第13話 ラナがおかしい!
あれから、ラナはさらに変わった。
...なぜか、急にとんでもなく元気になってしまったのだ。
素に戻ったのだろうか、ちょっとおバカになってしまった気もする。
何かが吹っ切れたように、もう一切の躊躇いもなくなってしまった。
「ねぇねぇ、おにぃちゃんっ! この本、一緒に読もっ!」
「えっ...いやぁ、今から魔法の...」
「ダメ、なのっ...?」
そう、前に俺が言った言葉を、ラナが覚えてしまった。
"なんでもしてあげる"とか、安易に言うもんじゃなかった...
しょうがないじゃん。ラナが悲しむところとか、見たくなかったし。
「いっ、いいぞぉっ! どれどれ...」
でも、なんかだんだんと増えていくんだよな。そのお願いが。
それに...
「ちょっ、ラナっ、やめろっ! 膝にのるなよぉ」
「えぇ〜、いいじゃんっ」
接触がやたらと多くなった。これが何気にヤバすぎる。なんかいい匂いするしぃ...っ!
これは、いけないっ。鼓動が、だんだん大きくなってく、気がする...
◇
次の日も、ラナは止まることがなかった。
「あのぉ、ラナ? この膝枕は、一体いつまでやればいいんですか?」
「うーんとねっ。ラナが、元気になるまでっ」
「...はいはい」
ラナは、すやすやと眠ってしまった。正直、こんな感じで自分の時間が取れないのは、ちょっと思うところもある。
でも、それ以上に、ここ数日でラナがよく俺を好きって言ってくれるのが、うれしい。その度に、愛しさが心で大爆発する。
俺に、心を開いてくれたってことだろ。それが、限りなく、嬉しい。
「すー、すー、すー、...」
また、カインに思わず笑みが溢れた。膝の上の少女は、俺にしがみつきながら目をつむっている。
...ちょっと、かわいすぎて俺の方がヤバくなってきたけど。
まだ、完全に妹としては見れてないんだよな、ラナのこと。そのせいで、こんなに近いとこっちがおかしくなってしまいそうだ。
吐息までかかってるし...ああっ!
妹としてのかわいさと、女の子としてのかわいさ、その境界線がどうも曖昧になってきてしまった。
...いや、落ち着け、俺っ。これは、妹としての気持ちに、決まってる、だろっ。
そうじゃないと、色々まずいし...
最近は、こんなのばっかだな。
「んんっ......おにぃ、ちゃん......」
ラナが寝返りを打ち、俺のお腹に顔をうずめる。
その小さな手は、俺の服をつまんで離そうとはしない。
心臓が、また跳ねた。
「はぁ...まったく、ラナは......」
思わず、その整えられた髪を撫でた。
ラナの顔が、ちょっと緩んだ気がする。コイツ、実は起きてるんじゃないか?
でも、
「...ラナが笑ってくれて、よかった」
ラナが笑うのなら、俺はきっとなんだってするのだろう。
......まあ、もう少しだけ、構っといてやるか。
◇
ラナは、朝に弱い。クッソ弱い。全然起きないし、なんなら昼過ぎまで寝てることも多い。
今日こそは、魔法の訓練ができそうだ。よかったぜ、ホント。
このまま、魔法ができなくなっちゃうかもしれないって、ちょっと心配だったからな。
◇
「『水神の庭園』っ」
そういえば、俺にやっと魔力成長期が来た。今は、すごいスピードで魔力量が上がっている。
感覚も、前世の感覚を8割方取り戻し、今なら神話級魔法も3回くらいだったら難なく使える。
もう12時だし、そろそろ切り上げるかな。
「ーーお兄ちゃん、何してるの?」
「ラナ?」
ラナが、目を擦りながらも近寄ってきた。...多分、ついさっきまで寝てたんだろう。
俺だって、そんなに長時間なんて寝ようと思ってもできないのに、すげぇな。
「うぐっ...」
おっとぉ...
寝起きハグは、力がつよーい。
「ああ、魔法の訓練さ」
「魔法?それって、狐さんを倒した時に使ったやつ?」
「あ〜、ちょっとあれは無理かもしれないけど...それなら、前に見せたキラキラのやつは、どうだっ?」
すると、ラナは俺をぐいっと引っ張って言った。
「ほんとっ?! やりたい、やりたいっ!!」
ラナが目を輝かせてる...
まあ、もう終わろうと思ってたし、ちょっとくらい教えてやるか。
「わかった。じゃあ一緒にやろうか」
「うんっ!」
「まず、やる前に魔法について知らなきゃいけない」
俺は、魔法とは何か、魔法に必要なものはなにかとか、様々なことを教えた。
でも、最後らへんでラナがうとうとしてきちゃった。だから、一度やってもらう事にした。
「それじゃあ、この魔法陣をしっかり見てね」
「目を瞑るんじゃないの?」
「ラナはまだ魔法陣を正確に覚えてないからな。見とかないと魔法は使えないよ」
俺は魔法陣を描いた紙をラナに渡した。
「一回俺がやるから、ちゃんと見てるんだぞ」
魔法はイメージ。ちゃんと手本通りに、が大事だ。
「『ウォーター・ボール』」
目の前に水の玉ができる。
数秒経ってから、それは地面に落ちた。
「うわぁぁぁっ」
「これが、『ウォーター・ボール』だ。そしたら、これをしっかり頭でイメージして、唱えるんだ」
「うん」
ラナは魔法陣をまじまじと見つめ、静かに詠唱を始める。
「『うぉーたー・ぼーる』!」
しかし、何も起こらない。
「あれぇ?」
うーん、何でだろう。魔法陣は完璧なはず。
それなら、もしかして魔力の問題なのか? これは超初級魔法だけど、まだそのレベルまで魔力がないのか?
「もっ、もういっかいっ」
「ちょっと待って。このままやっても、何も変わらない。次は、俺の魔法のことは忘れていい。自分の思う形で、思いっきりやるんだ」
「わ、わかった!」
流石に、この程度で魔力切れになる事はないだろう。
俺の見本が、イメージの妨げになってたのかもな。それだったら、なんとも悲しいけど。
ーーその瞬間、目の前にはあまりにもデカすぎる魔法陣と共に、空中に水の玉が出てくる。
「はぁ?!」
とてつもない魔力を感じた。
よくわからんが、とりあえずヤバい。これは、絶っっ対にヤバい。
俺の長年の本能がそう言っている。
「おにぃちゃん、うまくできてるっ?」
「とっ、とりあえず逃げるぞ!!」
俺はラナを抱えてできるだけ離れたが、ーー数秒の後、その玉は地面へと落ちた。
「ぎぃぃやぁぁぁぁ!!!」
そしてーーーー二人はびしょ濡れになった。幸い、水だったからか、壁は半壊したが家に影響はなかった。
「大丈夫、か?」
「すっ、すごいすごい!! これがまほう? うまくできた?」
ラナは腕の中ではしゃぎながらも言う。
「うまくって...うーむ」
「だ、ダメだったの?」
そ、そんな顔するなよぉ。そんな顔されたら・・・
「うまくできてたよ! いやあすごいなぁ、俺もびっくりだよ!」
ラナは一変、すんごい笑顔になった。
「一旦、家に戻っといてくれる? キラキラは、また今度っ」
「わ、わかったっ」
ラナは小気味良いステップで家へと戻っていった。
さて、どうしたもんか。
今のは、一体どういう事だ? あまりに玉がデカすぎる。俺の見本とは全然違ったし。
何より、感じた魔力量がとてつもなかった。
しかも、魔法は威力が増すほど消費魔力も増えるはずなのに、ピンピンしてたぞ...
ラナって、あんなに魔力を秘めてたのかよ。やべぇな、おい。
同い年の前世の俺のと比べても、超絶圧倒的に多い。ってか、死に際の俺レベルまであるぞ、これ。
まあ、とりあえず壁は頑張って修復しないとな。




