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第漆話 始まりは突然に

【登場人物】

リクエール・レイナ・フェルサ:

本作の主人公。七聖天に所属するめんどくさがりな少女。「レイナ」や「リン」と呼ばれており、空中を自在に飛ぶ槍グングニルの使い手。


ケント:

リンの友人でバーニシア王国聖騎士の剣士。彼のように「リン」と呼ぶ人は少ない。魔力は〈瞬速〉、異能は〈物体生成〉。


オルリア:

七聖天団長。子供のような容姿をした明るい性格の少女。口うるさいお節介焼き。


スリエラ:

七聖天の1人でお嬢様言葉を話す女性。美人だが実は四十路手前。口には気を付けるように。


チャム:

七聖天の1人。酒飲みチャラ男エルフ。リンと並び任務をサボりたがる問題児。


クンペル:

七聖天の1人。常に無表情で必要最低限の言動しかしない。情報分析や瞬間移動が可能な〈干渉〉の魔力を持つ。

    ◇ ◇ ◇ Side Sriela ◇ ◇ ◇


 こちらはオブスクリタス王国全土の地図、あれは城内の見取り図……これは衛兵の配置計画書のようですわね。

 こんなに書類が山積みですなんて、国王も大変ですわね。


 …………闇属性に操られた魔人族、でしたかしら。

 物騒な話ですわ。ただでさえ凶悪な魔人族が何者かに操られていますなんて。

 しかしそれと闇族が存続していたことは別問題。

 大臣方も無茶を仰いますわ。闇属性に操られた魔人族と闇族との関連を示す証拠を見つけ持ち帰ってこいですって? 無理に決まってますわよ。


 確かに闇族は闇属性に極めて秀でた種族。魔人族を闇属性で操ることも容易いかもしれませんわ。しかし今回の魔人騒動とすぐに結びつけて考えるなんてあまりにも早計!

 闇族が哀れですわ。


 こちらは……あぁ、新法案の書類。もう署名が入って…………。


「こ、これって……⁉︎」


 有り得ません!

 すぐにお伝えしなければ!


「オルリアさん!」

「わっ! どうしたのよ、急に大声出して」


 隣の寝室を調べていたオルリアさん。件の書類を押し付けるように手渡すと、困惑したようにそれを見つめ、数度まばたきして首を傾げやがりましたわ。

 これはわかってませんわね⁉︎


「わかりませんの⁉︎ この名前ですわよ!」

「名前? 何かおかしいの?」

「このファミリーネームですわよ!」


 ワタクシはそう言って、書類の署名欄のところをビッと指し示した。ワタクシの指の先にはキージュ・()()()()()()()の文字。

 さてはオルリアさん、知りませんのね⁉︎


 よろしくて?闇族の国、オブスクリタス王国は王家が闇の精霊の加護を受けたことを起源とする国ですの。“オブスクリタス”という姓はその証として精霊から与えられたものですわ。

 直径の王族以外、その姓を名乗ることは許されない。もしも勝手に名乗ろうものならば、精霊からの制裁は免れないでしょう。

 この王はその姓を名乗っている。名乗ることを許されている。つまり……──


「今の国王は前王家の生き残りってこと?」

「それ以外に考えられませんわ」

「それなら納得だわ。これを見て」


 なんですの? 日記? なんて地味な……ワタクシならもっと赤や黄色で鮮やかな装飾を……っと、そんな場合ではありませんでしたわ。


 オルリアさんに指定されたページに視線を落とす。

 これは、王国滅亡の日付……!

 血塗れの御母上、漆黒の聖騎士……間違いありませんわね。そしてやはり地上の状況は何も知らないまま。だからこそ誤解してワタクシ達を襲う。

 闇族の中でバーニシア王国は未だ()()()()()なのですわ。


「まさか王族に生き残りがいたなんて」

「ええ、同感ですわ。皆殺しという命令だったと聞いておりましたもの」

「その失敗した命令をもう一度実行しに来た……という風には見えないわね」

「「!」」


 やってしまいましたわね……!

 出口を塞ぐように立つ黒いドレスの若い女性。こちらを鋭く睨みつけてきますわ。けれども張り詰めた緊張や怯えも感じますわね。

 使用人か、官吏か、それとも噂の王族でしょうか?

 ともあれこの様子でしたら、強行突破も可能ではないかしら? やるしかありませんわね!


「『(ウィル・オ)……!」

「何してんのバカっ!」

「いった! なぜ止めるんですの⁉︎」

「スリエラが仕掛けようとするからでしょ! リア達の目的を忘れたの⁉︎」


 仕掛けるなんて大袈裟な! 少々ボヤ騒ぎを起こす程度です! あまり邪魔をなさるようでしたらオルリアさんごと焼き払いますわよ⁉︎


 そのとき、突如としてワタクシ達は黒く透明な膜に覆われた。

 しまった! なんですのこのシャボン玉は⁉︎ 鬱陶しい!

 気が付けば、ワタクシ達の後ろには長い黒髪を結えた男が立っていました。


「その目的とやらは後でゆっくり聞かせてもらおうか」

「ふん、こんなもの! 『紅焔(プロミネンス)』! ──⁉︎ なんですって⁉︎」


 ワタクシの『紅焔(プロミネンス)』が効かない⁉︎ なんですのこの泡は⁉︎


「無駄な抵抗はするな。私の『擒泡拿獲(きんほうだかく)』からは逃れられん」

「ニゲル……いえ、アートルム宰相、よくやったわ」


 宰相⁉︎ この辛気臭い男が⁉︎

 では、その宰相を労うこの女性はまさか……!


「ご無事ですか、陛下」


 オブスクリタス王国の国王、キージュ・オブスクリタス……!

 この暗闇の中でもさらに吸い込むような漆黒の髪。夜の海のような深く暗い瞳。お綺麗だけれどどこか冷たいお顔立ち。

 こんな若い女性が前王家の生き残りで、11年でオブスクリタス王国をここまで再興させた王ですって?


「まさか闇族の王がこれほどまでに軟弱そうな女性でしたなんて」

「好きに言うといいわ。連れて行くわよ、アートルム宰相」


   ◇ ◇ ◇ Side Lequel ◇ ◇ ◇


 こ、この状況って……?


「いい加減にしてくださいませ! いつまでもこんな泡の中に閉じ込めて!」

「無駄だと言ったはずだ。これは魔素を支配する我が異能〈夢幻泡影(むげんほうよう)〉。魔力と異能では格が違うのだ。バーニシアの聖騎士なら当然ご存知だろう?」


 なに捕まってくれちゃってんの、団長とスリエラ(2人共)


 侍従長だと言うプラチナブロンドの女性ルイスに連れられやって来たのは謁見の間だった。彼女はここまで特に敵意を見せる様子もなし。ありがたいような、意図が読めなくて不気味なような。


 そのタイミングで現れたのが女王に取っ捕まった団長達だ。

 黒いシャボン玉みたいな泡に閉じ込められている。口ぶりから察するに女王の隣の長髪の男──宰相ニゲル・アートルムの技らしい。

 魔素を支配するということは、打ち消すことも可能ということかな? 相当厄介だな。魔力の発動に魔素は不可欠だ。

 いや、ここで頭を抱えていても仕方ない。


「陛下。こちらはバーニシア王国よりの使者、七聖天のレイナ様とチャム様です。こちらへはさる調査のため参られたと申しております」

「調査?」


 ビリッとした空気が痛いほど肌を刺す。

 若いからと舐めていたかもしれない。玉座に座る若き女王キージュ・オブスクリタスは宵闇のような瞳を油断なくこちらに向けている。

 その色が憎しみや怒りによるものなのか、それとも若くして背負う重責によるものなのか、判断がつかなかった。


「おっしゃる通りウチらはバーニシア王国から来た。国王直属聖騎士団、七聖天。アンタ達がそこで取っ捕まえてるチビが七聖天(ウチ)の団長」

「誰がチビですって⁉︎」

「地上では今、魔人族の復活が問題になってるの」

「無視しないでよ⁉︎」

「そしてこの間、復活した魔人族が闇属性によって操られていることが発覚した」

「ちょっと⁉︎ リアの話聞いてる⁉︎」


 女王の反応は……驚いてるね。

 魔人族が復活してるなんて思いもしなかったんだろう。11年前まではそんなことは起きてなかったもの。魔人復活はちょうどここ10年くらいの話だ。

 ウチの言葉に反応したのは女王より隣の宰相の方だった。


「つまり、その原因が我々闇族であると……?」

「いいえ! リア達はむしろそれを否定できる証拠を探しに……!」

「その言葉を信じろとでも⁉︎」


 ビックリした……物静かそうな宰相だと思ってたのに、あんな大声が出るなんて。さっきまでの無表情が嘘みたい。いや、いろんな感情を飲み込んだ表情だったのかも。

 今は眉間に深く皺を刻んでいて、怒り心頭の宰相ニゲルは勢いのままに怒鳴りつけてきた。



「かつて闇族(我々)を排除しきれなかったことを良い事に短絡的な判断で我々を魔人族復活の黒幕と決めつけた! 違うか⁉︎」



 団長が即座に否定する。

 しかし、必死に叫んでいるはずの団長のそれが随分と軽いものに聞こえた気がした。


 バーニシア王国の最も忌むべき負の歴史。

 圧倒的武力をもって恐怖による支配と虐殺を繰り返した最悪の時代。その惨劇のひとつとして一夜にして滅ぼされた国──それこそがこのオブスクリタス王国。

 甘かったんだ。自分たちの国が変わったからって一度滅ぼしかけた国に許されて協力を仰ごうなんて。


 …………あれ?


 そういえばバーニシア王国が11年前(あの当時)から変わったってこと、伝えてなくない?


「11年前のあの日、我々はバーニシア王国(貴様ら)に滅ぼされた! 忘れたなどとは言わせない!」

「ねぇ待って。もしかしてまだ革命の話聞いてな……」

「言い訳なら聞かんぞ! 『激浪邯鄲夢枕げきろうかんたんゆめまくら』!」


 高波……⁉︎ いや、違う。闇だ……!

 地面から闇が津波のように襲いかかる。なにこれ、避けようがないんだけど……!


「『悪魔の目(ナザール・ボンジュウ)』!」

「ッ……⁉︎ なんだと⁉︎」

「御免あそばせ! 異能は貴方の専売特許じゃなくてよ!」


 スリエラ、ナイス脱出!

 背負っていた彼女の大剣をぶん投げる。“ツェンお姉さま”の部屋で回収してからここまでずっと持っていたのだ。邪魔だからどこかに捨ててしまおうかと思った。

 ウチから大剣を受け取ったスリエラがおおきく振りかぶって宰相ニゲル・アートルムを襲う。

 その間にも黒い高波はこちらに迫ってきた。


「オイ年増女♪ 耳塞いどけ〜♪ 『マンドレイク・インパクト』!」


 げっ⁉︎

 ウチの方に向けられてるわけじゃないのに思わず耳塞いじゃった。

 チャムの魔力は〈壊草(アルラウネ)〉。マンドラゴラをはじめとする毒草や薬草を操る能力だ。

 マンドラゴラといえばご存知、引き抜くと悲鳴をあげ、それを聞くと発狂して死ぬというアレ。現実では流石にそう簡単に死にはしない。ただ、耳が痛くなるほどの奇声をあげるのは事実だ。


「ギィヤァァアアアアアアアア!!」


 うるせー‼︎

 おかしい! 『マンドレイク・インパクト』は衝撃波を放つのがメインの技のはずじゃないのか! そこまで叫ぶ意味がどこにある⁉︎

 どこからともなく現れたマンドラゴラが発した衝撃波は黒い高波を霧散させた。

 まとめて宰相ニゲルとスリエラも少しダメージを受けてるのはご愛嬌。後でスリエラにたっぷり絞られてろ。


 さて、問題は女王だ。

 歳は若く、能力は不明。今のところ口数も少なくて情報がない。どんな思想で、今なにを考えているのか、ウチらをどう思っているのか。

 冷静に見えるけど、彼女だって11年前の被害者。国土を失くし、親を亡くし、きっと全てを尽くして国を復興させてきた。

 腹の底ではきっとウチらを恨んでるはず。


「11年前の真夜中、バーニシア王国(あなた達)()()()3()()で私達の国へ乗り込んできたわ」


 女王の雰囲気が変わった……!

 そうだ。女王キージュの言う通り、11年前もバーニシアは真夜中に少数で突如としてやって来た。そして突然襲撃したんだ。


 ん……?

 ちょ、ちょっと待って……?


「そして一夜で壊滅させた」


 今は真夜中……そしてウチらは6人……。

 今の七聖天(ウチら)はその状況と酷似している……!


「だからまずはあなた達を無力化する! 話はそれからです!」


 あー……もおー……どうしてこうなる!?

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回、いよいよ本格戦闘。

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