プロローグ とあるダンジョン、ボス前にて
VRMMO攻略において、一番重要な物とはいったい何だろうか?
プレイヤースキル、……然り。
恐らく、多くの者が真っ先にこれを挙げるに違いない。ゲームが上手いってのは絶対条件だからな。
強力なアイテムや装備、……これもまた然り。
こいつは「強運」と言い換えても良いのかもしれない。もしレアアイテムをドロップしたのなら、それだけで他プレイヤーよりも優位に立てる。時として、「運はゲーム技術を凌駕する」という訳だ。
或いは「情報」こそ、最も価値ある物だと答える者もいるかもしれない。
経験値効率のいい狩場、ダンジョンボスの弱点、はたまたギルド同士の派閥争いなどなど。確かに情報は、他者を出し抜く力になる。これも大切だな、うん。
……まあだが結局のとこ、そんなのは全部本質じゃない訳さ。
俺たちは所詮、この広大なバーチャルゲーム世界の一員に過ぎないんだ。ちっぽけないちプレイヤーがどれだけ頑張ったって、たかだか知れている。
オンラインゲームに置いて、他のプレイヤーとの協力は必要不可欠。ソロで楽しめる範囲には、どうしたって限界がある。
結局何が言いたいのかって?
VRMMO攻略において、何よりもまず重要となる物。それは――
「あの奥の扉がボス部屋かよ……!」
ごくりと喉を鳴らす赤髪の戦士。彼の名前はケイト。薄茶色のレザーアーマーを装着し、右手にロングソードを握りしめながら。ケイトは唇の端を吊り上げた。
ここはとあるダンジョンのボス部屋前。前方数十メートル先には、大きな扉がドンと待ち構える。そしてその扉を守護する様に、スケルトンの群れが部屋中にひしめき合う。
「まさか、たった5人のパーティーでここまで来れるなんてな! ヤベーよ……マジでヤベーってコレっ!!」
「……騒ぐな、ケイト。まだダンジョン攻略が終わった訳じゃない……ボスの討伐も残ってる……」
「そんなのわーってるって! でもよ! 俺たちみたいなパーティーが最終フロアまで来れたって時点で、もう奇跡みたいなもんじゃねぇか!? お前は興奮しねぇのかよ、ハンゾー!?」
はしゃぐケイトのすぐ隣に、一人たたずむ忍者の姿。
迷彩模様の装束。口元を布ですっぽり覆い隠した、これぞ「ザ・忍者」と言った風貌だ。
「……愚問だ。もちろん俺とて……滾っている……」
手元でクナイを器用に回すその忍びの名は、ハンゾー。
「……我がチャクラも、扉の向こうのボスの気配に……慄いているぞ……!」
ハンゾーは人差し指と中指をぴたりと合わせ印を結び、不敵に微笑む。いや口元は布で隠れてるからさ、実際には顔半分見えてないんだけどね。なーんかニヤリとした気配があったんだよ。
「……ククク……今宵は我が虎徹も……血に飢えておるわ……」
あ、やっぱ笑ってたわ。
今時いるんだな、「ククク」って笑う奴。
てか「今宵」って……ダンジョンに昼も夜も無いだろう。適当にしゃべっているのが丸わかりだ。そもそも『ハンゾー』ってキャラネームからして、あまりにもベタ過ぎる。絶対『服部半蔵』から取ってるだろうな、コイツ……
「も~ みなさん早いですよ~」
「ケイト、ハンゾーっ! アンタ達、もうちょい足並み揃えなさいよ!」
ケイトとハンゾーの到着からわずかして、遅れてやって来た二人の少女。息を切らす二人を尻目に、ケイトは走り出す。
「へっ!! おめーらがおせぇんだよ――っと!!」
「――おい待てケイト……! 勝手に先走るな……!」
ハンゾーの静止も聞かず、スケルトンの群れへと突っ込むケイト。ロングソードを力任せに振り回しながら、猪のごとく突進。スケルトンの頭部を割り散らかす。
突進を受けたスケルトンは吹き飛ばされ、カランと乾いた音が鳴る。
「へへっ、どーよ!! 先制攻撃ってな!!」
こちらを振り返りながら、得意げに鼻を擦るケイト。
だがケイトの背後には、頭部を砕かれたスケルトンがまだ立っている。
「ケイトっ、後ろっ!! まだ倒せてないッ!!」
「――うげッ!!」
頭部を失ったスケルトンが、ケイトへとにじり寄る。
ケイトの突進で吹き飛ばされていた個体も、次第に地面でカタカタと震え出す。そしてまるで何事も無かったかのように、そのままゆらりと立ち上がった。
「おい……うっそだろ……!」
呆気にとられるケイト。
だが、状況の悪化はそれだけではない。
「ひえっ――! なにアレっ!!」
地面からは、腕が生えていた――
徐々に土が盛り上がり、隠れていた腕が、頭が、胴体が、露わとなる。土の中より湧き出る人の影。青白い肌、腐敗した肉体。口の隙間から漏れ出る異臭、流れ出るよだれがヌメリと地面を濡らした。
ゾンビの集団だ。
部屋を彷徨っていたスケルトン共も、俺たちの気配に勘づいた。
「――――――シン、ニュウ――シャ――??」
一斉にこちらへと顔を向け、たちまち襲い来る。
正面はスケルトンの軍勢、地面からはゾンビの山。
あっと言う間に劣勢だ。
「こっ、こんなの、勝てる訳ねぇよ! カズマァ……どうしようっ!!」
涙目でこちらを見やるケイト。先程までの威勢はどこへやらだ。
だけど、この程度のイレギュラーならば想定内。俺は震える4人へと号令をかける。
「みんな! そこに並んでくれ!!」
皆が無言で頷き、俺の前で横一列に隊を組む。
ゾンビ、スケルトン。
相手はどちらもアンデット系のモンスターだ。
だったら、俺がやれる事は――
「【来れ、浄化の力。我らに光の刃を授けよ――ディバインエンチャント】!!」
呪文を唱えると、ケイト達の武器が黄金に輝き出す。
「おぉっ……!! なんだこりゃ、すげぇ!!」
聖属性のエンチャント。
アンデット共に、こいつはよく効くはずだ!
「よっしゃあ、これならいけるぜ! お前ら!! この俺、切り込み隊長ケイト様に付いて来い!!」
ケイトは輝く剣を振りかざし、スケルトンを一刀両断。
斬られたスケルトンは、もう二度と立ち上がることは無い。
PN:ケイト
LV:41
JOB:戦士(剣闘士)
種族:ヒューマン
ケイトの役割は前衛。
パラメーターは筋力《STR》に全振りの、分かり易いぐらいの脳筋アタッカー。お陰様で、一撃の破壊力は相当な物。レベル40台とは思えない程の高火力を誇る。
「ひゃっふ~! こりゃいいぜ、カズマ! 切れ味がさっきまでとはダンチだぜ、ダンチ!!」
だがその分、装甲はスライム以下。
数回被弾しただけで、あっと言う間にぶっ倒れる。まさに「やられる前にやる」を体現する様なステ振りだ。
「おととっ――あぶねっ!!」
言ったそばからだ。
攻撃に集中するあまり、懐ががら空きとなるケイト。スケルトンの突き出した槍を、間一髪で回避する。あのまま戦い続けていれば、近々手痛いカウンターをもらうのは目に見えているな。
だったら――
俺はケイトに照準を合わせる。
「【汝に不動の防壁を与え給え――プロテス】!!」
単純、先ずは防御力《DEF》をカバーする。
防護魔法をかけ、ディフェンスを底上げ。数発被弾しても耐えられるだけの防御力があれば、少なくともこの局面は凌げるだろう。
それに前衛にはもう一人、頼もしい仲間がいる。
キィイイイイイイイン――――!!
金属同士が打ち合う、高い音。
ケイトの背後に迫るスケルトンの槍を、ハンゾーの短刀が防いだのだ。
「ハンゾー!! てっめ邪魔すんじゃねぇよ!!」
「……助けてもらった相手に、その態度か…… ……虎徹よ……こんな奴をかばう為にお前を刃こぼれさせたこの俺を、どうか許してくれ……」
自慢の短刀――虎徹を指でさすりながら、そう語りかける。ちなみに虎徹ってのは、ハンゾーが自分の刀に勝手につけた名前の事だ。多分深い意味はない。
PN:ハンゾー
LV:33
JOB:忍者
種族:ヒューマン
忍者は手数の多さと素早さに優れるジョブ。攪乱に向く。
今回の様な混戦では、縦横無尽に動き回る彼の足は一層重宝する。
「【汝、捉え難き俊足により、戦場を駆け巡れ――クロックアップ】!!」
なればこそ、長所を伸ばすが最適だ。
ケイトの防御力《DEF》が不足している分を、ハンゾーの速さでカバーする!
「……ククク……体が軽いぞ……! ……誰も……俺のスピードにはついて来られない……! 誰も……!」
ハンゾーはスケルトンをなぎ倒しながら、ぼそぼそと悦に浸っている。
コイツはこの厨二病っぽいのさえなければ、完全無欠の忍びなんだけどなあ……
「え~っと…… 私はどうしましょうか~」
ケイトとハンゾーの連携攻撃を、おろおろ見守る一人の少女。
PN:ナギサ
LV:28
JOB:魔法使い(精霊魔術師、炎術特化)
種族:獣人(ネコ族)
ナギサは炎に特化した魔法使い。
だが、普通の魔法使いとは一味違うのだ……
「あらぁ? なんだかお尻のあたりがちくちくしますね~?」
お尻から無数の槍を生やしながら、首を傾げるナギサ。
(…………いやいやいや! 刺さってます! 刺さってますよ、ナギサさん……!)
気付かぬうちに、スケルトン共にぶっすりやれらていたらしい。あまりにも痛々しいその姿……普通の魔法使いなら即致命傷レベルだ。
だが、彼女はぴんぴんしている。
何故か――
(戦士のケイトよりもHPがあるって、ほんとどうなってるんだよ……)
魔法職にもかかわらず、なぜか耐久力《VIT》に全振りした謎のステ振り。
故に――彼女の役割はタンクだ。
「【汝に絶え間なき癒しよ降り注げ――リジェネ】!!」
自動回復魔法をかけると、ナギサの傷はみるみる修復する。槍はまだ刺さったままだが、傷が癒えればとりあえずは問題ない。
タンクはパーティー生存の要だ、倒される訳にはいかない。
敵のヘイトを稼ぎながら、一秒でも長く――
固定砲台として、敵を殲滅してもらう!
「む~、良く分かりませんが……とりあえず、全部燃やしちゃいましょうか! 【揺蕩う炎の聖霊よ。気の向くままに、焼き焦がせ――ファイアエレメント】!」
ナギサが詠唱を終えると同時に、火炎がゾンビを包み込む。
タンクは敵のヘイトを稼ぐだけが役割の地味ポジションだって? そんな時代はもう終わったんだ! これからのトレンドは「攻守両刀タンク」だ、間違いない!
「あらあらまあまあ…… まだまだ燃やしたりませんかね?」
とは言え、火力は控えめだ。魔力《INT》にほとんどポイントを振っていないのだから、そこは仕方がない。今後の改善点だな。
「うわぁ……ナギサさん、後ろ思いっきり刺さってるじゃん…… いたそ~」
「よそ見をするなよ、スズ! 次が来るぞ――」
そう言いかけた俺の頭の直ぐ隣を、矢が奔る。
同時に俺の背後で、カランと物音。後ろを見ると、頭のど真ん中を貫かれたスケルトンが大の字で倒れ伏していた。どうやら気付かぬうちに、回り込まれていたみたいだ。
「誰がよそ見してるって? ん?」
PN:スズ
LV:73
JOB:狩人(テイマー狩人)
種族:エルフ(ロリ)
スズは弓を構えたまま、背中の籠より次の矢を取り出す。
「行くよ、おにい――っ、カズマっ!!」
「おうよ!!」
スズ……コイツは完璧だ。
俺たちパーティーの中で、唯一のレベル70超え。上位ランカーにもたびたび顔を乗せる程の手練れだ。正直言って、なぜこのパーティーに入ったのかすら分からない。それだけ頭一つ抜けているのだ。
彼女はステ振りに対しても、一切の無駄を許さない。
弓を扱う上で最適となるパラメーターを、全て知り尽くしている。ゲーム知識もプレイヤー技術も何もかも、全てにおいて隙が無い。
ならば、彼女にかけるべき補助魔法は――
「【汝に輝ける祝福、偽りなき幸運をもたらさん――ゴッドブレス】!!」
幸運《LUC》付与。
入手経験値とマニーが増える、レアアイテムが出やすくなる……そんな些細な、おまじない。
「お! ラッキー!! お宝ゲット~」
スケルトンからドロップしたレアアイテムを手に持ち、にんまりと笑うスズ。
そうだ、それでいい。
お前はもっと上に行け……このゲームの、まだ見ぬ果ての世界へと。
いずれは俺すらも超えて、更なる高みに辿り着くんだ――――
前衛の戦士、ケイト。
「すげぇよ、カズマ……! いける、行けるぞっ! 俺たち!!」
攪乱の忍者、ハンゾー。
「……遅いな……遅すぎるぞ骸ども……! 所詮は烏合の衆か……!」
炎術魔法の固定砲台、ナギサ。
「悪い子にはお仕置きが必要ですね! むむむでとやぁ!!」
弓による精密狙撃、スズ。
「そこっ!! 逃がさない――!!」
そしてこの俺――後方支援のカズマ。
「みんな、敵は残り少ない! もう一息だ!!」
俺たちはまだ出会って間もない、即席のパーティーだ。
それでも、どんな奴にだって負ける気がしない。
先程の問いを、今一度投げ掛けよう。
VRMMO攻略において、一番重要な物とはいったい何だろうか?
――――それは、チームワークだ。
パーティーを組み、巨大な敵に立ち向かう。これがVRMMOの基本である。だからこそ、メンバー同士のやり取り、連携はマストなのだ。
時にそれはゲームの枠組みを超え、リアルでの交流にも発展する。連絡先の交換、メッセのやり取り、通話にオフ会……メンバー同士の心の距離が近づくにつれ、ゲームでの連携もより強固なものとなる。
(まあ、俺は苦手なんだけどさ……そういうの……)
中には協力プレイを好まぬ者もいるだろう。気持ちは分かる……と言うか、どちらかと言えば俺もマルチは苦手な方だ。
マルチプレイは極力避け、圧倒的な個人技で、敵を蹂躙する。
もしもそれが叶うってならば、一番理想的だ。
事実、俺にはそうするだけの力もある。
とは言え、目の前で暴れ回るパーティーメンバーを見ていると、改めて実感する。たとえ俺自身が戦わなくたって、モンスターは倒せる。仲間たちと一緒に、勝利を掴み取る事が出来るんだ。
この俺の――補助魔法でな!!
「俺はこの世界で……補助魔法を極めて見せる!! 後方支援の神に、俺はなる!!」




