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ノンゲーム!  作者: 上葵
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4:遊戯の中の職業選択

プロットなしで、漠然と書きたいことを書いてみる。


あのころの懐かしの感情がよみがえります。


このグダグダ感たまらないなー。


(元タイトル・ロールプレイングゲームセット)


 今日も今日とて退屈をもて余した俺は、意味も用も必要もないけど部室に向かう。

 かなしきかな、娯楽ラブはまだ同好会扱いなので、なかにいるのは部員ではなく、暇人×3。放課後自主的に居残って不毛な活動にせいをだす,……。先生に怒られてないのが奇跡に近い。


「今日はね、二人の役職を決めようと思うの!」

 明朗快活とした笑顔を振り撒いて、谷崎は俺たちの方をむく。

「ほう」と天王州は興味深げに細目になった。

 塾がないので、フル出場できるぞ!と意気込んでいた彼女に申しわけないが、どうせ今日もグダグタになるだけだと、思っていた俺を良い意味で裏切るはじめての有意義な意見。

 感動で震えがおこりそうになる。

「そうだな。とりあえず三人でやってくんだから、それくらいは優先的に決定してもいいさな」

「へへっ、それしゃ郁次郎は土属性の武道家ね!」

「……?」

 ホワイ?

 一瞬の思考停止。

「なに、なんの話?」

 部活における部長、副部長、書記、会計などをきめんじゃないのか?

「え?だから、二人の役職をね。郁次郎は土属性の能力者」

「いや、ちょっとまって、一から十まで意味わからん。なんでそんな話に?」

「え、だって郁次郎、土っぽいし」

「はぁ!?どこがだよ!」

「うーん、強いて言えば、匂いとか」

「……」

 無邪気に傷つけられた、気がする。

「愛流は水ね!賢者よ」

「よかろう」

 えー、二人の間では問題なくこの会話が成り立つのぉっ!?

「そして私、谷崎琴音は炎属性!勇者!以上!」

「すとっーーーぷ!」

 瞼を仄かに重くするわずかばかりの睡眠欲は自身の叫びに吹き飛ばされた。

 爽やかな季節、輝く風が新緑まぶしい木々を揺らし、耳心地のよい音をたてている。窓からは傾いた太陽光が射し込み室内を無駄に明るくしていた。床の反射で下からライトアップされてるみたいになった谷崎は気持ちのよい笑顔でクビを捻る。

「なんで?」

「一から十まで理解できません!俺がバカだからですかっ!?」

 カツカツと足音をたてて彼女に近づき、その華奢な肩をがっしりとつかむ。

「なに?属性って!?カムバック谷崎、現実世界戻ってこい!」

「属性は属性よ。郁次郎、世界を救いたくないの?」

「だから、お前はなにを、いってるんだ!?」

「ちなみに私は十数回世界を救ってきた経験の持ち主よ(ゲームのはなし)。私がいかないと世界がヤバイんだもん、仕方ないよね。ま、それはさておき下準備はすんだし、そろそろ本番に移ってもいいかなと思うわけ」

 しれっと言い放つ彼女に、このときの俺は世界で一番間抜けな表情をしていたことだろう。

「そんで、属性ね。性格やイメージでその人のタイプを分析するの。炎属性は熱血漢な主人公、水属性はクールキャラ!」

「うむ。クールキャラである僕のイメージに水属性はピッタリだ」

 天王州の落ち着きは物腰だけだって、短い付き合いだけど俺は理解したよ。

「土属性は……、あれ?」

「土……微妙に特徴がないな」

「郁次郎にはピッタリなんだけど、土属性のテンプレートが思い浮かばないわね」

「土属性のテンプレか。うむぅ、一言で言うならダサいね。影が薄いし足が遅そうだ。やつは四天王のなかでも最弱……そんなイメージがわくな。いやまぁ、忍耐力はありそうだが、それだけのような気がするよ」

「わかるわかる。頭悪そうだし、飛行キャラには無効みたいな風潮があるわね。一番最初にしにそー、冷遇されてるわ。ただまぁ我慢つよそうよね!」

 ひたすら耐えるのが得意の俺でも我慢の限界が近づいていた。

 なんでこの二人は天使のような悪魔の笑顔で俺の心をズタボロにするんだろう……。全世界の土属性キャラを敵にしたな!…,…特に誰かっていうのは思い浮かばなかったけど。

「まぁ、とりあえず郁次郎は土属性、決定ー」

「意義ありッ!」

 人差し指を突き立て、喉が張り裂けんばかりに叫んだ。

 その声にびっくりしたのか二人は目を丸くして俺を見た。

「なんもねぇーなら無属性でいいじゃねーか!無理矢理カテゴライズすんのやめろよ!」

「無属性なんて属性はないの!」

 谷崎はバンと机を叩いて立ち上がった。おっ、なんだやる気か、このやろー。

「私は四大属性か五行説以外の属性を認めない!」

 なんでそこで食いつくんだよ!

「だったらもっとましなのあるだろ!」

「そうね、あとは金属性とか」

「なんかぜってーやだそれ!」

 シックスは好きだけど、良いイメージは持てない……。

「むーそれなら仕方ないわね……。名前のイメージで決めようかしら。海野、郁次郎ねぇ。海だから水かな」

「僕とかぶってしまうじゃないかぁ」

 ぷんすかと声をあげたのは天王州である。

「んじゃ、愛流ちゃんの名前のイメージから……。天王州愛流、州、流れる、やっぱり水ね」

「うむ、譲れないよ!水属性だけは」

 なんでそこで水に意固地になるのか私にはわかりません。

「まぁ、別にパーティーに水が二人いようと問題ないよね」

「なぁにいってるんだい琴音!二人ではキャラが、アイデンティティーがかぶってしまうじゃないか!」

「あぁー」

 納得言ったような声を上げる谷崎に脚注を加えるのなら、あくまで妄想の話という点だ。

 ばかじゃないのー。

 額に軽く手をやる俺に気づいていないのか、彼女は手をポンとあてて、一転明るい声をあげた。

「それじゃ愛流ちゃんは回復系の水属性!郁次郎は攻撃系の水属性ってことでどう?これならキャラの差別化が保たれるわ」

「むー、しかしだね、君。僕はこうーー」

 天王州は不思議なおどりを踊った。俺のMPが大量にすわれた!

「かっこよく詠唱して敵をドバーって倒したいのだよ」

「回復役は女の子じゃなきゃだめよ。ほら、なんだかんだで一番耳につく詠唱って回復呪文じゃない、パーティーから絶対にはずせないキャラになれるし、ラスボス戦でもレギュラー確定よ」

 怒濤の説得ラッシュにふんぞりかえっていた天王州はやがてその重たい腰をあげ、

「……よかろう。その条件、のむよ」

「さすがよ!」

 グッと握手する女の子たち。ベンチャー企業が大会社と契約を果たしたみたいな光景だ。

 ただまぁ間違いなく言えるのは、ラスボス戦で、俺は間違いなくサブメンバー、ということだけである。


「そんかことよりさぁ、一つ言いたいことがあるんだけど」

 黙って聞いてりゃ寝言みたいなこと言いやがって、辛抱たまらなくなった俺の攻撃。

「谷崎は絶対炎属性じゃないよね」

「ふにゃ!?」

 へんの雄叫びて誤魔化されることはない。

「少なくともてめぇは熱血キャラじゃないだろ。それに名前の谷崎琴音にゃ火を表す漢字が一文字も入ってないじゃないか」

「ちっちゃいわね!別に良いじゃない」

「いんや、譲れないね。人を勝手に土……いや水か、水属性にしといて自分は免れようだなんて卑怯じゃないか」

「別に、そんなこと考えてないけど……」

「だからお前の属性は第三者たる、俺と天王州で考える。意義ないな」

「ふーんだ、いいもーんだ」

 イーと歯を見せる彼女を無視し、天王州とこそこそと囁きあう。

「というわけで谷崎の属性」

「君も些か要領をえないね」

 ニタニタと薄気味悪い笑顔を天王州は振り撒いた。

「うるせーな。いいからほれ」

 冷静になって考えてみると、いい歳してなにやってんだろうな、おれ。

 まあ、気にしたら負け、だよな。

「ふむ。琴音の能力ねぇ」

「っ」

「む、どうした?」

「いや別に」

 いや、なんかこう胸のしたの辺りが、痛いよね。黒歴史生産中みたいだよね。

「音属性かな。名前にもイメージにピッタリだと僕はおもうんだが」

「本人、そういうイレギュラーな属性は認めないって言ってたぞ」

「ああそういえばそうだな。そうなると……」

 頭もひねってみてもいい案は浮かばず、どれもしっくり来ない。しびれを切らした谷崎がブゥブゥ文句を垂れ始めたので、とりあえず呟いていた。

「風属性なんてどうだろうか」

「風?そりゃまたけったいな。ちなみに訊くがどうしてだい?」

「うーん、飄々としていて、掴み所のないところとか」

 理由なんて思い付かないので、適当にぶっこいたら天王州は「なるほど」と得心言ったように頷いている。まじで納得したのかよ、と突っ込もうとした瞬間彼女は谷崎の方を振り向いて「決まったよ、琴音」と朗らかに笑いかけていた。

「えっ、ほんとに?なになに?」

「郁次郎の一存でね、君は」

「あー、待って、いま覚悟固めるから!」

 すーはーすーはーと深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着けたらしい谷崎は「いいわよ」と合格発表を待ちわびる受験生のように瞳を光らせている。そんなだいそれたもんじゃないだろ。それに応えるように天王州も神妙な面持ちになって、ダーマ神殿の神官みたいにいい放った。

「谷崎琴音、君は風属性だ」

「風!?」

 一度だけ戸惑ったような声をあげたあと「風ねー、うーん、悪くないかも」とひとり納得してくれたようなので、よかった。

「ちなみになんで風なの?」

「郁次郎が言っていたんだがね」

 天王州がチェシャ猫みたいなにやにや笑いを浮かべたとき、嫌な予感が全身を支配した。

「あぁ、琴音、君はまるで風のようだ!ある時は優しく包みこむように、時に激しく僕の心を惑わせる」

 ぶっ、文字通り吹き出した。

「え?え?」

「ねがわくば僕は羽になりたい。風をとらえる翼がほしい。byIKUJIRO」

「えー」

 言葉が紡げなかった。顔を赤くしくねくねと照れたように笑う谷崎に遠慮したからじゃない、ただ単純に脳がフリーズしたからだ。

 こいつ、なにいってやがんだ!?

「でも、風はひとりのものになるわけにはいかないからなぁー」

 耳まで赤くし、宣う谷崎。なんか知らんがふられたらしい、ぶっとばすぞ!


「さぁ、き、気持ち切り替えて」

 めんどくさいから訂正しなかったけど、谷崎はインフルエンザにかかったみたいに頬を紅潮させている。

「つ、次はみんなの武器をきめましょ」

 普段の5割ましで吃りが激しくなってるし、めんどくせぇ。

 手をパンパンと叩いて気持ちを切り替えるよう促している谷崎が一番切り替えられていない。ちらちらこっち見てきてるし、うぜぇ。

「ふむ。なかなか興味深いな。ちなみに琴音はなんの武器を選ぶんだい?」

 え、そんなナチュラルに繰り広げられる会話なのそれ。

「むふふ、私はねー。やっぱ主役だからあれかなー」

 まぁ、突っ込むまい。お前の脳内劇場では常にお前は主役だろうよ。

 鼻をならして聞き流す俺の横で天王州が不機嫌そうに呟いた。

「む、主役は僕だろ!琴音、聞き捨てならないよ」

「えー、だってRPGの主人公っていったら、ほら私のようにカッコヨク華麗で……」

「僕だってカッコヨクて華麗だぞ!」

 ガタッと椅子をならして立ち上がり、天王州は大きな声をあげた。

「みたまえ、このナイスバディをっ!」

 胸を強調させるようにふんぞり返る。

 やめろ、男子が一人いるんだぞ!

「ば、バディは関係ないじゃん!大切なのは心よ、ハート!」

「ふふん」

 焦る谷崎に勝ち誇る天王州。

 やべぇ、横で見ててちょっと楽しくなってきた。

「でも、あ、愛流。ちっちゃいよね」

「む?なにをいう。このナイスばー」

「胸の大きさの話じゃないもん!」

 顔を真っ赤にどなる谷崎。久しぶりにお前のことがかわいいと思えたよ。

 にやにやが止まらない俺は、下唇をギュッと噛んでうつむいた。

「身長よ!身長!」

 ピョンピョンと跳び跳ねて自分をアピールする谷崎。君もいうほど身長高くないけどね。

 とはいえその指摘は天王州に明確なダメージを与えたらしい。「ぐうっ」と言葉を失ってから唇を尖らせた。

 天王州は確かに身長がひくい。ストレートにいうならチビだ。栄養が胸にいったからだろうか。

「む、胸にはなぁ、夢が、夢がつまってるんだぞ!」

 天王州さんに10万点。その考えはおおむね正しい。

「なぁ、郁次郎!」

「ふべっ!?」

 いきなり話をふるなっ!

「あ、いや、ま、えー俺はだね」

 がんばれ俺、保てクールキャラ!

 鼻水が溢れそうになる。

「え、郁次郎もおっきい方がいいの?」

 顔を青くし、わなわなと呟く谷崎に、「もちろん」と答えてやれるほど俺の度量は広くなかった。

 無言のままあたふたとする俺にしびれを切らせたのか彼女は大きな声で、

「いいもん!郁次郎の使用武器トンファー!」

 わけのわからない決定が下された。

 トンファーなめんな!盾の紋章とセットで最強なんだぞ!





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