第2話 集え、深淵を覗く者たちよ
御剣一真。17歳、学生。
好きな物、カレーライス、ゲーム。あとゲーム。
親父の眼が厳しいんで、平日のゲームは一日一時間が限度。
代わりに、親父が家を空ける土日にがっつりとプレイするスタイルだ。
ビバ引きこもり! インドア万歳!!
…………自己紹介ってこんなもんか?
思い返せばこの17年、パッとしない人生だった。
自分で言うのもアレだが、俺の青春には華が無い。何をするにも平凡以下、無味無臭。自分なりに色々と努力はしてみるものの、報われず。空回りの連続で悪目立ち。
気付けばクラスでも孤立して、みんな遠巻きに俺を見てる。冷たい視線、ひそひそ話。友達? 何それ、学校七不思議?
それに引き換え、一つ年下の妹の咲夜と来たら……
品行方正、学業優秀、スポーツ万能。誰に対しても分け隔てなく優しい人格者。友達も多く、教師陣からの信頼も厚い。その上、我が如月学園の生徒会長まで務める、完璧超人と来たもんだ。
高校一年でもう生徒会長だぞ!? 有り得るのか、そんな事が!?
同じ環境に居てなぜこんなにも差が付くのだろうか……分からない。
「一真先輩ってさ~ 咲夜ちゃんのお兄さんなんだよね?」
「らしいよね~ 苗字おんなじだし。正直、兄妹とは思えないよねwww」
「だね~www 一真先輩って何やっても微妙だし~ パッとしないって言うか~」
「それなwww あれは良い所をぜーんぶ妹に持って行かれちゃったんだろうねぇ……搾りかす的な?」
「きゃはははは!! 何それ、ウケるwwww」
廊下でたまたま聞いてしまった、後輩たちの悲しき雑談が蘇る。
陰口ってのは、本人が聞いていないからこそ成立する言葉だぞ? 俺に聞こえてる時点で、それはただの暴言ですからっ!!
「あっ……ヤバい。泣きそ……」
ジワリと涙が浮かんできた。せっかく念願の「ブツ」を手に入れた、晴れ晴れしき日だと言うのに…… なんでこんな昏い気持ちにならないといけなんだよ。やめだ、やめやめっ!
「現実なんてどうでも良い! 俺の未来は、この世界にあるんだよ!!」
説明書にでかでかと書かれた、ゲームタイトル――
あ、ちなみに。
ゲームの説明書は読まないタイプです。面倒くさいからね。
「アビスレイル――ようやく俺も、この世界の住人になれるんだ!」
『アビスレイルオンライン』――
世間にまだVR技術が浸透し始めたばかりの頃。大手ゲームメーカーが開発に着手した、超大作VRRPGだ。
構想10年、開発コスト云千億円などなど。
誇大広告かって突っ込みたくなるほどの宣伝の数々と、幾度の延期を繰り返し。ようやく発売までこぎつけた、仮想現実オンラインゲームの申し子――
それこそが『アビスレイルオンライン』だ。
リリースされて僅か半年、『アビスレイル』は瞬く間にVRRPG業界を席巻した。
このゲームの強みは何といっても、『キャラ育成の自由度』にある。
豊富なジョブ、膨大なスキル。それらを自由に組み合わせ、自分だけのオリジナル育成が可能。育て方によっては、「暗殺スキルに全振りした闇落ち戦士」や「杖で殴った方が強い脳筋魔法使い」なんて、あべこべプレイも可能なのだ。
「まあ、わざわざそんな事やるもの好きはいないと思うけどな……」
ゲーム発売から早3年。
もしかしたらそんな縛りプレイを楽しんでいる猛者も、中にはいるのかもしれない。
ゲーマー魂をくすぐる様々な仕掛けが施されているのも、『アビスレイル』の特徴だ。解放条件が複雑な隠しスキル。ゲーム内にひとつしか存在しない、希少なユニーク装備。未だ踏破の兆しすら見えない、超高難易度ダンジョンの数々。
VRMMOならこれが欲しいってラインナップを、見事完璧に取り揃えている。
「流石は大手ゲームメーカーが作ってるだけあるよな! ちゃんとゲーマーのツボを押さえてやがる!」
そもそもレベルの上限は幾つなのだろうか?
どれだけのスキルが存在するのか?
ゲーム内ダンジョンの数も、ボスの数も……何もかも。
発売から3年経った今でも、その全貌は明らかとなっていない。
(まあこの辺の話は全部、クラスメートが話してた内容の受け売りなんだけど)
もしこの部屋にPC環境が整っていたら、俺は毎日でもwikiにかじりついていたに違いない。他の事なんて、何一つ手に付かなかっただろう。そういう意味では、「スマホを持たせない」って親父の判断は、ある意味正しかったのかもしれないな。認めたくないけど。
「自分だけの育成か……」
ゲームのキャラは、自らの分身だ――
だからこそ「他の誰とも違う」と言うのは、何よりも魅力的な「強み」となる。
そんな『アビスレイル』の世界に、多くの人間が魅了され、一人また一人と、ゲーマーたちは深い沼の中へと沈んで行った。ひとたび深淵にハマったら最後、寝食忘れてゲームにのめり込んでしまうとの触れ込みだ。
「ひとアビ行こうぜってか……ははっ」
CMでお馴染みのキャッチコピーが、脳裏に蘇る。
結局、一緒にプレイする友人は見つからなかったとさ。南無さん。
「良いよ……友達はアビスレイルの中で見つけるからさ」
寂しき独り言をつぶやきながらも、俺はポケットからメモを取り出す。殴り書きされているのは、16文字の英数字。親父の部屋に置かれたPC……その近くに備え付けられたルーターのパスワードだ。親父の居ない間に部屋に忍び込んで、何とかこれだけは入手したのだ。
「とりあえずネットに繋いでっと…… あとはぶっつけ本番だな!」
パスワードを入力し終えると、俺はヘッドギアを深く被る。そしてそのままベッドへと横たわり、早速ギアの電源をONにしたのだった。




