one
薄暗い森の薄暗い屋敷の中で、女はフードを目深く被り、沸たくる鍋を不気味な笑みを浮かべながらかき回していた。
「全て滅びよ……滅びよ……」
「おーい」
外から若い男の声が聞こえてくるが、女はそれを無視し鍋を回し続ける。
鍋の中は、茶色くドロドロとしていた。
「慈悲などはいらぬ……慈愛などは存在せぬ……」
「おーいってばぁー」
「滅びよ……滅びよ……」
「もう、いいや。お邪魔しま~す」
男は屋敷に入り廊下を歩くと男は電気をパチッとつけた。
「また、そんな事してるのか?」
「滅びればいい……ふふふ……」
「て、無視かよ。お~い、エメラルダァ~?」
女の後ろから鍋の中を覗き込むよう名前を呼ぶ男。
すると、エメラルダと呼ばれた女はピクリと反応した。
「う……」
「う?」
「う、る、さ、い、わ、ね!!」
バッとエメラルダは男の方を振り向くと、目深に被っていたフードを取った。
すると、フードに収まっていた真っ黒な長い髪がふわりと腰まで流れ、菖蒲色の大きな瞳が睨むように男を見つめた。
「毎回毎回、なんなの貴方?!」
「だから、俺はアランだって名乗って……あ、見た目の割に、やっぱり中身はあれなのか……?」
「知っとるわ!名前を聞いたのではない!それに、なにさらりと失礼な事を言っている!」
「あぁ、すまんすまん」
ははっと、笑いながらエメラルダの小さな頭に手を置くアラン。
「子供扱いもやめい」
「つれねーなぁ」
「ふんっ」
腕を組んでそっぽを向くエメラルダは、アランを横目で一瞥する。
「で、今日は何の用じゃ?」
「ん?」
アランはニコリと微笑むと「塗り薬を貰いに♪」と、言った。
エメラルダはポカンとした表情になる。
「はぇ?……塗り薬??」
「うん、そう」
「いや……あの……それこの前渡しました、よね?」
「あれ?急に敬語?敬語も可愛いから、俺としてはどっちでもいいんだけどね♪」
「話を反らないで!」
バンッと近くにあったテーブルを叩くエメラルダにアランな謝る。
「あー、はい。すみません」
「で、もう無いの?無いの?!」
アランは黙ったまま頷いた。
エメラルダは額に手を当てると、ふらりと倒れそうになる。
「あ、あり得ないわ……そんな、直ぐに無くなるなんて」
「ほら、俺ってこの森でも生き倒れるぐらいだから。てへっ♪」
黒鳶色の髪を無造作に掻くアランは、瑠璃色の瞳を細めて笑っていた。
それを見たエメラルダは、またそっぽを向いた。
「笑うな!そもそも、どうしてそんなに傷が出来るか、私には理解不能だわ」
「ん?ん~……まぁ、ねぇ。ははは」
曖昧な返事でアランはまた笑った。
それがエメラルダには何となく心にモヤが出来るみたいで、不愉快に思えたのだった。
「………ふんっ。そこで待っておれ……」