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その11



翌日、口の中で何かがモゴモゴする違和感に、エリオはびっくりして目を覚ました。

なんのことはない、それはベッドがわりに敷き詰めた落ち葉が二、三枚口に入り込んでいただけだった。


外は快晴らしい。

もう陽は高いようだ。そう思ったとたん、ついいつものクセで「寝過ごした!」と驚いたが、ここは昨日まで自分が寝起きした茅屋ではないことに気づいた。

と、同時に一人で取り残された姉のことが頭をよぎった。


(姉さんは、つらい目にあってないだろうか?)


自分が逃げ出したあとで、病気の姉が雇い主のもとでどんな目にあってるかと思うとエリオの胸が痛んだ。


そのとき、マヤが顔を覗かせた。

「エリオ、起きた?」

「あ、おはよう」

「良く寝れたみたいね……アレッ、エリオ泣いてるの?」

エリオは、あくびだよと言い訳しながら、起きだした。




マヤの説明では、神が住むという霊樹の場所までは、まだしばらくあるらしい。


ただ、それがどれだけ先にあるのかと聞くと、それについては

「近いとも言えるし、遠いとも言える」

というあいまいな返事しかしない。


エリオがその言葉にれて、もっと詳しいことを聞きたがってもマヤは説明をはぐらかす。

「だって、エリオが言っている距離の単位なんか私にはわからないもの。

それに、私ならこの森の中を風みたいにどこまでも自由に走れるけど、

あなたの歩く速さかなんて分からないわ」

ねるように口をとがらすので、エリオの疑問もそれきりになってしまった。




代わりに、マヤはエリオの手を取って、あっちこっちと、森の中を案内して歩いた。


それは、どう見ても遊び相手にさせられているといった感じで、ちっとも目的地に向かっているようにも思えない。


エリオのほうは、この風変わりな妖精に好意を感じてもいたし、最悪、騙されたなら騙されたまで、どうせ一度化け物に食われかけた運命だと考えて腹を決めた。




マヤの手には今日も木の枝が握られているが、どうもそれは昨日バケモノを威嚇した時のものらしい。


なぜこんなものをいつまでも離さないのだろう、とエリオには少し不可解だった。

要するに子供っぽいということなのか、とも思った。


しかし、マヤが地面を払うようにして棒切れを軽く振ると、目の前の草むらがサッと開けた。

最初エリオは、風でも起こったのか、と思ったが、そうではない。

次の瞬間、樹木までもが横に張り出した枝を差し上げて、二人の行く手を開いてくれたのだ。


驚嘆するエリオを、からかうように笑いながらマヤが言った。

「人って、自分が出来ないことをされると変に驚くのね。

 妖精にはあたりまえのことだけど。

 ……でも、本当はこの力は私のものじゃなくて、この木の枝のものなの」


昔、こんな棒切れをサーベルがわりに振り回して戦争ごっこをしたなと思いながら、エリオがその木の枝を見ていると、マヤが突然おもい出したように声をあげた。

「そうよ!これ、この木の枝!エリオが探している霊樹の枝なのよ!」




そう言われてみても、相変わらずエリオにはただの木の枝にしか見えなかった。


「すごいんだね、さすがに神が宿る霊樹だな。

この枝には、昨日のあのバケモノも敵わないってことか」


「エリオ、いくら自分が襲われそうになったからって、あの子をバケモノ呼ばわりしちゃ悪いわよ。

 ──たしかに、荒っぽいところがあるから仕方ないけど──

 それに断っておくけど、この霊樹の枝がなくたって、パーシャぐらい抑えれるわ」


エリオが自分よりも霊樹の枝の力に感心したのが気に入らないらしく、マヤは、随分と子供っぽいことで、つむじをまげた。


しかし、怒りというのは彼女にとってあまり馴染みのない感情なのか、ひと通り愚痴ったあとは次の瞬間ケロリとして笑っている。

子供っぽいというのか、むしろ妖精らしいというべきか。


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