代表者はよく喋る
バルド=エルグレインが、意気揚々と第四分科を出て行ったその日の午後。
私は、彼の背中を見送りながら静かに紅茶を飲んでいた。
「……本当に、止めなくてよかったんですか?」
ミレアが、半ば呆れたように聞いてくる。
「ええ。
止めたら“聞く耳を持たない人”ですもの」
エルナスト卿は、落ち着かない様子で書類をめくっている。
「ですが……第三分科の案件は、東区の流通停滞ですよね。
あれは、かなり繊細な……」
「だからこそ、ですわ」
私はカップを置き、穏やかに言った。
「“繊細な案件”ほど、
声が大きい人が前に出ると、必ず問題が起きます」
二人は否定しなかった。
それから数時間後。
予想は、想像以上に早く現実になった。
――怒鳴り声が、廊下に響いたのだ。
「なぜ、私の指示が通らんのだ!」
扉が乱暴に開き、バルドが顔を真っ赤にして戻ってきた。
「商人どもが、私を軽んじた!
第四分科の代表だぞ、私は!」
(ああ、やったわね)
ミレアが、目を伏せる。
「……何を、言ったんですか?」
「何って……
流通が滞っているのなら、
貴族として“正しい姿勢”を示せと言ったまでだ!」
嫌な予感しかしない。
「具体的には?」
エルナスト卿が、恐る恐る聞く。
「価格を下げろ、報告書を出せ、
協力しない商人は名前を記録すると――」
ミレアが、頭を抱えた。
「それ、脅しです」
「是正だ!」
バルドは叫ぶ。
「無秩序を正すのが、貴族の役目だろう!」
(ブラック企業でいう“やる気のある無能”)
私は心の中で分類した。
バルドは机に書類を叩きつける。
「第三分科の連中も腰抜けだ。
私が直接動いてやらねば、この国は回らん!」
エルナスト卿は完全に萎縮し、ミレアは呆れを通り越して無表情になっている。
私は、あくまで穏やかに口を開いた。
「それで、報告は?」
「……商人側が反発して、
“協力拒否の嘆願書”を第三分科に出したそうだ」
部屋が静まり返る。
(ええ、完璧)
私は内心で、静かに頷いた。
これはもう、
第四分科の問題ではなくなった。




