fifteen
「まさか、国の王子だったなんて……それに、あれはカツラだったのね」
エメラルダはアランの銀色の髪をサラッと撫でる。髪は、まるで猫の毛のようにサラサラでふわふわとしていた。
「綺麗な髪。……私の髪とは大違い」
エメラルダは他の魔女や、今まで見てきた美しい姫君達を思い出す。月のように美しい金の髪の姫、野花のような淡いピンク色の髪の魔女――その姿は誰もが美しく、宝石のように輝いていた。
エメラルダは自分の容姿と髪の色と比べ、自傷気味に笑った。
すると、アランが意識朦朧の中、エメラルダの腕を掴んだ。
「っ!!」
エメラルダは掴まれたことに少し驚いていると、アランが息を荒くしながらも何かを伝えようとしていた。
どうやら先程のエメラルダの独り言を聞いていたらしい。
アランは、苦しそうにしながらもエメラルダの瞳をジッと見つめた。
「はー、はー……っ……俺、は……お前の髪、好きだ……。瞳も、全部。お前は……全てが綺麗で……優しくて……っ、はー、はーっ……誰よりも……美しい」
そう言い終えると、アランは、また瞳を閉じ深い眠りに入ったのだった。
ようやく薬の効果が現れて来たのだろうか?荒くなっていた息が整い、少しだけ安らかな眠りになっていた。
エメラルダは、顔を真っ赤にさせて口を魚のようにパクパクさせている。
(な、ななっ?!)
アランの手から逃れたエメラルダは自分の胸を押さえる。心臓は、ドキドキと早鐘っていた。
「……っ……!」
エメラルダは、この気持ちがなんなのかよく解らなかった。
こんなにも胸がドキドキして苦しいのに、心の内は、嫌でもなんでもなかったからだ。
そう、初めて手を繋がれた時みたいに。寧ろ、何故か嬉しいと思っていた。
エメラルダはこの気持ちの正体がなんなのか、アランの看病をしつつも、ずっと、ずっと考えていたのだった。
そして、真夜中になってアランの息も正常に戻ってきた頃に気がついたのだ。
自分は〝恋〟をしているということに。
以前のエメラルダは恋だの愛だのという物が解らなかった。
人魚が王子に恋をして、人間にしてほしいと願った時などエメラルダにとっては理解不能だった。
あの時は、面白そうだったから願いを叶えたにすぎない。そして、そんな人魚の様子を、エメラルダは水晶から一部始終を見ていた。
結局、人魚の恋は実らなかった。
王子の心臓の血を足に塗れば、また、元通りの人魚に戻れるのにも関わらず、その人魚は最期にこう言ったのだ。
「私は……この恋が実らなくても、この方を愛している。愛する方を殺すことなんて出来ない……」
そう言って、人魚は海に身を投げ泡となった。
(哀れで馬鹿な人魚のお姫様……)
その時のエメラルダはそう思った。
でも、今はあの人魚の気持ちも、他のお姫様の気持ちも何となく理解出来ると思った。
「これが……恋なのね……」
嬉しくもなり。
悲しくもなり。
寂しくもなり。
そして、何よりも愛おしい。
エメラルダは、深く眠りについているアランの額にチュッと小さくキスをし、アランの髪を優しく撫でた。
「……責任とってよね。……馬鹿」




