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ノンゲーム!  作者: 上葵
22/54

21:ギタリストの頭上で鐘はなる

毎回毎回言ってると思いますが、お久しぶりです。

これ読んで少しでも笑っていただければ幸いです。

 殺人的太陽光線が降り注ぐ、夏。

 蝉時雨にシャツを水浸しにする気にはならないので、クーラーが頑張る部室に寄ってから帰ることにした。

「うぃーす」

 間延びした言葉を吐き出しながら、後ろ手でドアを閉め時計を見上げる。

 放課後を迎えて燦々と輝く太陽が徐々に落ち着き始めるその時間。まだまだ外に出るのは自殺行為だ。


「一度でいいから次回予告ってものがしてみたいんだ」

 のっけからわけのわからない相談を愛流から持ちかけられた。無視するわけもいかず、

「ほう」

 と相づちをうち、自らの定位置となっている椅子に腰かける。

「例えば?」

「例えばそうだね」

 こほんと咳払いをし、愛流は続けた。

「さぁて、来週の郁次郎さんはー。

 こんにちは、愛流です。こないだ近所の犬の頭撫でてたら噛まれました!頭に来たんで眉毛を書いてやりました。さて次回は、

『郁次郎、数Aの補修』

『郁次郎、数1の補修』

『郁次郎、化学の補修』の三本です。

 来週もまた、見てくださいね!」

「谷崎てめーばらしたな!!!」

「じゃあんけんっぽいふふふふふ」

 いつもより『ふ』が多いぞ、アイル。なにがそんなに可笑しい!?


 そんな俺たちの愉快なやり取りをちらりと見つめ、

「愛流も赤点三つでしたよ」

 と瑠花はぼそりと呟き、すぐに目線を手元の本に落とした。

「な、なんでバラすの!?」

「一緒になって勉強したのに酷いです」

「し、しかたないだろぉ」

 唇を尖らせて拗ねる瑠花を宥める愛流。微笑ましい光景だったが、俺は頭は明日の補修でいっぱいだった。

 やれやれだぜ。

 さぁ、切り替えて!

 今日も元気に部活動するぞぉー。

 俺はポケットから携帯を取り出して、アプリを開いた。


「やっと来たわね郁次郎」

 奥でお茶を飲んでいた谷崎はスックと立ち上がり、ホワイトボードの近くで仁王立ちした。それから気合いをいれるように大きく息を吸って、マジックのキャップを外す。

「さぁ、メンバーが揃ったところで、担当楽器を決めるわよ」

「は?」

 突拍子が無さすぎて、なんでもないのにキンクリされた気分だよ!


 混乱に拍車がかかる俺をおいてけぼりに彼女の暴走は止まらない。

「当方ボーカル」

「ちょ。ちょっとまてよ!」

「な、なに、郁次郎。 ボーカルは譲らないわよ!?」

 慌ててボードに、vo、KOTONEと書き付ける。腹立つ。

「って、意味わかんねぇよ。担当楽器ってなんの話だよ」

「バンドの話よ」

「はぁ!?」

「バンド組むって話よ」

「き、聞いてねーよ」

「あら、そうだっけ」

 鼻をふふんと鳴らし、ペンを器用に片手で回しながら言葉を続けた。

「こないだ合宿の話をみんなでしてたのよ。そしたらやっぱ強化合宿でしょ、って話になって、それならバンド組むでしょ、ってなったの」

 桶屋もびっくりな三段論法だ。

「って、他の人たちは納得してんのかよ!?」

 俺は部内をぐるっと見渡した。


「僕は野球がしたかったんだけどアミダくじで、負けたんだ」

「私は百人一首の強化合宿をしたかったんですが、アミダくじ負けたんです」

「さ、佐奈は出来れば家から出たくなくて、でも、アミダくじで、負けちゃった」

 どいつもこいつも頼りになんねぇな。


「で、郁次郎はなんの楽器がやりたいの?」

「やんねぇーぞ!」

「え、どうしてよ。バンド組めばモテるのに」

「都市伝説はお呼びじゃねぇんだ」

 それが本当なら世の男子高校生はみんなバンドマンだ。

「それに俺は音楽的センスが糞なんだ。モテる要素が微塵もない」

 自嘲ぎみに肩を竦める。冷房の稼働音だけが俺を慰めてくれていた。

「えー、べつにいいじゃない。郁次郎も エキセントリック少女ガールズの一員として頑張ろうよー」

「ひょっとしていまのバンド名か?」

 首肯する谷崎。冗談だろ!?

「他のやつらどう思ってんだよ!?」

 俺は部内をぐるりと見渡してみた。


「僕はフーフーファイターズって名前が良かったんだけど、アミダくじで負けたんだ」

「私は『マットの耳を内側にいれるがかり』っていうバンド名がよかったんですが、アミダくじで負けたんです」

「佐奈は『大崎豊』ってバンド名にしたかったけど、アミダくじで負けちゃった」

 愛流が一番マトモな意見って異常だよ!


「さ、これでわかったでしょ? バンドを組むのは必要事項なの。郁次郎もはやく好きな楽器言いなよ。ちなみに愛流がギター、瑠花がギター、佐奈先輩もギター志望よ」

「リズム隊が一人もいないじゃねぇか!」

「いるじゃない」

「は?」

「ここに……」

 自分の心臓をとん、と叩き、

「もしくは、そこに」

 それからすぐに俺を指差した。

「俺かよ!? 嫌だよ、やんねぇって言ってんだろ! 」

「もううるさいわね。世界を席巻するガールズバンドの始まりとしてはいさささかグダグダしすぎな気がするわ」

「ガールズバンド!? ちょっとまてよ! 俺は男だぞ」

「え、郁次郎は環境によって性別を変えられるんじゃないの?」

「生物学的に無理!」

「そっかー、んじゃ女装するしかないね」

「ガールズ&オカマバンドになるだけじゃねぇか。お断りだ」

「えー、でも比率が片寄ってると、絶対バンド内で男女のイザコザが起こって解散しちゃうんだよ」

 むしろ俺としてはそっちの方が都合いいが、困ったことに、バンドなんて組みたくないのだ。

「それだったらさぁ、最初から男の子なんていない風にしたほうがよくない?」

 ナチュラルに俺の性別はなかったことにされるらしい。

「はなっから俺いれなきゃいいだけの話じゃん」

「え、でもほら、五人の部活で四人でバンド組んでたら、ハブいたみたいになっちゃうし……」

 横に座る佐奈先輩の顔が少し青くなった気がしたけど、見なかったことにした。トラウマをいじるのはよくない。

「いや、いいよ気にしなくて」

「それに四人だと色分けできないし」

「戦隊ヒーローごっこなら一人でやってろ」

「バランス悪くない?」

「むしろ五人組バンドのほうが少ないだろ。ビートルズだって四人だし」

「あっはは、郁次郎バカだなぁ。アルバムの写真撮ってる人忘れてるよ」

「カメラマンだよ!」

 なんでこいつはそんなに俺をバンドに組み入れたいんだ。俺はリコーダーでさえ『ファ』の音がマトモにだせない未熟者だぞ。後ろの穴を少し開ける技が体得できてない俺に多くを望むな!

 どうにかしてこの危機的状況を打破しなくてわ。

「てか」

 ため息混じり呟く。

「この中で楽器やったことあるやついるかよ 」

 立ち上がって、周りを見渡す。

「僕はギターを少々」

「お父さんからベースを習ったことがあります」

「佐奈は、小学生音楽コンクールの時にドラムをマスターした」

「ほら見ろ! 誰一人として楽器やったこと、……って、てえええ!?」

 なにこいつら!?

「なんで無駄にそんな高スペックなんだよぉ!?」

 仮に出来たとしても正直に答えてんじゃねぇよ!


「ほらね郁次郎。みんな楽器できるのよ。だったらバンドやるしかないじゃない」

「って、ちょっとまて、こいつらみんなギター志望なんだろ!? なんでだよ!」

「「なんでっで」」

 三人でハモる。

「「かっこいいから」」

 アホの共鳴だ。


「だからほら、みんなで協力してコンピレーションアルバムナンオンセールしましょうよ」

「アルバムって商業的に大成する気かよ!」

 責めてシングルにして!

「そもそも曲とかどうすんだよ。全部コピーだったら本物聴けばいいだけの話だぜ? お前に曲作れるのか? 音符読めるのか? ト音記号書けるのか?」

「か、書けるよぉ、ばかにするなぁ」

 ほっぺたを膨らませるその仕草でさえ、今はイラっとする。

「曲は著作権の切れた童謡とかを使えばいいしさ」

 そういって谷崎はくるりと後ろを振り向き、ホワイトボードにいそいそと書きつ連ねはじめた。

「こんな感じで」

1、森のくまさん

2、メリーさんの羊

3、お花がさいた

4、森のくまさん(English ver)

5、森のくまさん(カラオケ ver)

「ネタギレ感半端ないな」

 五曲中三曲森のくまさんって異常事態だと思うよ。

「まぁ、思い付かなかっただけで、そういうのはいくらでもできるじゃない。だから、このアルバムでオリコン狙いましょうよ」

 無謀!

 リコーダーがマトモに吹けない俺が軽音部に対バンを依頼するくらい無謀じゃ!

「Mステ出たいねぇ」

 ほこほこ顔の谷崎は突然、

「あっ、そうだ。ねぇねぇ。ちょっと練習しましょうよ」

 思い付いたように手をパンと叩いた。

「む。でも楽器がないぞ」

「? 愛流なにいってるの? ほら、椅子並べて」

 急かされるように、愛流と瑠花と佐奈先輩はパイプ椅子を四つくっつけて、その上に座らされた。

「違う違う。もっとだらしなく座って」

「こ、こうですか?」

「足を前に投げ出すの!力抜いて! うん、そう、いいよ!じゃ、みんな、正面の郁次郎見てね」

 クエスチョンマークを飛ばしながら谷崎の言う通りに行動する三人。右から二番目に腰かけた谷崎はぶっきらぼうな口調で口を開いた。 

「キャウントダウンテービィーを御覧のみなさん今晩は、エキセントリック少女ガールズです」

 俺は幼馴染みがイカれちまったことを静かに悟った。


「ね、ね、いい感じじゃない?」

 謎の曲についての創作エピソードを無表情で語り終わった谷崎は、一転にこにこしながら、横の佐奈先輩に話しかけた。

「う、うん」

 先輩困ってるよ!

「不覚にもちょっと気持ちよかった」

 まじかよ。

「えへへ」

 照れたように笑う谷崎。

 悔しいが確かに他の三人の表情は微妙に晴れやかになっている。

「ほらね、郁次郎。音楽は未来を明るくするのよ」

 くるりとこちらを振り向いて、谷崎は続けた。

「オリコンチャート独占も夢じゃないわね」

 夢だよ。

「頑張って売れるバンド目指しましょ」

「握手券とか付けたらいいんじゃねぇの」

 お前ら無駄に顔立ちは整ってるんだし。

「そんなの二番煎じじゃない。うまくいかないわよ」

「だったらこっちは乳揉み券とかにすんのよ」

 だれながら適当に返事する。冷房で冷たくなった机は氷枕のようで気持ちよかった。

「さ、最低! 変態! そんなこと思い付くなんて人間として頭のネジが緩んでるわ!」

「人に女装強いてる口が言うな!」

「わかった!それならエキセントリック少女ガールズ feat.郁次郎って感じで」

「微妙が合わさってるはずなのに急に奇跡のコラボ感がでた!?」

 ってまてまて騙されるな俺!

「ともかくバンドなんて絶対中途半端で終わるんだからやめようって」

「まさか。郁次郎、音楽性の違い?」

「人間性の違いだ、ぼけ」

 お前それ言いたいだけだろ。

「でも、中途半端に終わらせないために曲かいてきたのよ。目指せ武道館! 」

「お前、……こういうのっていつも形からはいるよな」

「いいから見てみてよ」

 照れたように頬を染め、俺に一枚の紙を手渡す。そこには彼女の思いの丈がぎっしりつまっていた。


# # # #


タイトル:会いたくて会えなくて、夏

作詞作曲:谷崎琴音



会いたくても、会えないから、それでもずっと会いたくて、瞳を閉じたら、君のそばに私がいる気がして

気のせいなんだけど


あれ でもちょっとまって 気のせいじゃ ないんじゃない

だって わたしは


全知全能唯一絶対泰然自若のメシアなり

天地裂け、この邂逅に謝辞を述べ、速やかに命を断つがいい


だって

だってね

恋する乙女は無敵だもん


# # # #


「どう、かな?」

「いろいろとおかしい」

 他のメンバーの反対もあって、バンド活動は休止と相成った。




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