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ノンゲーム!  作者: 上葵
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2:アイルと宇宙と新入部員(2)

ふっかーつ!


おりゃー


 放課後の喧騒をシャットアウトするように後ろ手で扉を閉めた谷崎は、席についた俺と天王州に向かってにんマリと口角をあげた。

「本日の議題はいかにして未知との遭遇を成し遂げるか、であります!」

 朝まで生テレビの着メロを流しながら、しれっと宣う。

 てーれ、てーれれれってー!

 議論させてくれよ。まず宇宙人の存在を認めてしまっているところからやり直し要求させてくれ。


「僕は今日塾だから長居ができない。時間が惜しい、忌憚なき意見を交わし合おうじゃないか」

 鼻息あらい谷崎の電波を程よく受信しているらしい天王州。その発言を潤滑油に、谷崎は元気はつらつと声をあげた。

「それではまず、期待のニューカマー、天王州愛流ちゃんから意見をどうぞ」

「む、僕かい?」

「ええ、そうよ。新人だからって遠慮せずにビシバシいっちゃって!ただ私たちも容赦しないということだけはわかっておいてちょうだい。まぁ、はじめのうちはあがっちゃってなかなか自分の心情を」

「そうだな。まず、宇宙人といっても、沢山の種類がいることをご理解いただきたい。いま判明しているだけでも、グレイ、オレンジ、ノプティリアン……、数えきれないほどだ。彼らは人類に友好的な種もいれば、それとは反対に敵愾心を持っている場合もあるという。いわゆる、インベーダー、侵略者というやつだな」

「出せないとは、おもう、けど……」

「姿かたちも、フィクションでよくあるタコ型のものから、収斂進化から我々人類にそっくりだという説もある。この中で娯楽ら部が比較的安全にコンタクトがとれるのが、やはり人型宇宙人であろう。そうなると次にどうやって彼らとコンタクトをとれば良いのか問題になってくると思う。チャネリングで解決するなら話が早いのだが、そう上手くはいかないだろう。だとしたら、我々から彼らに積極的にコンタクトをとるしかあるまい」

「……」

 既にペースを奪われている谷崎部長(仮)。キノコの形したエイゴリアンたちはどこにカテゴライズされるのか知りたいところだ。


 淀みなく続いていた天王州の演説は小休止に入ったらしい。出されていたお茶を一口すすり、息ついた。ポットや湯飲み等は谷崎が持ってきた私物である。彼女は高校の部活動というものを全体的に勘違いしているらしい。

「宇宙人にコンタクトって、どうやってとるの?」

 純粋な瞳で首を傾げる谷崎に、どことなく嬉しそうに天王州はニッコリと微笑んだ。

 俺は、今晩の夕飯について考えを巡らせていた。

「良い質問だね。一番簡単なケーススタディとして宇宙人が人間に擬態しているパターンを思い浮かべてみよう」

 エイリアンがいるとかいないとか、そういう次元の話はもう終わってしまっているらしい。

 いること前提、しかも人間に擬態してるパターンだ。エックスファイルの世界を彼女は自分の価値観に当てはめているらしい。

「その場合、彼らは我々とは違う塩基配列をしているわけであり、いくら上手に擬態出来たとしても、ぎこちなさが残るはずなのだよ。君たちの周りにもいないかい?どことなしに人間離れした非常識な人物が」

 目の前に二人いるぜ!

「なるほどね。たしかに天王州さんの発言に一理あるかな」

 顎に手を当てながら谷崎はぼそりと呟いた。

「そういえば、スゴく気になる生徒が一人いるのよ」

 一瞬ドキリとしてしまう。あぁ、気になる人とは。男の影が微塵も見えないから安心しきっていたが、谷崎は端から見たら充分整った顔立ちをしているのだ。そんな彼女が興味を抱く人物、幼なじみとして、捨て置くわけにはいかない。俺はなるたけクールな語調で、ぶっきらぼうに、「誰だよ」と尋ねた。

「ええ、名前はよく見るんだけど、顔は知らなくて」

「ほう、興味深いな。何て人だい琴音、一回調べてみよう。この学校の生徒なんだろ」

「ええ、羽路高生のはずよ、たぶん見つからないと思うけど。前に気になって調べてたことがあって、その時はクラス名簿にも載って無かったんだもの」

 半分怖い話みたいな状況に、若干違和感を覚えつつ、気になる点をいくつか質問してみた。

「名簿見て気になったんじゃないなら、ファーストコンタクトはどうやってとったんだよ」

「提出しなくちゃいけない書類でね、入学前はとくに願書とかいっぱいあるじゃない。そういうのに決まって書かれてるのよ」

「……ちなみに訊くが、その気になる名前って」

「羽路太郎っていうんだけど」

 幼なじみの余りあるおバカ加減。呆れるより先に心配になってきた。

 そりゃ、例題というか、学校側が載せてるモデルじゃぼけ。

 なにをどう間違えれば『羽路太郎』を実在の人物だと思うのか。

 アホの子に成績では一回も勝ったことがないことに軽く絶望しつつ、勘違いを正そうと、声をあげようとしたとき、

「ふむ。確かに僕も気にはなっていた」

 俺より先に天王州が、いたって真面目な顔つきで谷崎に同調しはじめたのだ。神様、もしかして、本当のバカは俺の方なのでしょうか。

「でしょ!謎の人物よ、羽路太郎!一体何物なのかしら」

「調べてみる価値はあるな。ひょっとしたらひょっとするかもしれない。まさかこうも早く宇宙人の尻尾を掴むことができるなんて」

 変な方向で話が纏まりそうになっていたので、「ごほっごほっ」と咳払いで自分の存在と、ここでは不在の一般常識についてアピールする。やっぱりどう考えても、アホの子はむこうさんだ。

「何よ郁次郎。喉の調子悪いの?」

「俺の喉は悪くないが、お前らの頭は悪いようだな」

「い、いきなり悪口とは失礼ね!」

「悪口じゃない事実だ」

「何が言いたいのよ」

 せめて自分で気づいてほしくて、時間あげるよう俺は深いため息をついたが、彼女たちに閃きを与えることができなかったみたいだ。

「いいか、羽路太郎について今更とやかく言う気はないが、一つ忘れてることがあるだろ」

 書類には必ず『記載例』と書かれているはずなのだ。それを思い出してさえくれれば、問題は解決したも同然だろう。

「忘れていること?」

 谷崎は腕を組ながら隣で同じように首をひねる天王州に視線をやった。

「なにかあるかな」

「いや、僕はとくに思い付くものは」

「でも郁次郎が言うんだからよっぽどなのよね」

 よーしよしよし、良いぞ良い傾向だ。そのまま、それが提出用書類とは別に書かれていたものだと言うことに気づくんだ。

「はっ、わかったぞ!」

 天王州が閃いたようだ。

「琴音、我々は大切なことを忘れていた!」

「ええ!なに!?」

 なんだかんだで天王州、地頭は悪くないんだから、さっさと谷崎の勘違いを、

「羽路花子の存在だ!」

「……」

 えー。

「あぁ、たしかに、思い返してみれば、彼女の名前もなんだかんだで、見てきた気がするわ!」

「うむ、謎の人物は一人じゃない、二人いたんだ!そうだろう、郁次郎!」

「ウンソウ、ヨクワカッタネー」

「ははは、僕は昔ホームズに憧れていたことがあってね。推理は得意なんだ」

 それなら棒読みから色々と察してほしい、この常時薬中の探偵かぶれが。

「そうなると、我々の目的のターゲットはこの二人に絞られたわけだ」

「ええ、冷静になって考えてみれば『太郎』や『花子』なんていかにも偽名っぽい名前だわ!」

 そこに気づいてるんならもうすぐだろ!早く真実にたどり着けよ!


「ふむ。はたしてどこから探すべきか」

「絶対見つからないっての」

 もう疲れたよ、気づけばぶっきらぼうにそう告げていた。

「むう、どうしてだね、郁次郎」

 頬をぷくりと膨らませる。平常時なら心が動かされる仕草だが、今は苛立ちを助長させるだけだ。

「そいつら(花子や太郎)は実在の人物じゃないんだ。言うまでもないことだが」

「なに?……いや、まて宇宙人が調査の際に使用している偽名だとするのはあくまで僕たちの推測に他ならない、なぜ、決めつけられる?」

「普通に考えりゃわかんだろ。太郎とか花子とか今時そんな古風な珍しい名前、滅多にいないっつうの。つまりぃ、」

「君は郁次郎氏じゃないな!!」

「なんでそうなる!?」

 もう驚愕すぎて顎がはずれちゃいそうだよ!人の話は最後まで聞こうよ!

「さては有害宇宙人、我々が正体に近づいていることをさとって、メンバーの一人である郁次郎に化けているのだな!」

「この倶楽部まだ発足してもいないから!そもそも方針固まったの昼休みじゃねーか!」

「なんて勘の鋭い宇宙人だ。原点回帰で考えてみれば『太郎』の次は『次郎』。羽路太郎にしてみたら、郁次郎は弟みたいなものだったんだよ! 」

 どこまで発展させるんだよ、この話。さすがにそろそろついていけなくなった俺は助けを求めるよう谷崎に視線をやった。この飛んだ電波少女に一言いってやれ、と目で訴えかけてみたけど、彼女の瞳は泳いでいるばかりで、力になってくれそうにない。

 最低限、『俺は呆れてます』というジェスチャー、肩を軽くすくめながら首をふる、を行おうと息ごむ俺に降り注いだのは、

「そ、そうだったのね!」

 幼なじみからの信じられない一言だった。

「え、ちょっ」

「なんだか今日はおかしいと思ったのよ!郁次郎にしてはなんか無口だったし!」

「唖然としてただけだよ!」

「黙りなさい偽者!幼なじみの私の目は誤魔化せないわよ!」

「やめて!たとえ冗談でも、けっこう傷つくから!」

「いつもの郁次郎はもっとイケメンなんだから!声だってあなたより渋いし、瞳はダイヤモンドだし、ボキャブラリーもたくさんあって知的で、白馬に乗った王子様みたいなんだから!」

「あ、へ」

 自分の耳まで熱が上がる音を聞いたのは、これが初めてだった。普段こいつ俺をそんな風に見てたのか、とジョークとわかっていても赤面症になってしまう。

「や、やめろよー。なんか知らんがハードルあげんなよー」

 デレデレと間延びした発言をしてしまった。

「ほら見なさい、郁次郎はそんなお間抜けな顔してないんだから!」

「って、いい加減このネタ引っ張るのやめろ!俺は本物の海野郁次郎だよ!」

「本物だってのなら証拠見せてみなさいよ」

「証拠だと?」

 俺が俺である証明。身分証明書の提示をお願いされて、学生証でもいいか尋ねたい気分だ。

「ええ、本物なら自分の秘密をここで暴露なさい!」

「意味わかんねぇよ!」

「本物と偽者の区別をつけるのは簡単。本人しか知り得ない恥ずかしい情報をここで暴露すればいいだけだもの」

「あー、なるほどー、って、本人しか知らないならお前らだって知らないじゃん!」

「谷崎琴音を舐めないで頂きたいわね」

 小学生のころよくやった、逆手双眼鏡で謎のアピールをする谷崎。完全に俺をからかってるよ。殺意とともに、ちょっとしたイタズラ心を覚える。

「そんなに言うんだったら、暴露してやるよ!俺の秘密をな!」

「おー」

 パチパチと拍手するニヤニヤ顔の女生徒二人。今のうちに笑ってやがれ、特に谷崎!

「俺には辛くなったとき思い出す、心暖まる風景というものがあってな」

「へー、なにそれ気になるわね」

「それは小さい頃、幼なじみと近所の公園でした『将来結婚しようね!』の約束……」

「ふぇ!ぇえ!?」

 予想外なのだろう、プルプルと赤くなりながら震えだす谷崎。捏造された恥ずかしい記憶は思った以上の効果をもたらしているらしい。

「他にはそうだな、ファーストキスは幼なじみ」

「し、してないわよ!」

 顔を真っ赤に即刻否定に入る。勿論していない。フィクションでよくあるシチュエーションだ、幼い頃交わした約束、てきなー。

「嘘よ嘘!やっぱりアンタ偽者じゃない!」

「まぁ、嘘なんですけどね」

「ビックリさせないでよ!私の初めて奪われてたのかと思ったわ」

「ッ」

 変な発言はよしてほしい。心臓が跳ね上がったわ。いくら今の暴露が全部嘘だろうと、冷製になってみれば、気恥ずかしさだけが残った。

「でも、ま、そんな変人なところを鑑みるに、郁次郎で間違いなさそうだけど」

「そりゃどうも」

 やったね!俺が俺であるために、好きなことは好きと言える自分でよかったよ!


「のろけは終わったかね」

 絵にかいたようなにやけ面で天王州は髪をかきあげながら言った。

「ノロケなんてよして!」

 顔を真っ赤に全力で否定にかかる谷崎。なぜ、そこまで必死なのか、俺にはさっぱりわからない 。うっうっ、なんか空しくなってきた。

「さて、盛り上がってるところ悪いが、僕はそろそろお暇させてもらうよ。塾があるのでね」

「あ、ええ」

 天王州はニヤニヤ顔のまま、鞄を手に出口に向かった。

「そうだ、一つ提案があるんだ」

 立ち止まって振りかえる。

「今晩9時、校門前集まらないかい」

「え、なんで」

「宇宙人を探しに行くんだ」

「さんっせいー!」

 俺アルカリ性(反対)!

「いやいやまてまて、勝手に決めるな!」

「む、郁次郎は来れないのかい」

 お前たちの突拍子のなさにはついて行けないけどな。

「落ち着いて考えてみろ、夜遊びはよくない!それに、そう!うち超厳しいしぃー」

「抜け出せばいいだろう。僕は星を見に行くときいつもこっそり抜け出してるぞ」

 アクティブなお嬢様だなおい。

「郁次郎家の規則そんなに厳しくないじゃない。ねっ、いきましょうよ」

 猫なで声の幼なじみは無視するとして、抜け出すとか、やってできないことはないだろうけど。ぶっちゃけうちは激ユルだし。素直に言っても許可貰えそうだ。

「んじゃ、そういうことで」

 人の話を最後まで聞かず天王州は日暮れの廊下に消えてしまった。


「俺らも帰るか」

 用もなくなったし、これ以上ここにいるのは時間の浪費、青春の無駄遣いだ。

「そ、そうね」

 未だに頬を赤らめたままの谷崎。照れてるのかと思ったが、なんだか様子がぎこちない。風邪でもひいてるのだろうか。

「おい、大丈夫か?」

「え、なにが」

「顔赤いから」

「あ、ぅえー、だ、だいじょーばない」

「……どっち?」

 なにその新しい日本語。

「でも、お、驚いたわ、郁次郎、覚えてたのね……」

 うつむきがちに謎の発言をされる。なんのこっちゃ。首を捻って考えてみても答えが浮かばなかった。

「なんの話だ?」

「な、なんでもないわよっ!か、帰りましょ!」

「あぁ、うん。……右手と右足同時に出てるぞ」

 歩き方まで、変になっちまった。

 つぅか、9時かぁー、夜まで天王州と谷崎の珍道中に付き合うのは、精神的に辛いもんがあるよなー。

 いっこっかやめよっか、考え中ー。

 どうせ宇宙人になんて会えっこないし、無駄なことはやらないにほうがいいよな。それこそ、青春の浪費だ。







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