その6
すっかり血の気がうせて、青白くなった唇を震わせるようにしてケイトが呟いた。
日に日に痩せてゆくにつれ、肌の色のほうは今では透き通るように白い。
かつて彼女の自慢だったブロンドの髪も生気なく乱れている。
一向によくならない病気のせいで、ケイトが衰弱しているのは明らかだった。
「いいんだよ。それより姉さん、喜んでよ。
姉さんの病気を治すことができるんだ」
一月後には死んでしまうという、ジプシーの予言を思い出しながらも、エリオはつとめて明るくふるまった。
しかし、姉のほうはその言葉の意味がわからないように、ぼんやりと弟を見つめているだけである。
「あのね、僕は聞いたんだ。どんな病気でも治してくれるという──」
そのときエリオは、『神様』と続ける代わりに、
「──医者がいるんだって」
と、とっさにウソをついた。
ケイトは相変わらず、何の反応も示さずに弟を見ているだけだった。
「僕がその医者を呼んできてあげるから」
「……どうやって?」
「その医者のところまで僕が尋ねていってお願いするんだ。
その人はどんな貧しい人だって、診てくれるらしいんだ、だから……」
エリオはそこで、言葉を詰まらせた。
「だから?」
「だから、しばらくの間、旅に出なけりゃならなくなった──」
ケイトは、病気になってからそこだけが以前より異様に力強くなった印象のある瞳でエリオのことをしばらくじっと見つめていた。
「……わかったわ。
エリオ、お前の好きなようにしていいわ。
もう出かけるの?
じゃあ、エリオ、体に気をつけてね。
無理をして病気になったりしちゃだめよ。
……忘れないでね、私はいつでもお前の味方だから」
そう言って、ケイトはほんの少し、苦しそうに唇をゆがめた。
笑おうとしているのだとエリオには分かった。
それはとてもぎこちないものだったけど、ほんとうに久しぶりに見た姉の笑顔だった。
その後、ケイトは、エリオが何を話しかけてもぼんやりとただ天井を見つめるだけで、今まで以上により一層虚ろな様子になってしまった。
エリオは身の裂かれるような思いをしながら、そんな姉に手短にわかれの言葉をかけると
足早に小屋から去っていった。
ここに姉を残して去ってゆかなければならない。
それはとても残酷な仕打ちを姉にしているに違いない。
しかし、かと言って、ここに残ったところで
―― 希望はなかった。