six
少し聞いただけで『呪い殺す』と言われた言葉に魔女だと少々納得した男は、エメラルダの外見を凝視する。
腰まである長い髪は黒く緩やかなウェーブがかかり、まるで、触ったらふわふわしてそうで触り心地が良さそうな髪だった。
肌は白く頬と唇は血色がいいのかほんのりとピンク色だ。
長い睫毛の奥には、菖蒲色の大きな瞳がそこにある。
一言で言うなら、美しい。二言目が出るなら――全体的に黒いイメージだった。
羽織っているコートも、中に着ているレースが付きワンピースも黒かったからだ。
唯一黒くないのは瞳と肌、そして、腰の辺りにリボンと一緒にくっついてある蒼い薔薇だけだった。
「つかぬ事をお聞きするが……貴女の年を聞いていいだろうか?」
エメラルダは突然ムスっとした表情になる。
「レディに年を聞くとは……最近の若者はなっとらんな!」
(いやいや、若者って……)
男は内心思ったが、また『呪い殺す』と言われるのは勘弁だったので、そこは敢えて口には出さなかった。
エメラルダはなぜだか偉そうに胸を張り「いいであろう」と男に言う。
「特別に答えてやる。私は今年で、えっと…………」
エメラルダは両手の指で自分の年を数え始める。男は、それを黙ってただジッと見ていた。
一つ、また一つ指が折られ、最終的に閉じられた両手まで行くと、今度は一つ、また一つと指が開いた。
そしてまた閉じた。開いた。閉じた。開いた。
「~っ!!」
焦れったくなったエメラルダは、目と眉を上げキッと男を睨む。
「忘れた!何千年も生きてたら年なんて忘れるであろうが!馬鹿者っ!!」
「って、逆ギレかよ……。というか、それって、本当に魔女だったんだな」
「まっ、ままままだ信じていなかったのか!?」
エメラルダは額に手を当て深い溜め息を吐く。すると、男がなにかに気がついたのか、その場でクンクンと匂いを嗅いだ。
「ところで……さっきから、何を作っているんだ?すっげー、いい匂い……」
そう男が言った途端、男の腹が「ギュルギュルギュルゥゥゥ」と、盛大に鳴った。
エメラルダは男の腹の音を聞くとハッと我に返り男から体ごと逸らす。
「べっ、別に貴方の為にご飯を作ってた訳じゃないぞ!」
そう言うと、エメラルダはお玉で鍋の中に入ってあるシチューを木のお椀に入れ、デーブルの上に置いた。
テーブルには、既に紺色のナプキンとお椀と同じく木のスプーンが並べられていた。
「ふんっ!さっさと食べて出て行って!」
「…………」
男はエメラルダをジッと見る。
「な、なによ……?」
「いや、その……悪魔と言われている魔女が、こうも優しいとは思わなくて……」
男はそう言うと席に着き、シチューを口の中に運んだ。
「うん、美味い!」
一口食べると二口、三口、四口と口に運び、あっと言う間にお椀の中のシチューは空になった。
エメラルダは『優しい』『美味しい』と言われたのが気恥しかったのか、頬を少し赤らめる。しかし、内心は喜んでいることを知られたくないのか、ツンとした表情で何も言わずに空になったお椀を男から取ると、再びシチューを追加した。
その行動に、男はまた驚いたのだった。