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第6話 全然ダメ!

 ラナのそんな状態を見兼ねてか、家族で週末に旅行へ行こうという話になった。


「どうだ、カイン?」


「うん、いいと思う。ラナは、このままじゃ本当にひとりぼっちになっちゃうし」


「でも、どこに行くのがいいのかしらね。そんな急に決めても、どこにも...」


 確かに、そうだよなぁ。大体ね、うちの村の近くなんて、本っ当に何もないし。


「それなら、いいところを知ってるぞ」


「「いいところ?」」


 ◇


 ってなわけで、突然決まった旅行先は、まさかの温泉だった。

 今は、馬車で移動中。


 「そんなのどこにあるねん」って思ったかもしれない。大丈夫、俺も思った。


 それは、とんでもない場所だった。それはーー


「それじゃあ、"龍の山温泉宿"に、レッツゴー!!」


「...父さん、それ本気で言ってたの?」


「当たり前じゃないか。そこはな、断崖絶壁に立つ、知る人ぞ知る秘湯なんだぞ!」


「いやいや、だって...ほら、"龍"の山って書いてあるよ! 龍ってなんだよ!」


「バカを言うな、カイン。ほら、これを見ろ! この雲海を! こんっなに綺麗な景色が、こんなに近くにあるんだ、行かないわけにはいかんだろう?」


 父さんが一番盛り上がっちゃってるじゃん...。


 主役のはずのラナは、端っこでじっとしてるだけだし、なんか目的が破綻してるんじゃないのか?


「...父さん、もしかしてただ自分が行きたかっただけじゃ......」


「いっ、いやいやいや? そんなことは、ありえない! あくまでも、ラナのためを思ってだな...」


 いや、だからそのラナが暗いままだからまずいっていうのに...


 ここは、お兄ちゃんである俺の出番かな。


「ラナ、温泉は、好きか?」


「......べつに」


「じっ、じゃあ、温泉は、行ったことあるか?」


「......ない、です」


「そうか......」


「........」


 うーん...ダメだわ。いや、俺のコミュ力が足りないだけかもしれんけど。


 でも、顔が全く良くならない。


 まあ、温泉に入れば気持ちも変わるかもしれないしっ。大丈夫、まだ時間はある!


「うっ、ううぅ......」


 ...あれっ、ラナってこんなに顔暗かったっけ? さすがにどんよりしすぎじゃないか?


 この二週間くらい、ラナのことをずっと見ていた。キモいかもしれないけど、本気でラナのことを知らなくちゃいけないと思った。


 まあ、大してなにも分からなかったけどね。


 だから、ラナの顔はずっと頭に残っている。今のラナは、いつもと違って目が下がっている。

 整った顔立ちも、どこかぎこちない。


「うっ......ふぅ...ふぅ...」


 これ、もしかして、


「ラナ、馬車、苦手か?」


 ラナは、静かにうなずく。これは...馬車酔い、かな。


 とても、辛そうだ。


「よーしよし、大丈夫大丈夫...よしよし」


 ラナの小さな背中を、ゆっくりとさする。まあ気休めにしかならないかもしれないが、でも、ラナが苦しんでるのから目を逸らすわけにはいかない。


 初めての妹を持つと、わからないことばっかだけど、なぜか幸福感があふれてくる。


「もう、いいです」


「ああっ...」


 俺の手を振りほどいて、ラナは俺と距離をとった。

 まあ、ラナがもう治ったなら、それでいいけどねっ。



 ◇



 ーーカンッ


「き、きもちぃーー!」


「そうだろ、そうだろっ!!」


 宿に着くやいなや、疲れをとるために早速温泉に入ることになった。ラナの顔色はまだ全然良くなかったけど、大丈夫かな?



「ふぅぅーー......」


「...カイン」


「何、父さん?」


 父さんは、ちょっと曇った表情で話す。


「ラナの、ことだけどな。お前には、本当に感謝しているんだ。あいつには色々あったりしたんだがな。お前が頑張ってラナに語りかけてくれるから、ラナも、ちょっとずつ心を開いてる」


「えっ? いや、そうには見えないけど...」


「そんなことはない。絶対に、ラナの心には届いてるはずだ。お前は、ラナが大好きだろう?」


「まあ、そりゃ唯一の妹だし」


 そう答えると、父さんはフッと笑った。湯気で、顔はよく見えないけど。


「頑張れよ、カイン。多分、ラナにはお前がいなきゃダメだ。お前しかいないんだから」


「それって、どういう意味?」


「まあ、分かる時がくるよ。...きっと、ラナはーーお前のことが、大好きになるさ」



 ◇



 温泉から上がると、二人はまだいないようで、部屋でゴロゴロしていた。


「ねぇ、まだーー


「ごめんなさい、ちょっと長すぎたかしら...」


 かっ、かっ、


 かわーーーーーーっ!


 やばい、ラナの浴衣とか、なんか、すごい。


 落ち着け、俺ぇ。ラナは妹で、妹として愛らしい、それだけだ。...の、はずだ。


「さて、早くご飯を食べましょうかっ」


「そうだな!」



 それからの楽しい昼食は終わり、...なぜか、"龍の世界ツアー"とか言う、とんでもないツアーに行かされた。

 ラナと母さんなんて、一旦浴衣脱がされてたぞ?


「後もう少しだ。頑張れっ!」


 父さんは、さすが言い出しっぺと言わんばかりに、元気に山を登ってゆく。

 母さんも、なんだかんだで結構普通に登れている。


 どっちも30超えてるってのに、よく動けるよな。


 問題は、ラナだ。


 馬車酔いがまだ収まっていないのか、かなり苦しくそうだ。


 魔法を使って楽にさせたい、そう思ったが、それができない。なんか、ここで魔法を使うと、龍にバレてしまうらしい。


 ちょっとくらいいいんじゃないかと思うんだがな。


「もうキツイって、父さん...ほら、ラナだって...」


 ーーバタッ


 瞬間、ラナは地面に倒れた。


 全員足を止め、ラナに駆け寄った。


「大丈夫か、ラナっ?」


「私のお水も飲む?」


 ラナは、水を飲むと少し楽になったような顔になったが、変わらず疲れていそうだ。


「そうだ、カインがおぶっていけばいいじゃないか」


「おっ、俺が? まあ、いいけど」


 そっとラナの前にしゃがんだ。ラナはずっと暗い顔で、嫌なのかどうかもわからん。


「ほれっ!」


 ラナ、軽いなぁ。


 それに、何だか変な感触が...いや、これは考えないでおこう。そうしよう。




 ってか、こんなにラナが疲れちゃうなら、来なくてもよかったんじゃないか?


「ーーここが、龍の山の頂上です」


 ...でも、意外と悪くないかも、しれない。


 この景色は、すっげぇ。地平線まで続く雲海は、なぜか俺を惹きつける。


 こんな絶景が、こんなに近くにあったなんて。毎日来たいくらいだ。


 でも...


「その、龍って、どこにいるんです?」


「龍は、大体の時は地下か、あっちにある巣にいますよ。あんまりここには来ないですね。ここは、すごい目立つので」


「目立つ? 龍が目立っちゃダメな理由でも、あるんですか?」


「知らないですか? 龍は、すごく警戒心が強くて、しかもシャイなんですよ。あんまり、住処から出ることだってないですしね」


「えっ、そうなんですか?」


 会ったことなかったけど、そうだったのか。


 全然出てこないから、どんだけ強くても別に脅威じゃなかったってわけね!


 龍に関しては、あんまり怖がる必要はないのかも。


「さて、次はーーーー




 ...ラナの顔は、全く明るくならない。暗いままだ。


 やっぱり、ラナの心はまだ何一つ動かせてなどいないんだ。


 このままで、本当に、いいのだろうか。

読んで頂き本当にありがとうございました。


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