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第24話① とあるエルフの独り言 ★

 彼が戻ってしまってからは、また退屈な毎日が戻ってきた。


「やっぱりここ、つまんない!」


『そっ、そんなこと言わないでくださいよ。ほらっ、この宝石だって、すごく綺麗ですよ!』


 周りの奴らは、確かに優しい。私みたいな異種族でも、心良く接してくれる。


 とても感謝しているし、すごくいい場所だなと、今でも思う。


 ...でも、それが退屈かどうかは、別問題だ。やることがない。


「もう、いいわ。一人にしてちょうだい」


『...はっ。王の御命令とあらば』


 本当、いい子達なのよね。


「んっふふふっ...んふっ」


 レーネは、一人でなぜかくねくねしている。


 私、ここまで生きていて、本当によかった。お母さんも、お父さんも、みんないなくなってしまった。

 二人とも、人間とのハーフだったから、寿命が短かったの。


 でも、私は違った。その二人から引き継いだ遺伝子は、どちらもエルフ族。

 混血が進んで、もうほとんどいなくなっていた純血のエルフ族となって生まれた。


 もう、この世界には私の仲間はいない。人間の魔法は弱いし、生涯の誓いを交わすような気にもなれなかった。


 ーーでも、そんな時に現れた彼は、違ったのぉ。


 すっごく強くて、かっこよくてぇ...これって、一目惚れってやつ、かも。


 彼に触れると、全身が熱い。今でも残ってるの、この気持ちが。ああっ、ダメよ、レーネっ。でも、もし一緒にいられるなら...っ。


 邪魔なのは、あの変な女の子だけど...妹らしいし、大丈夫、よね。きっと、大きくなったら、カインにも執着しなくなるでしょう。

 それに、お母さんが言うことには、私の体はとても魅力的らしい。周りには他種族しかいなくって、そういうことはよくわからずにいたけど...


 好き、好きっ。大好きっ。もう、我慢できないっ。


 えいっーー



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 朝なのに、寝てろって言われてもなぁ...。


 確かに体調は少し悪いけど、寝たいっていうよりは、目を覚ましたいって感じなんだが。


 そう思いつつも、カインは自分の部屋のドアを開けた。何も考えることなく、部屋の中へと進んだ。


「はぁ......って、は? なっ、なんで、ここにっ?!」


 そのベッドには、...ほんの数時間前に見たような、お姉さんがいた。

 レーネさんだ。


「ひっ、久しぶりねっ」


「いやいや、久しぶりって...まだ、三時間くらいしか経ってないよ?」


「そんなこと言わずにぃ...もう、待ちきれなかったのっ」


「えぇ...」


 なぜか、すごく不穏な目でこちらを見つめてきている、気がする。

 俺の長年の感覚から言わせてもらうと、これはすっごくマズイ。


 それに、俺の部屋にこんな女性がいるとか...なんか、変な感じだな。


「ほらっ、たっ、退屈させないでよっ。こっち来てっ」


「...な、なぜ?」


「い・い・か・らっ! はいっ」


 ギュムっ


 とてつもない力で抱きしめられてしまった...うぐっ


 年齢的には、これはただのじゃれてる子供とおばあちゃんみたいなものなんだけど...目がヤバい。目が。嫌な予感しかしない。


 「むふふふっ」と声を漏らしつつ、俺を逃す気はないようだ。ここで転移魔法を使おうもんなら、どう足掻いてもレーネさんまで連れて行ってしまう。


 転移は、実を言うとその者のいる空間を切り取るから、レーネさんを剥がすことは無・理。


 ああー、でも、すごいいい匂いぃ。

 森には森の匂いがある。でも、これはそれともちょっと違う。包み込むような優しい匂いがする。


 森には、人の心を安らげる力があるらしいからな。


 この服か? それとも、体に染み付いているのだろうか。


 ......いや、俺キモっ。違う、違うぞ。別にこれは、俺がヘンタイだからとかじゃなくて!


 もうやめよう。これ以上は、考えないでおこう。


「それで、何しに来たの?」


「そっ、その...」


 なんだ?


「別に、なんにも、ないけど」


「えっ」


「いい、じゃない。私、あなたがいるだけで、十分、だからっ」


 ...そんなこと、初めて言われたなぁ、うん。もう、これでいい、や。


 なんだこれ、頭が回らない。ボーっとするし。ああ、背中の柔らかい感触も心地いいと思ってしまうほどにねみぃ...――


「...えっ、ちょっとなんでっ...って、寝てる? 嘘、ここで?」


「すーっ、すーっ、すーっ...」


「もう、仕方がない、わねっ」


 そう言って、レーネはベッドに横たわった。


「んふっ、おやすみぃっ」



 ーーそれから、時間はあっという間に過ぎた。


 静まり返った部屋に響いたのは、ラナの声だった。


「ちょっと! おにぃ、ちゃん...えっ」


「んんんっ...あら、あなた、たしか――


「なっ、ななっ、何して...はっ、はやく離れてぇぇっーー!」


「なっ、なにっ」


 その声に、俺は飛び起きてしまった。なんだよ急にと思いつつも、周りを見渡す。


 目の前には、俺の肩を引っ張るラナと...


「れ、レーネさん?! なんで、俺の横に」


「なんでって、そっちが寝ちゃったんでしょっ?」


 ...思い、出した。俺、眠すぎてレーネさんの胸の中で、寝ちゃったんだわ。


「もぉ、大胆すぎるのよっ」


「違うっ、違うからっ」


 そんな弁明も虚しく、レーネさんは体を擦り寄せてくる。もう逃げられないと言わんばかりに。


 あれだ、既成事実って奴だ。寝ちゃったのは俺だし、それ以上も以下もねぇ。


「いったん、離れて! ほらっ!」


 急に引っ張られて、床にドスンと音を立てて落ちてしまった。


 そんな俺を気にすることなく、会話は続いた。


「ちょっと! 人の兄に何してくれるわけ! あなたみたいな女の人はいらないの! おにぃちゃんには、私がいるんだからっ!」


「え〜、やだな、もう。嫉妬なのかな? さっきも言ったでしょう、カインの方から来たんだって。それともなに、自分がまだ一緒に寝たことがないからって、突っかかってきてるわけ? やめてよね、そういうの」


「わたしだって、一緒に寝たことあるし! それに、おにぃちゃんからいくわけないでしょ! ねっ、おにぃちゃんっ」


 ...俺は、その言葉に、どう反応すればよかったのだろうか。

 分からなかった俺は、何も言うことが、できなかった。


「なっ、なんでっ、何も言わないのっ」


「ほらねっ。ラナちゃん、だっけ。もう諦めたら?」


「なっ、なん、で...なっ、んでぇ...うぅ...んぐっ」


 ラナは、泣いてしまった。これは俺が悪いのかも、しれない。


 そんな時、一階からドタバタと足音が近づいてくるのが聞こえた。


「あらぁ、それじゃ、今日はここまでねっ。じゃあね、カインっ!」


「う、うん...」


ーーバタンっ


「おいっ、カインっ! 今の音は、なん、だ...」


 この構図は、ちょっとマズイかも。


 倒れた俺と、その前で泣き崩れたラナ。なんか、俺が死んだみたいだな...


「だっ、大丈夫かっ、カインっ!」


「だっ、大丈夫大丈夫っ。ちょっとベッドから転げ落ちちゃって、ラナは衝撃でちょっと泣いちゃっただけで...」


 これは、言い訳になってる、のか? 衝撃で泣くってなんだよ、俺! これは、さすがに怪しまれるかも。


「.........そうだったのか! 痛かったな、カイン。後でいいけど、お昼できてるからな。起きたら来いよっ」


「わかっ、た」


 父さんのお気楽さに、何度救われたことか。感謝感謝。



 ーーしかし、その後のラナは泣き止んだのはいいものの。


「ラナ。そろそろ許してぇ」


「...嫌」


「あらあらっ」


 終日、ラナが俺の腕から離れることはなかった。


 ご飯中だって、読書中だって、なぜか腕を離してはくれない。


 風呂の途中は......まあ、うん。


 でも、一緒に寝るとか言い出した時は、さすがに焦った。いやまあ、断れなかったんだけどね。

 無理よ? ラナのお願いを断るとか。そんなことはできません。


 そして、レーネさんの訪問は、それからも幾度となく続くようになったとさ。


 不本意だけど。

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