eight
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ふと、アランとの出会いを思い出していたエメラルダは、空がもう暗くなっていたことに気がついた。
耳をすませば、森に住んでいるフクロウの鳴き声が聞こえてくる。
「あぁ、いけない。この毒草を調べるのスッカリ忘れてたわ」
そう言うと、エメラルダは森から採取した毒草をすり潰し、研究用のビーカーに入れ小さな火で沸騰させる。
「新種の毒草が見つかるなんて、この森もまだまだ捨てたものじゃないわね」
スッカリ普段の口調に戻っていたエメラルダは、趣味の毒草研究でルンルン気分に浸っている。
ビーカーの中のすり潰した毒草を布で越し、出てきた汁を指に着けペロリと舐める。
「えーと……これは、痺れ、全身麻痺、嘔吐も含みそうね」
(最悪、中枢神経がやられて死に至る……と)
魔女は長寿の生き物で体も頑丈なため毒で死ぬことはない。増してや、エメラルダは呪いをメインとして扱っている黒の魔女なので毒は平気だった。
エメラルダは茶色い【POISON BOOK】と書かれた本に、毒草の特徴、色、効果等を書き記す。
「この毒の解毒剤も作らないといけないわね」
一通り書き終えると、エメラルダは羽根ペンを置き「うーんっ!」と、背伸びしパチンと指を鳴らした。
すると、部屋の電気が勝手に消え、エメラルダは隣の部屋にある自分の寝室へと向かったのだった。
(今日はなんだか疲れたわ……)
翌朝。エメラルダは、何やら不穏なざわめきを感じ目を覚ました。
「なんだか、森が騒がしいわね」
エメラルダはそう言うと、いつもの服に着替えコートを羽織ると森の中へと入っていった。
草を踏み、森の中を歩み続けていると、複数の男の話し声が段々聞こえてきた。
エメラルダは気配を消して男の話に耳を傾ける。
「いたか?」
「いや、いない」
「情報では、確かにここに王子がいると聞いたのだが……」
「この魔女の住まう森にか。……物好きな王子だ」
「しかし、ここで殺すと魔女の怒りが降りそうだな」
男達は笑いながら森の外へと出て行く。エメラルダは男達の会話がわからず首を傾げる。
(王子?殺す?)
「この森に王子なんて来てないわ。一体なんな――!?闇よ、火よ、我と共に――」
「ちょっ、ちょっ!落ち着け、俺だよ!」
「…………」
独り言を呟いている途中に、突然、肩を叩かれエメラルダは殺気と共に攻撃の呪文を唱える。だが、肩を叩いた人物が自分の知る人だと知ると呪文の演唱を止めポカンとした。
エメラルダの肩を叩いた本人は慌ててエメラルダから一歩距離を置き、両手を横に振る。
勘弁してくれと言わんばかりに両手を上げるのは、アランだった。
「……なによ、貴方だったの?」
「なによとはなんだよ……」
「…………」
エメラルダは先程のことを話そうとしたが「別に」と、アランに素っ気なく言う。
(言ってもいいんだけど、なんか……言わない方がいいような気がするわ)
エメラルダがアランから顔を背け素っ気なく言う中、アランは、男達が話していた場所を密かに睨んでいた。
「ねぇ、ちょっと」
エメラルダに呼ばれ、アランはハッとなる。
「なっ、なんだ?」
「今日は何のようなのよ?」
「何のようって……そりゃぁ、デートの誘いに♪」
その言葉にエメラルダはまたポカンと口を開けた。
次第に顔は赤くなり、エメラルダは口をワナワナと震わせながらアランを睨んだ。
「は、はぁ!? デ、デートってなによっ!!」
「え?昨日誘ったじゃん」
「そっ、それはそうだけど……でも!私……い、行くとは行ってないし……」
強気に出ていたエメラルダの言葉が段々弱くなり、最後は自分の髪をクルクルと指で絡め、唇を尖らせながら小さく呟いた。
「ま、まぁ……行ってあげてもいいけれど……」
「ふ、ふふっ……くくくっ……」
「何がおかしいのよ!」
エメラルダは肩を震わせながら笑うアランをキッと睨む。
「素直じゃねーなって思って……ふふふっ」
「ふんっ!」
顔を背けるエメラルダにアランはフッと微笑むと、舞踏会のエスコートをするみたいに自分の腕を差し出した。
「さぁ、お手をどうぞお姫様」
「私は姫じゃなくて〝魔女〟よ」
そんなことを言いつつも、エメラルダは少し恥ずかしげにアランの腕に手を回したのだった。




