
そう呼ばれている生物の突然変異種の登場によりヒトはその生存圏の多くを奪われた。
小さな個体ですら3~5m、大型の個体で20m以上になる。
また世界には数体確認されている特異型には100~600mになるこたいすら存在する。
異常なまでに発達した鱗や甲羅、強靭な筋肉、強い繁殖力。それらに対抗し得る手段など当初の人類にはなかった。だから、ヒトは逃げたのだ。移動型都市を形成し資源から資源へと移動し逃げて行った。
移動には早くとも3ヵ月、時には1年以上も荒野を巡る。
その道中に原獣に遭遇することも少なくない。
そこで、それら原獣に抗戦するのが<征伐者>とよばれる者達だ。
原獣とほぼ同時期に生まれ始めた彼らは各々が特殊な能力を持ち、高い身体能力も獲得していた。
彼らが成長しいくつもの世代を越えた現在、ヒトはある程度の安定を得始めていた。
それでも特異体に出会えばその都市はほぼ確実に壊滅する。
ただ敵は原獣だけじゃない。さらに厄介なのは人間だ。
「他者を潰して資源に余裕を作る」そんなふざけた理論を立てて都市間戦争なども起こっている。
そうそう起こることでもないけれど、気分のいいものではない。
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「到着、学園都市<ミチサネ>です。」
無機質な機械音声が流れる。
何人かが動き始める。バスの出発までにあまり時間はない。
「兄さん、降りよう。」
「そうだな、行こう。」
荷物を取り、和沙と都市間バスを降りる。
都市の縁に立ち空を見上げる。
あいにくの曇天だが悪くはない。
「(ここだと少しは落ち着けるだろうか)」
「大丈夫だよ、兄さん。きっと楽しめる」
「そうであることを願ってる。そろそろ行こう。」
一抹の不安と期待を抱えながら、
「とりあえず弁当でも食うか」
歩みを近くのベンチに向けた。