第3話 スライムは試し斬りに使うって、ゲーマーの常識よ?
よし、早速ゲームスタートだ――
意識が覚醒すると、そこは真っ白な空間だった。
「なるほど……先ずはキャラメイクね」
『誰とも違う個性』を売りにしているだけあって、『アビスレイル』のキャラメイクは自由度が高い。種族一つをとってもみても、ヒューマン、獣人、エルフにドワーフと、RPGでよく見る様なカテゴリーは一通り揃ってる。
「まあ、ここはヒューマン……デフォルトかな。顔もプリセットをちょっといじるくらいで。それでもそこそこイケメンだしな! 髪の色はっと――」
宙に浮かぶウィンドウをひょいひょいと操作して、お目当ての色を見つけて来る。こちとら根っからのゲーマーなのだ。キャラメイクのイロハなんて知り尽くしている。
「おっ! あったあった! いいじゃん!」
ダークブルー――髪色はやっぱりこれに限る。
青髪ってなんか「冷静沈着に敵を屠る」ってイメージがあるよな!
「戦いに、余計な感情はいらねぇのさ」ってか? ……ヤダ、格好いい!
「えーっと…… 名前は『御剣一真』っと。ジョブは――」
ジョブ選びは重要である。
『アビスレイル』はスキルの数が膨大だ。「ジョブ×スキル」の組み合わせ、これこそがこのゲームの肝と言っても良いだろう。
初級、中級レベルのスキルならば、どんなジョブでも取得できるように設計されている。例えば治療師じゃなくっても、簡単な治癒魔法くらいだったら、どんなジョブでも扱えるって具合にだ。
だからこそ、重要となって来るのは上級スキル……中でも、各ジョブごとに割り振られた『ユニークスキル』は、他とは一線を画す性能を有すると言う。
近接職がいくら頑張ろうと、魔法の「極み」には至れない。
逆もまた然りと――
「無難に『剣士』か……いや、『魔法使い』も捨てがたい! いいとこ取りの『魔法騎士』……いやいや、接近戦を極めるなら『格闘家』って線もあるなっ!!」
――ダメだ、時間が溶ける。
取り敢えず、今回はお試しプレイなのだ。
晩飯の時間が迫ってる。それまでには引き上げねばならない。
「まあ初期ジョブなら後からいくらでも変更可能って話だし…… ここはありきたりな『剣士』にしときますかね!」
ジョブを選び終え、いよいよゲームが開始する。
さあ、バーチャル空間へ飛び込もうぜ――!!
「…………な、なんだここ……?」
目の前には暗い森が広がっている。
木々は萎れて腐り落ち、枝には葉っぱがほとんど残っていない。足元は泥でぬかるみ、体重で僅かに沈んでいく。見渡すと、あちらこちらに緑色の沼が見える……
「おえっ…… 何だこれっ! 酷い臭いだっ……!」
鼻を満たす腐臭……どこから湧いているのだろうか?
五感はバーチャルな物だと分かってはいても、これはきつい。
「いきなりなんだよ、これぇ……!」
早速の涙目だ。
今日一日で、いったい何度泣くのだろうか……
おかしい――
普通こう言ったゲームは、「旅立ちの街」みたいな初心者エリアから始まるのが一般的なんじゃないのか? もしくは「チュートリアル」。手始めに簡単なダンジョンをクリアさせて、ゲームの基礎を教え込む。RPGならよくある事だ。
もしかして、これがそう?
(んな訳あるかっ!! こんなのがチュートリアルだとしたら、流石に悪趣味すぎるだろっ!!)
腐臭にも慣れて来て、セルフツッコミも冴え渡る。
待てど状況は変わらないので、とりあえずメニュー画面を開いてみる事にした。画面の真ん中には、先程作成した自分のキャラが立っている。ダークブルーの短髪がこちらを見つめている。
やはりもう、ゲームは開始しているという事なのだろうか?
でも、いきなりこんな酷い場所に投げ出されるなんて……
「あー、分からん!! くそ、メニュー画面も……何が何だかよく分かんねぇよ! …………ん? これは……?」
手当たり次第にボタンを押していると、『SKILL』と書かれたページが開かれていた。
「スキル画面か? ……なんか……めっちゃあるぞ……?」
ページいっぱいにずらずらと並ぶ、スキルの数々。
「なになに~? 十文字斬り、真空突き、居合の段、彗星剣と…… はえ~」
画面をスクロール、スクロール。
下まで辿り着いたらページをめくりと繰り返し――
「居合斬り、火炎斬り、烈風斬り、五月雨突き、月光斬、真空破、毒撃の剣、虚空斬、紅蓮の太刀、次元斬、迅雷疾風、嵐牙一閃、炎龍突き、雷槍瞬連撃……」
…………ん?
「虚の構え、雷の一振り、金剛斬、業火裂空破、落葉一閃、血盟斬り、爆撃烈風斬、陽炎の構え、反魔空絶斬、風神の舞、閃光突き、滅牙斬、魔法剣、氷結の太刀、新月斬、狂獣乱舞、雷光破、双月斬り、蛇龍烈破、滅心突き、断空斬、常夜の構え、不可視の太刀、黄金烈破、一刀残心、闇夜の剣、嵐牙空絶斬り、怨嗟の一振り、地爆一心斬、峰打ち、無風斬り、反魂の構え、鮮血突き、滅茶苦茶斬り、蒼月斬、空蝉斬り、紫電一閃、裏突き、蛇流三の太刀、舞空剣、真空二連破、覇王滅我斬、氷雷剣、覇王斬鉄剣、死魂の剣、無垢の神槍、弧月斬、獅子の舞、六道滅心、八岐の構え、幻影武空斬、空神双頭光翼剣、龍神火炎滅却斬、白虎爆裂無双撃、真・紅蓮の残火一太刀、絶・十連彗星剣、獣化・無双打連撃、封魔・滅却狼牙斬、極・氷槍七連撃、舞・無限の舞――――」
いや待てっ!!!!!!
…………待て待て待て待てっ!!
多い多い多い多い、多いって!!!!
やたらと難しい漢字の羅列から、「居合斬り」の様な分かり易いものまで。次々とページをめくって行っても、終わりが見えない。
「流石に多すぎるだろっ!!」
ここに書かれたスキルが、全部使えるという事だろうか? 凄い数だぞ……? いくらスキルの数が『アビスレイル』の売りとは言え、ゲームを始めたばっかりで、こんな事ってあるか?
「ファイアボール、ライトニング、ブリザード、ヒーリング、クロックアップ……この辺りのやつは魔法か? すげぇな、いったいどんだけあるんだよ……?」
ひとつひとつ目を通すのは諦めた。
何十ページもめくり、ようやく最後の欄に到達する。
「こいつがラストか?」
そこに、何やら禍々しきオーラを見つけた。
黒い靄の様な物が滲み出ており、スキルの名前が赤文字で輝いている。
明らかに――他とは違う雰囲気だ。
「スキル名…………『デス・ハウンド』……」
赤く輝く文字に、瞳が吸い寄せられる。
無意識の内に、画面をタップしてしまっていた。
「あっ、しまった。効果読んでなかったわ……」
押してから正気に戻る。
黒いオーラに惹かれて、失念していた。
ピコンと言う軽快なコマンド音と共に、「スキル習得完了」の画面が映し出された。『アビスレイル』のスキル習得は、ポイント制だ。レベルアップと共にスキルポイントを獲得し、そのポイントを使ってスキルを習得する。これが基本。
「……とりあえず、使えるようになったって事なのか?」
まだレベルは1のはずなんだが。
(多分、ゲーム開始と同時に貰える「初期ポイント」か何かなんだろうな!)
あまり深くは考えず、そう納得する。初心者にもしっかりゲームを楽しんでもらおうとする、この細やかな配慮……素晴らしい新設設計じゃないか!
一人でうんうん頷いていると――
がさがさっ――
「――――!?」
突然、近くの茂みが揺れた。意識がスキル画面に向いていたので、想像以上に驚いてしまった。と同時に、茂みの中から緑色のスライムが現れる。
「ぷるぷるぷる」
半透明でぷるぷるとしている。可愛い。
これが『アビスレイル』のスライムか。スライムと言ったら、イメージは断然青色なんだけど。緑色ってのは珍しい。何だか苔みたいだな。
「ぷるっ、ぷるっ、ぷるっ」
苔スライムは泥の上をぷるぷると飛び回るだけ。害はなさそうだ。
だが、悲しきかな。
スライムってのは技の試し打ちに使われるものだと、相場が決まっているのだ!
恨むのならば自分の運の無さを恨んでくれたまえ。
「よし! 早速今手に入れたやつを、試してみるか――!」
スライムへと手をかざし、
「くらえっ、【デス・ハウンド】!!」
そう唱える。
効果は分からないけど、まあ何かしら起きるだろ――
ぴぎゅっッ――――!!!!!!!!
瞬間、スライムは破裂した。
同時に緑の液体が飛び散って、服にべっとりと付着した。うえっ、ばっちい……
「……倒した、のか?」
何だろうか、この感触は。
何と言うか……手応えがまるでない。
「跡形も無いな」
爆散――という表現が適切かは分からないけど。スライムがいた痕跡は、もうどこにもない。
【デス・ハウンド】ってのは、魔法の一種なのだろうか?
スキル名を唱えた瞬間にスライムが破裂したので、攻撃魔法の一種だとは思うんだけど……
ま、何はともあれ――
スキルは無事に使えた。記念すべき初勝利だ!!
そして同時に浮かび上がる、嬉しき事実。
先程の画面に表示されていた無数のスキル――あれらは間違いなく、今の俺が所持してるスキルって事だ。要はポイントさえ払って習得してしまえば、今後はあれらが全部使い放題ってか!?
(おいおいッ!! まだゲームを始めたばっかりだってのに、もうこの自由度か……!! 『アビスレイル』……すげぇなんてもんじゃねぇよっ!!)
噂で聞いていた以上だ。
早送りでスキルページをめくっていたから、どれほどの数があったのかはパッと分からないけど。初期キャラにこれだけのスキルが備わっているなんて、他のゲームでは考えられない! この作り込みは計り知れないぞ!
ゲーム開始30分。
俺は深淵の世界に、すっかり魅了されていたのである。




