第四分科という名の、吹き溜まり
王国運営補助評議会・第四分科。
正式名称だけはやたらと立派だが、実態は王都でも有名な“吹き溜まり”だった。
表向きには、問題を抱えた貴族や案件を一時的に預かり、再評価するための部署。
しかし実際は、どの派閥も引き取りたがらない厄介者を押し込むための箱に過ぎない。
(……なるほど。企業でいうところの、窓際部署ね)
私は内心でそう結論づけながら、薄暗い会議室を見渡した。
長机を挟んで向かい合うのは三人。
そのうちの一人――いや、一番声が大きい男が、早速口を開く。
「まったく……最近の人事はどうなっているんだ」
腕を組み、顎を上げ、いかにも“自分は上の立場だ”と言わんばかりの態度。
男の名は、バルド=エルグレイン。
第四分科の古株。
そして――噂に違わぬ人物だった。
「突然送り込まれてきた上に、伯爵令嬢?
ここがどういう場所か、理解しているのかね」
「一応、辞令は読みましたわ」
私は穏やかに微笑む。
こういうタイプは、感情で返すと喜ぶ。
バルドは鼻で笑った。
「辞令“だけ”読んでも意味はない。
第四分科はな、経験と勘がものを言う場所だ」
(経験と勘でここまで落ちたのかしら)
口には出さず、私は心の中でだけ返す。
バルドの隣で、小さく咳払いをしたのは、形式上の分科責任者――
エルナスト卿だった。
「バ、バルド殿……その、まずは業務の確認を……」
「確認? そんなものは後でいい。
それより彼女だ。なぜこんな人選になったのか、説明が先だろう」
エルナスト卿は明らかに困っている。
書類はきちんと抱えているが、視線が泳いでいた。
(ああ、この人は“真面目だけど決断できない上司”ね)
元同僚の顔が、脳裏に何人も浮かぶ。
最後の一人――机の端に座り、椅子を少し後ろに倒している女性が、ぼそりと呟いた。
「……どうせ、上からの押し付けでしょう」
現場担当のミレアだ。
疲れ切った目をしているが、観察力は鋭そうだった。
「王都で問題起こした令嬢を、第四に送れば丸く収まる。よくある話です」
「失礼な!」
バルドが机を叩く。
「我々は“王国の是正機関”だぞ!
厄介払いとは心外だ!」
(自分で言ってて虚しくならないのかしら)
私はようやく、口を開いた。
「ご心配なく、バルド卿」
全員の視線が、こちらに集まる。
「私は第四分科のやり方に、口出しするつもりはありません。
むしろ――」
一拍置いて、微笑みを深くした。
「ここで学ばせていただきたいのです。
なぜ第四分科が、こうなっているのか、を」
一瞬、空気が止まった。
ミレアが吹き出しそうになるのを、必死に堪えている。
エルナスト卿は、完全に固まっていた。
そしてバルドは――
「……ふん。
生意気だが、まあいい。どうせ長くは保たん」
勝ち誇ったようにそう言い、椅子に深く座り直す。
(ええ。
正面から戦えば、長くは保たないでしょうね)
でも私は知っている。
無能で、プライドが高くて、責任を取らない人間は――
使い方を間違えなければ、最高の盾になる。
第四分科という吹き溜まりで、
私は静かに手帳を開いた。
(さて。
まずは“勝たなくていい戦い”を探しましょうか)




