第8話 本当に守りたいもの①
どこだ、どこにいるっ...!
「ラナ、ラナ! 返事をしてくれ!」
頼む、ラナ、いなくならないでくれ。頼む...
「ーーグァァア」
その時、大きな鳴き声と共に、まがまがしいほどとてつもなくデカい魔力を感じた。
こっ、これはヤバい。絶対ヤバいやつだ。
転生前なら『まあ強い方じゃね?』くらいだろうが、今の俺ではあまりにきつい。
ここは、少し離れてーー
「うへぇ.ん..あぁぅあ...だっ...だっれ....か...」
これってラナの、声が、どこから...
まさかっ、魔獣に襲われてっ!
どう、しよう。助けを他に呼ぶか。いや、そんな時間はない。
昔の立場だったら、この状況で助けに行くかは、分からない。
...でも、今は違う。あんなに暗い顔をしていたラナは、俺に、一度だけでも笑顔を見せてくれた。
とても、かわいいと、思った。前世で願った、守るべき存在だと、思った。
ラナを、絶対に、助けなければならないっ!
ーー走る。
近くに来たところで、木の後ろに隠れた。
見ると、そこにはクソデカい狐が1匹と...ラナが、いた。
いつ出ようか様子を伺っていると、狐は突然ラナを襲った。
俺の体はそれに咄嗟に反応する。
「ーー大丈夫?」
間一髪だった...。
俺は、風魔法で速度強化を施してラナを救出した。
「うぅ、ひっ...かっ、カインさん...」
「じゃあ、ラナはちょっとここで待っててね。ここに隠れとけば安心だから、絶対に出てきちゃダメだぞ」
そう言ってカインは木の後ろにラナを隠し、自らが前に出た。
正直、こっちの分が悪いのは確かだ。
魔力量があまりに違いすぎる。
・・・俺に、勝てるだろうか。分からない。本気を出しても、前世の7割。長期戦となれば、魔力量的にもさらに不利になるだろう。
...でも、やるしかない。俺が。
狐は即座に攻撃へと移る。
「『速度強化』」
速いっ。流石にこの魔力量で狐に同じ『速度強化』を使われては、俺の速度強化で追いつくことは難しい。
何とか避けれてはいるが、それはこいつが魔獣で攻撃が単調だからにすぎない。
まずは、狐の一撃に対してカウンターがセオリーだな。速さで追えないなら、無理してついていく必要もない。
カインは自然にラナから遠ざかるよう誘導する。避けながらも左へとズレていき、できるだけ木が多い場所まで来た。
その間に、『水刃』を絡めつつ応戦。少しは効いているといいが、スピードは下がる事なく縦横無尽に仕掛けてくる。
木で攻撃がほんの少しでも鈍るはずだ。
ここなら、攻撃を最大限絞れる。
「っ今だっ!」
正面に向かう狐に、避けながら少しずつ詠唱して手に隠していた『君炎』の魔法陣を向ける。
『君炎』は上級魔法であり、相手の周りにいくつもの炎球ができて一気に爆発する。
耳の奥にまで響くような、ズドンという重い音が轟く。
ーーーーしかし、その攻撃が通る事はなかった。
狐の周りには、魔力障壁が構築されているのだ。
「はあ?!」
おかしい!!! 感覚だけで魔力を使う魔獣には、攻撃を"防ぐ"なんて芸当できるはずがない! 避けるので精一杯なはずだ!
頭を使った? もしかして、意図して魔法を使える魔獣が存在するようになったのか?
狐は防御魔法を使いながらも再びスピードを上げた。
狐が左方から攻めてくるのが見える。
「『君炎』」
それに乗じてまたカウンターを仕掛けるが、今度はものともしない。
完全に防がれた。
あ、あれっ、狐が消えてーー
「ぐはっっぁがぅえ゛っ」
カインは左に大きく吹き飛ばされ、木々に叩きつけられた。
なんとか魔力障壁を展開して難を逃れたが...み、見えなかった。
いつの間に左から右へ移動した? しかも周りの木には一本も傷すら入っていない。
木を避けながら、反対側へ回った、のか。
魔力だけじゃない、知能まで持ち合わせている。これは事前評価を見誤った。
転移前でもトップ30には入るだろう。人間のように魔力障壁まで操るなんて、見た事がない。
そうとなれば、一瞬でも隙を作ればいい。そう、一瞬でも、俺がラナを守りながら攻撃を回避することに頭を使わなくていい時間ができれば、俺は魔法を構築できる。
その構築のスピードだけは、自信がある。
その時、狐の斬撃が頬をかすめた。
もう限界だ、このままじゃラナにも危害が及んでしまう。
一つだけ、ある。この魔獣相手でも、隙を作れる魔法が。
でも、あれは聖王級魔法...いや、考えてる暇なんてない。
一刻も早くこいつをやらなければ。
「『絶炎の牢獄』」
狐の頭上と足元に魔法陣が現れ、それが無数に増えてゆく。
狐の周りに無数の炎の柱が出現し、狐は動きを止めた。
っっ!! 頭が、とてつもなく痛い。魔力の使いすぎかっ!
でも、気絶しなくてよかった。ここで終わるわけにはいかない。
『絶炎の牢獄』は、相手の周りを囲い、それは檻となるが、触れると全身に炎が走る。
効かなかったらどうしようかと思ったが、かなり困っているようでよかった。
攻撃魔法の術式はすでに完成した。あとは打ち込むだけだが...体が拒否反応を起こしてるみたいだ。頭も痛いせいで、イメージがしにくい。
でも、回復を待つ時間はないっ!
「『炎槍』 『雷槍』 『君炎』『魔力探知』『光弾』・・・」
選択する魔法は全て遠距離で使用可能なものだ。術者は『絶炎の牢獄』の効果を受けないが、ここでの接近戦は危険だと判断した。
そして、檻から出られないという事は、火魔法に対する耐性がないという事。確実に攻めるために、火魔法と干渉しない属性を選んだ。
狐に命中すると、かなりダメージはあるようで、悲鳴らしき鳴き声が森中に響く。
「・・『炎槍』『雷槍』・・・・・・」
できる限りの攻撃をぶっ放す。
体が引きちぎれそうなほどの痛み、それが全身を駆け巡る。
狐は足が一本と耳一個、そして胴体にも傷を負っているが、まだ倒れはしない。
ーーーーでも、ここでタイムリミットだ。




