第10話 守れたもの!
「母さんっ! ただいまぁっ!」
「カイン、どこ行って、た......ラナっ、ラナっ!」
「うわっ!」
「森に行ってるのを見たとか言われて、もう、心配したんだからぁ...よかった...!」
母さんは、ギュッとラナを抱きしめた。
「えっ...ち、ちょっ...」
ラナは、なぜかちょっと困惑している様子だった。
「ラナ! みっ、見つかった、のかっ!」
父さんも、さらに二人を覆うように抱きしめた。すごい、ラナがなんとも言えない顔をしている。まあ、暗い顔じゃないから、いいけど。
「あっ、あのっ。すみません、でしたっ。私の、勝手な行動で...」
「いや、もういいんだ。事情は後で聞くけど、ラナが帰って来てくれた。それで、今はいいよ」
母さんも、大きくうなずいた。
ラナは、それでも終始困惑している様子で、立ち尽くしていた。
◇
ーーートントントン
「? 入っていいですよー」
ご飯が終わり、寝る準備も済まして部屋でゆっくり過ごしていると、ラナが、部屋を訪ねて来た。
「ラナ! 何、どうかしたの?」
「......話が、あって」
話って、なっ、何だ? 顔が、また少し暗くなってるし。
「いいよ、全然。なんでも言って」
「...そのっ。なっ、なんで、助けてくれたん、ですか。私の、こと」
「へっ? なんでかって?」
何かと思えば、変なことを聞いてくるもんだな...
「そんなの、助けたいって思ったからだけど」
「いやっ、そうじゃなくって、なんで助けたいと、思ったかっていう...」
なんで、助けたいと思ったか?
むっ、難しいことを聞いてくるもんだなぁ...
「...えっ? うーん...あんまりなんでかってのは、分かんないけどな...とりあえず、助けたいって思ったから、かな」
「分かんないっ、て...たっ、ただの、気まぐれ、ですか」
「はっ、はいぃ? いやいや、そんなんじゃないよ。ただ、ラナがいなくなるのは、なんか嫌だなって...」
「......だっ、だって!」
「えっ、ちょっ」
ちっ、近っ! 急に近づいてっ...って
「ラナ、顔が...」
「だって、私っ、あんなに無視したりっ、ひどい態度、だったのにっ! どうしてっ!」
「...ああ」
あれって、ラナも気にしてたのか。
まあ、確かに、理由もなしに助けたってのは、ちょっと簡単には受け入れられないよな。
でも、理由って...
「...ラナが家族だから、かな。唯一の妹だし」
「家族って、それだけで、あんなに危なくなる、までっ、助ける理由にっ、なるんですかっ!」
ラナは、いつもでは考えられないほど強い言葉で、言い放った。
その顔は、暗い顔よりもずっと辛そうな、必死の顔をしていた。
「えっ...」
...ちょっと前、ラナがここに来る前のことを、少しだけ聞いた。
どうやら、冒険者であった父に暴力を振るわれていたらしい。
母は既におらず、父と二人で暮らしていたところ、父の冒険での死によって、一人になってしまった。
そして、うちで引き取ることになった、と。
うちの家族はいい人ばっかりだし、てっきり、ラナはここに来たかったし、来れてよかったって思ってる。そう考えていた。
でも、今なんとなく分かった。多分そうじゃない。
家族に嫌な思い出しかないせいで、家族はそういうものだ、と。簡単に切れてしまうような、薄い関係だと思ってるんだろう。
もう、家族なんて持ちたくなかったんだろう。
それは、本当の家族ってのを知らないから、思うことだ。
「なるだろ、そりゃ」
...それを教えるのも、お兄ちゃんの役目、なのかな。
「ならないよ、そんなの」
「いや、なるさ」
「ひゃっ?!」
カインは、ラナをグッと引き寄せて、抱きしめた。
「ほら、お兄ちゃんなら、こんな事だってできるんだぜっ」
ち、ちょっと恥ずかしいけど...
「いいか、ラナ。本当の家族ってのはな、苦しい時は一緒に分け合って乗り切って、嬉しいときはみんなで喜ぶ。そんな、一番大切なものだ」
やべぇ、俺、めっちゃ恥ずかしいこと言ってるぅ...
でも、ラナは、静かに聞いてくれていた。俺の言葉を、しっかりと。
「だから、俺がしたのは、ラナが苦しんでるのを分かち合った、ただそれだけなんだよ。それが、本当の、家族だ」
「本当の、家、族」
ラナは、ゆっくりとその言葉を繰り返した。
家族ってのは、そういうもんだろ? 俺は、ずっとそうやって思ってきたけど。
「そう。俺は、お前が冷たくっても、守りたいと思えた。俺だって、この気持ちの正体はよくわからないけど。それが、ラナが俺の妹だって、大好きだって、思えたってことだろ」
でも、その言葉を聞いても、ラナは頷いてはくれない。
「大好きって、なんですか。そんなの、どうせっ、ただの勘違い、ですよ。家族とかっ、そんなのは、好きになる理由なんかには、ならない、です」
...そうか。ラナは、そんなことも、知らない。感じたことがない。
ずっと、そんなひとりぼっちの、女の子だったのか。
じゃあ、やっぱり、それを教えるのは、俺の仕事じゃ、ないのか。
「だから、それが、なるんだよ。ラナはまだ分からないかも知れない。でも、俺は、絶対にラナが大好きだ。勘違いじゃねぇ。ほら、聞いてみろよっ」
ラナの耳に、自分の胸を軽くつけた。ラナの髪を触ってると、やっぱりすごく、愛おしく感じる。
三週間でも、よく分かった。ラナが好きじゃなかったら、毎日話しかけるなんて、絶対できない。
「鼓動が、激しいのが、わかるか。俺は、ラナが大好きだからなっ。触れているだけで、こうなっちゃうんだ」
まあ、ラナがかわいすぎるってのもあるけど...
でも、確実に言えるのは、ラナが俺の家族だから、こうして愛しさを感じてるということだ。
「分かった、か?」
「でもっ...でもっ...! やっぱりっーー
「ああ、"でも"とか言うのはもう終わりな。要するに、俺が助けたのがラナが好きだからってのは、本当だってこった。その、家族だからっていう気持ちは、知らないのかも知れないけどなっ」
「...うぅっ......しっ...てるっ......!.うぅ....っっ..!.うぅっ...」
「...そうか」
そう言えば、ラナのお母さんがどんな人だったのかは、知らないな。
ラナは、知ってると答えた。きっと、そんな経験を、お母さんにさせてもらったんだろう。
「それに、兄は妹を助けるもんだろ? 俺は、ラナのヒーローになるべくここにいるんだからな。そこに、理由なんていらない」
「っっ...んぐっ...ヒー、ロー...?」
震えてるし、なっ、泣いちゃった...
「あと、言い忘れてたけど、苦しんでるところを見ると俺も苦しいし、笑顔を見るとこっちも笑顔になれるんだ」
「んっ...ぐすっ」
「だからねーーーー笑ってよ、ラナ。泣かないで。そのために、頑張ったんだからな。俺の前なら、ちょっとくらい、笑ってもいいじゃんっ」
笑顔を守るために、とか、前世じゃ言いたくっても言えなかったからな。
でもここなら、それが言えるし、それができる。
「そうでしょ、ラナっ」
ラナは、俺の胸の中から、そっと顔を見上げた。涙で、まぶたかが赤くなっている。
「っっっ! うわぁぁ...うっ..ふぇえ...」
また、顔を胸にうずめてしまった。
「ち、ちょっと、ラナ! だから、笑顔にって...」
...まあ、でも、すぐに笑顔になるってのは、無理な話だよな。簡単には、切り替えられないだろうし。
「大丈夫、大丈夫だよ。これから、家族についてもっとよく知れば、きっとラナも、本当の家族の気持ちがわかるさ」
「っっ...でっ、でもっ、もう、あんなにひどい態度をっ...もう、本当の家族だ、なんて...」
「だから、大丈夫だよ。俺は、それでもラナを大切に思えた。さっきの二人を見ても、分かったでしょ。まだ、やり直せるよ。絶対に」
「やり直せるって、そんな簡単にーー
「別に簡単じゃない。これは、ラナの意識も変えなきゃいけないからな。でも、きっとできる。ラナは、本当の家族に、なりたいって思えたんだろ?」
「んぐっ...うっ...うんっ」
「じゃあ大丈夫だ。俺も、手伝うから。ラナが笑顔になることなら、なんだってするぜっ!」
......あれっ! 今、ちょっと笑ったんじゃないかっ? 顔が見えねぇ...
「......あっ、..あり、がとう、ごさい、ます」
「あっ! ちなみに、敬語は厳禁な。本当の家族は、気軽に話せるもんなんだからっ!」
「わっ、わかっ、た」
「おうっ」
ーーそれから、かれこれ20分くらい、この状態のままだった。ラナが泣き止むまで、ずっと、そばにいたいと思った。
その静寂を破ったのは、ラナの声だった。
「ーーさっ、さっき...」
「うん?」
「さっき、なんでもするって、言った、よね?」
「うん、言ったけど」
「......じゃあ、今日は、ずっと一緒にいて」
「今日? 別にいいけど、もう夜だぞ?」
ーーぼふっ
なっ、なぜ俺のベッドに...まっ、まさかっ!
「ほらっ、はや、く」
「マジかぁ...」
「だ、ダメっ?」
そっ、そんな顔するなよぉ...そんな顔されたら...
「いっ、いいに、決まってる、だろっ! 今日は、怖かったもんなっ。もちろんだっ」
そうだよなっ。笑顔を守るためだもんなっ。仕方ない仕方ないっ。
俺は、一緒に布団へと入った。
「......んふっ」
あれ、今笑ってーー
「おや、すみ」
「おっ、おやすみ...」
あかん、あかんぞ。ラナは妹、ラナは妹ぉ...!
かっ、体が触れてるしっ...まずいっ、これは、この体にはあまりに刺激がっ...ああ゛っ...!
◇
「ほら、だから言ったじゃない。受け入れて正解だったって」
「...ああ、そうかもな」
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