第19話 ここは天国ですか?
朝、起きるとすでに3人は起きていたようで、食卓を囲んで座っている。
ラナが来てから三ヶ月ほど時間が過ぎ、もう、3人で食べるのには慣れてしまった。
俺は、あと2年もすれば家を出てもいいくらいの年齢になった。世の中の大半の人は、学校に行くか稼ぎに出るかで、家を離れることがほとんどだそうだ。
母さんからも、一応そんな話をされた。
...でも、俺は、ここを出て行ける気がしねぇ! 想像もつかん。
分かっている。ここを巣立って、一人で過ごさなきゃいけないことを。このままだと、多分ずるずる行ってしまうってことを。
で、でも、三人が優しすぎて、俺が家を出る話の時にはいっつも『ずっと居てもいいんだよ』とか言ってくるから、そんなの......出ていける訳ないじゃん!
ご飯は美味しい、ラナはかわいい、両親は優しい、家は広い...いや最高かよ。
無理だぞ、こんなところから自ら抜け出すとか、無理無理無理。
まあ、元々この暮らしを手放す気なんてないんだけどね。
今は8時。生まれてこの方、ずっとこの時間に起きている。
「お兄ちゃん!こっち!」
ラナは、ラナの隣の席を指差す。今日はちゃんと元気だ。
「はいはい」
「ちょっと、あんまりお兄ちゃんに迷惑かけないの」
「・・・うん」
やはり、ラナはお母さんに言われると顔が沈む。昨日はまた食器を壊して怒られてたし、まだ相当効いているだろうか。
「別に迷惑じゃないよ」
「そう? それならいいけど...」
「早く食べよっ、ねっ」
「「「「いっただっきまーすっ!」」」」
この村で過ごしていて、気づいた。
最初は、こんなところに住むなんておかしな奴らだと思ってたけど、よく分かった。
ここは、とてつもなく居心地がいい。みんな優しいし、意外となんでもあるし、ここに居続けたいというのは、俺自身もよく分かった。
ここは、前世の俺の理想だった場所、なのかもしれない。神様が配慮してくれたんかね?
「ちょっと、ラナ! 口汚しすぎよ!」
母さんに言われて、改めて考えて分かった。
ここは、俺の大好きな場所で、
ここは、俺の守りたい場所で、
「ごっ、ごめんなさいぃ...」
前世で望んだ静かな暮らしも、前世で願った守りたいものも、ここにあった。
...ここでなら、前世でやれなかったことが、全部叶うんじゃないか。守りたいものの近くで、静かに暮らす、それが叶うんじゃないか。
...やはり、いかんな。そんな考えでは。確実にニート行きになってまうわ。
でも、あとちょっと、もうちょっとだけ。ここに居られる限り、それが許される限りは、全力でこの場所を守ろう。
静かな暮らしを、ただ満喫するとしよう。
「ねぇ、おにぃちゃんっ」
「なんだ?」
「これ!」
その手にあったのは、綺麗な花で作られた、小さな腕輪だった。
「お母さんとっ、作ったのっ! はいっ」
そう言って、ラナはその小さな手で、俺の腕にそれをつけた。
「本当に、いいのか?」
「うんっ。これで、ずっと一緒だねっ!」
...やっぱり、もう一生ここから出られないかもしれんわ。これはまずい。
いや、別にいいの、かな。
「ああ、そうだなっ」
何の特別なこともない、何気ないある日、カインは決心したのだった。
俺の培った力で、この村を、この楽しくて静かな暮らしを、この家族を、ずっと守り抜いてみせると。




