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その7



姉との別れのあと、エリオは水や食料などをこっそりおじさんのところから失敬して身支度をすばやく整えると、森へ向かった。




森の中は、最初それほど異様な場所とも思えなかった。


あのジプシーによると、神の住む霊樹へは、


──昼なら、はるか向こうに見えるあの「大空の柱」という山の頂を

 常に正面に見据えながら。

 夜なら、「神の目」の異名を持ち、宙天の中でただ一つ不動の座を占める、

 かの耀星をその代わりとして──


進んでゆけばいいらしい。


しかし、生い茂る木立の向こうに「大空の柱」を見ようとすると、手ごろな木に登る必要があった。

エリオの歩みはその度に止まってしまう。


加えて、人が入ることのない森には、いたるところで複雑に絡み合った蔦が垣根のようになって行く手をはばんでいる。


父親の遺品である狩猟服を着たエリオは、持ってきた大ぶりのナイフでそれらを切り開きながら進んでいった。

下生えの苔と、深く堆積した落ち葉などのせいで、ときにはすねのあたりまで足が沈んでしまう。


それは、決して早い足取りではない。


それでも、

「どれぐらい進んだろう?」

と皮袋の水を口に含みながら振り返ってみると、町の姿はもう霞んでさえもいなかった。




恐ろしい場所と言われていたが、いざ入ってみると恐怖心はなかった。

なんとしても、病気のケイトのために森の真中の霊樹まで行くんだという決意のせいかもしれない。

それに、噂にあるような化け物に出くわすわけでもなかった。


「本当に、化け物なんて出るんだろうか?」

手にしたナイフで、帰りのための目印を樹木に刻みつけながら、エリオは思った。


ただ、そこでふと気づいたことがあった。


森に入った頃には聞こえていたはずの、山鳥の鳴き声が、いつのまにかパッタリとやんでいたのだ。

何となく気になって立ち止まると、あたりは不気味なくらい森閑としていた。




「どうしたんだろう?」

異様な雰囲気に、エリオは息を潜めてあたりをうかがった。


何かが急激に変わったというわけではない。

それでも、確かになにかがおかしいと思えるのだ。


言わばそれは、あたりすべての存在の表面から薄皮が一枚、知らない間にペロリと剥げ落ちてしまったかのようだった。


気をつけて見ていると、ところどころ差し込む木漏れ日に照らされてうっすらもやが出ているのがわかった。

今、自分は別の世界にいるのかもと、エリオは直感的に悟った。


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