表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/7

第4話 いきなりの美少女、時々オーク

「しっかし、やっぱ本格派VRはひと味違いますなあ!!」


 鼻を突く腐臭は相変わらずきついけど、これも考えようによっては凄い事である。ここまでリアルに五感を再現できるなんて……よくあんなデバイスひとつで可能になるものだ。


 解像度の高いグラフィックは、激しい動きでも一切ぶれることが無く。

 レスポンスの良いメニュー画面。オサレなUIに、思わずにんまりと口が緩む。


 たかがUIと侮るなかれ。ゲーム中に最もプレイヤーが目にする機会が多いのが、このメニュー画面なのだ。そこに力を入れられないゲームは、等しく凡作なのである。※諸説あります。


「神は細部に宿るんじゃよ……」


 ゲーム量販店に置いてあるVRゲームを幾つか体験した事はあったけど、何から何まで桁違いだ。言っちゃ悪いが、今まで俺がプレイして来たあいつらは全部「二流品」。こうして「本物」をプレイしてみると、より一層それを感じるってなもんだ!


「よし! それじゃ、他のスキルも色々と試してみますかね!」


 意気揚々と『SKILL』画面を開く。

 相変わらず、えげつない程のスキルの数だ。


(初期ポイントって、いったいどれくらいあるんかね?)


 せっかく初っ端からこれだけのスキルがあるんだ。まさか実際に習得できるのはひとつだけ……なんてオチはないよな?


(ポイントは全部使わずに、ある程度残しておいた方が良いかな? 序盤の狩り効率を考えるなら、自己バフ系のスキルも取っときたいな)


 そんな事をあれこれ考えていると――――



「ブゥウルアアアアアアァァッッ!!!!」



 突如、野太い雄叫びが響き渡る。

 鼓膜にダイレクトに突き刺さる大音量、いてぇよっ!!


「なっ、何なんだよ、いったい――!?」


 両耳を塞ぎながら周囲を見渡すも、特に異変は見られない。だが、何だろう……木々がざわめいている気がする。気のせいだろうか?




 ……何だか面倒な事になりそうだ。


 ここはひとつ、あの雄叫びは聞かなかった事にして。

 さっさとこの場からズラかりますかね――――



「ブゥウルアアアアアアァァッッ!!!!」

「ブルルッアアアアアアァァッッ!!!!」

「ブタゥゥウッルアアアアアアァァッッ!!!!」



「ちょっ!! なんか増えてません!!??」


 空気を震わす重低音、明らかにモンスターの物だ。

 それも一匹二匹じゃない。随分と荒ぶるってる、何事ですか!?


 モンスター同士の縄張り争いだろうか……?

 それとももしかして、俺以外のプレイヤーがこの近くにいるとか?


「……ちょっとだけ。ちょろーっとだけ。様子を見るだけなら、きっと大丈夫……」


 恐怖はあったが、そこは好奇心が勝った。

 あの叫び声、どう考えても尋常じゃない。そうと決まれば、善は急げだ!


「声が聞こえたのは……あっちの方角か……!」


 別に恐れる事なんて何もない。

 仮に狂暴なモンスターが待ち構えていたとしても、それがなんだ。全てゲームの中での出来事じゃないか。しかも、俺はまだゲームを始めたばっかりの初心者……いま失う物なんて、何もないんだよ!


「見えて来た……! ん? あいつは――」


 枯れ木の間をかいくぐり、声の出所に辿り着く。

 視線の先には、山の様に巨大な緑の体躯。


「ブゥルルルルルルッツ……!!!!」



 オークだ――


「で、でっけぇ……」


 全長は二メートルはゆうに超えているだろうか。

 隆起した筋肉、下あごからは鋭い牙が左右に二本。右手にドでかい棍棒を握りしめ、棍棒の表面には、何やらドロりとした深緑の液体が塗りたくられている。トレードマークの豚鼻を携え、ドスの効いた唸り声が周囲に響き渡る。


 そこには、計六匹のオークがいた。

 だがオークたちは、俺の存在に気付いてはいない。奴らは皆、一点を睨みつけている。


 オークの視線の先には、一人の少女の影――


「多勢に無勢か」


 銀髪の女騎士の姿があった。

 細身のレイピアを右手に握りしめながら、つまらなそうに地面を見つめている。


「まったく……弱い奴ほど良く群れたがるものだな」


 女騎士は空いた左手で自らの髪をすくい上げると、そのまま真横へとさらさら流した。白銀のロングストレートが宙でなびく。


 華奢な四肢、動作のひとつひとつが気品に満ちている。この薄暗い森の中で、彼女の存在は一層際立って見えた。


 いや、こんな表現はまどろっこしいな。

 単刀直入に言おう。


 ――――美しい、ただそれだけだ。


 その言葉以外に、適切な表現が思い浮かばない。



「ブガアアアァアアアァアッツ!!!!」


 オーク共が一斉に飛び掛かる。

 耳をつんざく咆哮。六つの巨大な山々が、彼女目掛けて雪崩の如く突進する。


「あっ、危ないっ――!!」


 思わず手を伸ばす。

 もう間に合わないと分かっていても、咄嗟に体が動いてしまった。


 だが当の本人である彼女は、あろう事か目を瞑ったのだ。

 一瞬、レイピアの刀身が輝いたかと感じたその刹那――



「【真・七連彗星剣ななれんすいせいけん】――――!!!!」



 瞬きをするわずかの間に、勝負はついていた。


「なっ……ええぇっ――――!!??」


 目にも止まらぬ連撃とは、まさにこの事だ。


 レイピアが描く斬撃はオークの肉を安々と切り裂き、その巨体を次々と跳ね飛ばした。オークは後方まで吹き飛ばされ、ズズンと大きな地鳴りを上げる。


「……他愛ない。高難易度ダンジョンって言っても、所詮はこの程度か」


 女騎士はレイピアを一振り、そのまま鞘へと納める。キンとつばが鳴るのと同時に、倒れたオークは霧散して、粒子が空へと昇って行った。


「す、すごい……! あれだけの数を、一撃で……!」


 あまりにも無駄のない、洗練された動き。

 思わず、見とれていた。



 そんな女騎士の丁度背後で、違和感。

 薄暗い闇で光る、二つの紅き両眼が――


「後ろっ!! まだ一匹残ってる!!」


 木々の間から現れた一匹のオークが、女騎士目掛けて両腕を広げ突進する。


「ブルルルルルルッツツ!!!!!!」

「――――!?」


 異変に気付いた女騎士が再びレイピアに手を掛けるも、一手遅い。あれでは間に合わない!


 俺が、やるしかない――――!!


 襲い来るオークへ向かって手をかざし、スキルを唱える。深くは考えるな。俺が今扱えるのと言ったら……ただひとつだけだ!


「くらえっつ!! 【デス・ハウンド】!!」


 ブガアアアアアアアアッツ――――!!!??


 唱え終わると同時に、決着。

 ものすごい断末魔を上げながら、オークは一瞬で爆散……塵となった。


(…………やったのか?)


 フラグじゃないぞ?

 もう跡形もないんだからな!


 さっきのスライムもそうだったが、実にあっけない幕引きだ。スキルを発動した俺の方も、いまいち感触が無い。もっとこう……無いのか? 手からビームを出したりとかさ。


 俺の一連の行動に、目をぱちくりとさせる女騎士。


 あ、目が合った。


「今の……君がやったのか?」


 レイピアの柄から手を離し、女騎士は俺へと向かい合う。


「……危ない所だった、礼を言うよ。お陰で助かった」


「いえ、ハハハ…… 間に合ってよかったです」


「我ながら慢心だな、背後の気配に気づけぬとは…… 君がさっき使ったのは、魔法系のスキルか何かだろうか?」


「あ~……」


 すいません。俺も良く分かってないんです、アレ。

 多分、攻撃魔法だとは思うんですけど……


 とは言えず、言い淀んでしまう。


 あれだけ堂々と戦闘に割って入ったのに、自分の使ったスキルすら把握していなかっただなんて……流石に恥ずかしすぎる。とりあえずオークは倒せたんだから、まあ結果オーライではあるけど。


「ああ、すまない。先ずは自己紹介をすべきだったな。私はリンデ。あと、敬語は不要だよ。肩肘張らずに、気軽に話してくれたら嬉しい」


「あっ……ハイ、分かりました。……じゃなくて……分かった。俺は御剣一真って言うんだ。よろしく、リンデ!」


 笑顔を向けると、リンデは優しく微笑み返してくれた。


「ミツルギカズマ……だったらカズマか。よろしくな、カズマ」


 いきなりの名前呼びに、思わずドキりとする。


 しかし、なんて儚げな微笑だろう。

 女神だ――いや、誇張抜きで。キャラメイクでここまでの美少女って作れるものなのか? ゲームの進歩は凄まじいな、うん!


 それに引き換え、俺はうまく笑えていただろうか? ここ最近、妹以外とまともに話す機会なんて無かったから。この辺りのさじ加減がさっぱりだ。距離感バグってないよな? 初対面で「気持ち悪い」だなんて思われた日には、一晩しくしく泣きますよ?


「ふむ……」


 ほら、リンデも。なんか俺の事を、ジッと見つめて来てるじゃないか。眉を潜めながら、難しい顔をしている。やっぱり俺、なんか拙い事をしたんじゃ……


「君……よくそんな装備でここまで来られたな?」


「……へっ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ