冬
ぼくのなまえは、かいと、とゆー。
かぁしゃんのなまえは、みや。とうしゃんのなまえは、かい。
いもうとが、みやこ。おとうとが、かいじ。ぼくはそんなかぞくのいっぴきだ。
「かぁしゃん、またカイジがいにゃい」
目が覚めると僕の横にいたはずの弟の灰色の姿が見えなくて母に聞いた。
「さっき、『おれはたびにれる!』って外にいったからね」
「またぁ?」
この段ボールは四方の一つの壁が出入りしやすいようにない。カイジはそこからまた(・・)出てった
らしい。
と―――。
「びみゃーっみゃーっみゃーっ」
外でカイジが母を呼ぶ声がする。
「………冒険は終りみたいね?」
そっと立ちあがり母がカイジを迎えにいった。横にあった温もりが消えたので母と同じ毛色の都が身じろぎする。しかし、眠りは深いらしく一向に起きる気配はない。そうしているうちに母がカイジをそっと咥えて戻ってきた。スンスンと鼻を鳴らす僕の弟。こいつは弱虫のくせに、すぐ旅に出たがる。たいがい寂しくなって泣き出して母さんか父さんに咥えられて戻って来るのに行くのをやめようとしない。母も母で、そんなカイジを止める事はなかった。
「おかえりゅ」と僕がいうと「すん。たりゃいま」とカイジが答える。そんな事をしていると都が起きた。「かぁしゃん、ごはん」そういって母さんのお腹の下に潜り込む。慌てて僕等も後を追った。ケド
もうすでに一番での良い乳は都に取られていて………。否。優しい僕等が都に譲ってやったという事で―――。嘘です。ご飯の競争で僕等は都に勝てた事が無い。こいつ、睡眠欲と食欲だけは僕達の中で一番だ。もにゅもにゅとご飯を飲みながら僕等は三匹仲良く一緒にいる。時々、ふんずけられたり、ふんずけたりするけどそんな事気にも留めない。そんな僕等を母さんが優しく舐めてくれる。
「灰!」
母がそう呼んだ。僕達の父さんが来たらしい。
「今日も元気そうだな」
「うん。灰はまた誰かいじめてきたの?」
そう言って母さんが父さんの毛を舐めてやる。
「いんや、絡まれたから軽く撫でてやっただけ」
「カワイソーに。灰に撫でられたら暫くこの辺寄りつけないね」
「可哀想なのは俺だ。朝からいらん運動させられたんだからな」
「じゃあそういう事にしといたげるけど」
そんな話をしながら親子五匹、段ボールの中でで丸くなる。
父さんと母さんはポンポンと軽口を言いあう。それはいつも楽しそうで見ていて嬉しい。
「とうしゃん、とうしゃんはこのへんのボスにゃの?」
「んあ?いきなりどーした。残念だが俺はそんなめんどくさいもんじゃないぞ?」
「よくいう。宮にもそういったけど、結局ボスみたいなものじゃない」
呆れたように母さんが言う。
「ボスだけど、ボスじゃにゃいの?」
よくわかんにゃいーというと大きくなったら分かるかもなって言われた。そうなのかなぁ。
外はまだうんと寒いけどここはポカポカ暖かい。
短いお話でしたが、お付き合い下さったかた、有難うございました。