thirteen
数百年ぶりに森の外に出たエメラルダは、ぼーっとしながら窓に映る景色を眺めていた。
(この街も、すっかり変わってしまったのね……。それにしても、こんな形で外に出るなんて……どうせなら――)
「エメラルダ様」
名前を呼ばれ、エメラルダはハッと我に返る。
そして、名前を呼んだ青年を睨んだ。
「あなた……どうして、私の名前を知っているの?」
そう。エメラルダの本当の名前を、この男が知っているのはおかしいことなのだ。
代々伝わる歴史の本や子供に読み聞かせる絵本でも、エメラルダの本来の名前は記されていない。それらの本は『黒の魔女』もしくは『悪魔の魔女』とエメラルダのことを言っていたのだ。
青年は、エメラルダに睨まれ苦笑いをすると「そう睨まないで下さい」と、エメラルダに言った。
青年は膝の上で手を組む。
「そうですね……どこからお話ししたらよいのか……。まずは、これから向かう場所についてですが、これから向かう場所は『国王の住む城』になります」
「……なっ?!」
(こ、国王?!)
「そして、助けていただきたい者は私の主――王の息子である、第二王子のアラン・エルリック様です」
「……ア、ラン?」
その名前を聞いて、エメラルダは唖然となる。
「国王亡き今、次の国王は第一王子のスフェン王子に決まりました」
(え?!国王が亡くなった?!)
森の中でずっと暮らしていたエメラルダは、街の政治には疎く、国王が亡くなったことすら知らなかった。
内心驚いていると、青年はエメラルダに話を続けた。
「しかし、スフェン王子を支援する貴族達は、第二王子の存在に恐れました。アラン様は、国の民にも慕われているからです。そこで支援する貴族達は、次々とアラン様に刺客を送りました」
「刺客って……」
「アラン様も立ち向かい、何か言えばよかったのですが……アラン様は、スフェン様の功績を庇い、またスフェン様を心から尊敬しているため、今までずっと、されるがままでした……。それも無理はありません。幼い頃、お二方はとても仲の良いご兄弟でしたから……しかし、それはついに毒殺まで行くようになったのです」
青年は目を閉じ、アランとスフェンと一緒に城の中で遊んだことを思い出す。青年は今はアラン専属の執事として務めているが、幼い頃は共に街に出て遊んで冒険した幼馴染みでもあったのだ。
そんなことを知らないエメラルダは、アランが毒殺にあっていると知り愕然としていた。
「……毒殺」
「もう、数ヶ月前からです。大方の毒は丹精が付いているのですが……今回ばかりは、私共も手がつけられず……」
「…………」
エメラルダは膝の上にある手を握りながら震えた。
(なによ、それ……)
「そんなこと……一つも聞いてないわよ……」
エメラルダが俯き悔しそうに呟くと、アランがエメラルダの名前を呼んだ。
「エメラルダ様。アラン様も本当はお伝えしようかと思っていたと思います。お伝えできなかったのは、エメラルダ様を心配してのことだと思われます」
「余計なお世話よ……馬鹿……」
「ふふっ」
「なによ?」
「アラン様から、貴女様の事は常々聞いていましたから、つい」
「……ふんっ」
エメラルダは青年から顔を逸らすと、青年はまた静かに笑った。
青年はそんなエメラルダを見る。
「貴女様の話しをするアラン様は、それは、いつも楽しそうでした」
青年は、佇まいを正すと改めてエメラルダに頭を下げた。
「お願い致します。あの方を、お助け下さい」
エメラルダは窓の景色を見ながら青年を横目で一瞥する。
「……勿論、助けるわよ。あの馬鹿に一言言ってやらないと気が済まないんだから。……それに、助ける気なんかなかったら、最初から馬車になんか乗らないわ」
青年はエメラルダの言葉に目を見張りながら驚くと、フッと微笑みを浮かべた。
そして、青年は目を閉じ「素直じゃないと仰っていましたが……ふふっ、アラン様の言う通りですね」と、心の中で思ったのだった。




