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第6話 家族団らん、よぎる既視感

「いただきま~す!」

「いただきます」

「……頂きます」


「はい、召し上がれ~」


 俺と咲夜さくや、おふくろに親父。食卓は毎晩4人で囲む。親父の仕事が遅くなる日もあるが、基本は全員が揃ってからの晩飯となる。


「そう言えば咲夜さくや。演劇の方、どうなってるの? そろそろ脚本決まった?」


「あれ? お母さんに言ってなかったっけ? 今回は投稿サイトから持って来ることにしたんだよ。先生が産休入っちゃったからさ」


「ああ! そう言えば言ってたわね、そんな事! 町田まちだ先生、もうそんな時期なのね~ 咲夜さくや、アンタ折角だから脚本書いてみればよかったのに。面白そうじゃない!」


「え、私が! ムリムリっ! あんなの、学生が書けるわけないって!」


「やり甲斐があるからこそ良いんじゃない! お母さん、何事も挑戦だと思うけどな~」


 会話の中心は、主に咲夜さくやとおふくろ。親父は無口なので、あまり話には参加せず。そして俺は……まあ言わずもがな。ひっそりとテレビを見ながら、粛々と食べ進めるタイプだ。こちとらボッチ飯には慣れておりますので、全く苦じゃありません。


『――次のニュースです。本日、如月きさらぎ学園の歴史的快挙が為されました!』


 俺と咲夜さくやの通う如月きさらぎ学園の名が出た事で、おふくろ達の会話が止まる。全員の視線がテレビへと釘付けになった。


『剣道インターハイ、個人戦。王道妃花おうどうひめか、圧巻の優勝です! これで中学大会を合わせ、計6大会の完全制覇! まさに破竹の勢いです! 早速お話を伺ってみましょう!』


 アナウンサーが興奮気味にまくし立て、剣道着をまとった人物へと近づいて行く。


『優勝おめでとうございます! 今回の大会、如何でしたでしょうか!?』


 マイクを向け、返答を待つアナウンサー。まだ防具を付けている相手に、それは酷じゃないか? 面で顔も見えないだろ……


 剣道着の人物は丁寧な所作で面を外すと、その顔が露わになる。うっすらとピンクに蒸気した頬、結んだ唇からは短くひとつ息を漏らす。


 黒髪を手拭てぬぐいでまとめ上げた、綺麗な女性の姿が映り込む。

 小手を器用に動かしマイクを掴むと、カメラに真っ直ぐと目線を向けた。


『先ずは皆さんに、感謝の意を。応援、有難う御座いました――』


「あ、王道さんだ!!」


 テレビに映った人物を見て、咲夜さくやが目を輝かせる。あまりにもキラキラとした目を向けていた為、つい気になってしまった。


「誰だそれ?」


「え!? 王道さんだよ! 王道妃花おうどうひめか、お兄ちゃん知らないの!?」


「…………知らないなあ」


「うそっ!! うちの学校の超、超、超有名人じゃん! ニュースでも何度も取り上げられてるじゃん!」


 そう言うお前も、うちの学校じゃ相当な有名人なんだぞ?

 文武両道で生徒会長も務める完璧超人――自覚を持てよ、妹よ。


「王道さん、剣道八段なんだよ! 八段!! 高校生で八段なんて、他にいないんだからね!」

「ふ~ん、八段ねぇ…… 何が凄いのか、俺には良く分かんないけどねぇ……」


 実の無い相槌を打ちながら、テーブルの上のだし巻き卵をひとつまみ。おふくろの作るだし巻きは醤油ベースで俺好みだ。砂糖ベースの甘い味付けのやつは性に合わないからな!


「剣道なんて、別に興味もないし。そもそも俺に関係ないし。そんなに騒ぎ立てる様な事かねぇ?」

「……ハァ。お兄ちゃん、それはないわ~ もう少し世間に興味持ちなよ。学園中が注目してるんだよ? 散々噂になってるじゃん。その『俺は他の奴らとは違うんだ』みたいなひねくれた態度、治した方が良いと思うけど?」




 あ……ちょっとカチンと来ましたよ?


 ただ「興味が無い」って言っただけなのに、なんでそんな事まで言われなきゃならないんだよ。


 すまし顔で味噌汁をすする咲夜さくやに、箸の先端を向けてカチカチと鳴らす。


「あのな、咲夜さくや。剣道八段って言うけどな。剣道やってない俺からすると、それがどれだけ大変な事なのか伝わって来ないんだよ。八段の合格率ってのはどんなもんなんだ? お前、知ってるのか?」


「それは……知らないけど……」


 ほら見た事か。


「そうだろ? 知らないよな? 凄い凄いって言ってる奴らも、どうせ何が凄いのかなんて、本当の意味ではわかっちゃいない。俺はそんな風に、周りが言ってるからって、適当に周囲にあわせる様な生き方はしたくないんだよ」


「…………1%」


 突如会話に割って入った、低い声。


 ――親父だ。


「剣道八段の合格率は、多く見積もっても1%程度だ。そもそも八段に上がるには年齢制限がある。修行年数も膨大だ。高校生で八段に上がれたのは特例中の特例……過去に聞いた事の無い話だな」


 親父はそう言いながら茶碗の飯をかきこみ、お茶で流し込む。空になった茶碗をテーブルに置くと、ゆっくり俺に向き直った。


一真かずま、お前の言わんとする所は分からんでもない。他人に流されない自我を持つのは良い事だ。だがな……自分に関係のない話だとは思うなよ。同じ学園に通う一つ年上の先輩が、それだけの偉業を成し遂げているんだ。お前は一年後、自分にはいったい何が出来るのかという事を、良く考えておけ。それと――」


 親父は席から立ち上がる。なんだよ……また説教か? そもそも一年後の事なんて分かる訳ないだろ? 苛立ちを抑える為、俺はコップに注がれたお茶に手を付ける。


「留学の計画についても、そろそろ詳しく教えろよ」


「――――ごほっ!!」


 不意の一言で、思わず咳き込む。

 お茶が思いっきり肺に雪崩れ込みました。踏んだり蹴ったりだ、もう泣きたい。


 去り際の一言を残し、親父はそのまま二階へと引っ込んだ。咲夜さくやの方をちらりと見やると、若干目が泳いでいた。


『王道さん、これで宣言通りのインターハイ3冠となりましたね! どうでしょうか、今の心境は!?』


 画面に映る王道は、頭に巻きつけた手拭てぬぐいに手を掛けた。アナウンサーが白熱しており、取材が長引いている。いつまでも髪を縛ったままだと窮屈なのだろう。


 手拭てぬぐいが取られると、真っ黒なロングストレートがふわりと舞う。

 そして王道はその長い黒髪を左手ですくい上げると、さらさらと横へと流した。


(…………あれ? あの仕草って……)



 …………気のせいだろうか?


『勝負に勝てた事は、素直に嬉しいです。ですが大切なのは、私がおのれ自身に打ち勝てていたかどうか、それだけです。決して歩みを止めず、私はただ……強くなりたい』


 一度でも気になり始めると、止まらない。

 喋り方にもどことなく、既視感があった。


『もし、私と手合わせしたいと願う者がいれば、是非とも如月きさらぎ学園を尋ねて来て欲しい。私はいつ、何時なんどきであっても、いかなる挑戦をも受け付ける! より強い者と戦えるその時を、楽しみにしています』


 凛と胸を張り、そう宣言する王道の有様は――

 『アビスレイル』で出会った銀髪の彼女に、どこか似ている気がした。

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