第9話 本当に守りたいもの②
魔法陣の魔力が完全に切れ、『絶炎の牢獄』は姿を消す。
それと同時に、狐も一気にスピードを上げ、姿を消した。
俺も、『速度強化』を・・・ぐっっ...
もう、体が限界のようだ。思うように動かない。
狐は速度は圧倒的に落ちたが、今の俺に追いつく力はもう残っていない。
ーーん? 何か聞こえる?
その時、狐は動きを止めて俺に魔法陣を向ける。そして、そこから火炎が放たれる。
俺は咄嗟に防御魔法を唱えた。
なっ?! 今、攻撃魔法を、俺に撃った?! 魔獣は、身体強化魔法を自分にかける事しかできないはずだろ? そんなの、人間と何ら変わらないじゃないか!
...聞こえたのは、魔法の詠唱、か。
この世界の常識は、転移前とは全然違うってわけだな。やられた。
魔獣も時を経て進化している事を考慮していなかった。
転移前の物差しで、敵を測るんじゃなかった。
まあ、『絶炎の牢獄』の効果時間中にやれなかった時点で、俺の負けだな。
「・・・いやぁ、おっ、かっ、カイン、さん...っ」
ーーあれ、何で俺ってこいつと戦ってるんだっけ...
ああ、そうだ。頭が痛くて回ってなかった。ラナを助ける為だった。
いつの間にこんなかっこいい事できるようになってたんだよ、俺。
引きこもって研究してたインキャ男なのに。
「ひっ、いっ、いやぁあ」
今、狐の視線が逸れた?
その先にあるのは...も、もしかしてっ!
狐はそっちを向き、攻撃態勢に入った。
「は?!何でそっちいくんだよ、今やってんの? おいっ、こっちだろうが!!」
声聞こえてねぇのかよ、おい。
ああもう、これめっちゃマズい。でもっ、もう体が動かないっっ!!
......そうだ、いっそ体がぶっ壊れるまでやってやろう。体の心配なんかしてる場合じゃなかったんだ。それしかない。
狐はラナの方へ飛び出す。
さっき隠れとけって言ったから、音が聞こえたとはいえ見つけるのに少し時間がかかるはずだ。
それに、さっき『魔力探知』を使った。ちょっと早くて見えなくても、これだけ近いなら、狐の場所は感覚でわかる。
使うなら、対単体最強の『蒼天の葬列』か...って、それ神話級魔法だし...
でも、覚悟したなら、やるしかない。絶対に、確実に仕留めなければいけない。
魔力がなくなっても、死ぬ事はないんだ。これが最後のチャンスっ。
カインは、最後の力でラナの前に魔力障壁を張った。
「ーー『 蒼天の葬列』」
それは、カインが研究した固有魔法。
炎の温度を極限まで上げるため、周囲の魔素を凝縮して燃料とする。
使ってると、周りの奴らは無理無理言っていたが、そんなに難しい事じゃない。普通体内に取り込んで使う魔素を、そのまま使うだけだ。
子供になった今でも使えるんだから、やっぱりこれが神話級判定なのは変だと思うのだけれど。
殺し切れなければ、俺ら二人諸共終わりだ。
でも、こんなにかわいいラナを襲いやがったこいつだけは、絶対に、倒しきらなきゃいけない。マジで。
ラナ、ラナっーーーーーー
◇
「ーーんんっ・・・」
「おっ、起きた...」
かわいい声と共に、カインは目覚めた。
死んで、ない? って言う事は、あの狐野郎は倒せたんだな。
よ、よかったぁ...
「ラナも、無事だったんだね」
「......うんっ。カインさん、大丈夫?」
...何だこの生き物は、声が高くて、優しく俺の心配まで...可愛すぎてしぬ。
「大丈夫だよぉ...ラナぁ...!」
思わず、抱きしめてしまった。
「うわぁっ?!」
「ごめんよぉ、ダメダメなぁ兄でぇ...」
「...いや、そんなこと、ない、です。助かったのも、カインさんのおかげ。あっ、ありがと、う」
「いいよいいよぉ。...ちなみに、俺が寝てたのってどれくらい?」
ラナは考えながらも答える。
「えぇっと...2時間、くらい?」
2時間か、まあほとんど魔力を使い果たしたにしては、結構早いんじゃないか。
しかも、今回使ったのが1番上の神話級魔法だからな。身体中がいてぇ!
...今日、ラナを頑張って救って分かった。俺は、本当はこんな風に魔法を使いたかった。人々を守るために入った宮廷魔法師団なのに、蓋を開けてみれば最悪だったし。
何のために魔法師をしているのか、分からなかった。
でも、この人生こそは、絶対に人のために魔法を作り、使いたいっ! 意地汚い貴族どもにいいように使われてたまるかっ。
そう、改めて思わせてくれた。ラナには、本当に色々感謝ばかりだ。
「でも、ラナはなんでこんなところに来たんだ?」
「え、えっとね、その...」
「怒らないから、言ってみて」
「...外にでたら、目の前にねっ、前のお母さんがねっ、いたの」
「前の、お母さん? どっ、どういうこと?」
「わかんない。でもっ、お母さんねっ、なんか光っててねっ。ここまで来たからっ、着いて、来たの。ごめんなさい...」
ああ〜、なんとなく分かった。あれか、巨大な魔力量とに釣られてやってくるっていう、変な魔獣か。いや、魔獣じゃないんだっけ?
確か、"空虚の亡霊"とかいうカッコいい名前付けられてた奴だろ。
普段は実体を持たず、人の魔力を少しずつ奪うことで、その者の思い浮かべる人の姿となって現れるとかいう、タチの悪い輩だ。
人の魔力で生きてるとか、ちょっとキモいよな。
「ラナは悪くないよ。でも、体に変なところはないの?」
「いや、何も...」
おっかしいなぁ。あれに魔力をずっと吸われ続けてたら、魔力切れで倒れちゃうんだけど...。
それに、俺のあの魔法には、あんまり魔力を込めてなかった。"空虚の亡霊"が来る時って、マジでハンパない魔力を感じた時だけだって聞いたんだけどなぁ。
まあ、分からんっ!
「とりあえず、帰るか。もう遅いしな」
「......うん」
ちゃんと手を握りしめて、ゆっくりと歩き出した。
顔は、まだちょっと暗いかな? でも、前よりはマシになった気がする。
よかったよかった。本当に。




