第伍話 暗闇を歩く
【登場人物】
リクエール・レイナ・フェルサ:
本作の主人公。七聖天に所属するめんどくさがりな少女。「リクエール」という名前が嫌いで、「レイナ」や「リン」と呼ばれている。
オルリア:
七聖天団長。子供のような容姿をした明るい性格の少女。口うるさいお節介焼き。
スリエラ:
七聖天の1人でお嬢様言葉を話す女性。美人だが実は四十路手前。口には気を付けるように。
チャム:
七聖天の1人。酒飲みチャラ男エルフ。リンと並び任務をサボりたがる問題児。
クンペル:
七聖天の1人。常に無表情で必要最低限の言動しかしない。情報分析や瞬間移動が可能。
ケント:
リンの友人でバーニシア王国聖騎士の剣士。彼のように「リン」と呼ぶ人は少ない。
◇ ◇ ◇ Side Lequel ◇ ◇ ◇
「『鎮静糸繰』」
向かってくる衛兵たちがドタバタと倒れていく。チャムが邪魔そうに蹴っ飛ばしていた。飛べない人は大変だね。
クンペルは指先からキラキラ光を反射する糸を何本も出している。それを器用に動かして衛兵たちの全身に纏わりつかせていた。
ケントは走りながら倒れた衛兵たちを興味深そうに眺めている。
「これって寝てるのか?」
「一時的な昏睡状態だ。事態が収束すれば解除する」
「やっぱ便利だなテメェは♪ でも、邪魔だッ!」
「すごいな。本当になんでもできるんだ」
「なんでもと言うのは語弊がある。自分の魔力は決して万能の能力ではない」
「はいそこ! お喋りはそこまで!」
衛兵たちが湧いて出てきた先に上に続く階段がある。確かここを上れば城の廊下だったよね。投獄される時に通ったもん。間違いない。
でも出た後はどうする?
ウチらの目的は女王と会って魔人について話を聞くこと。
この展開から女王と謁見? 無理無理。
今考えても仕方ないか。ひとまずあの聞く耳持たない女の子を撒かないと。
勢いよく階段を上がり蹴破るように扉を開けて飛び出した。
「あア!? ここドコだよ!?」
「先程見た景色と明らかに変わっていますわ……!?」
「どうなって……!?」
ホール!? いやいや絶対さっきはこんなじゃなかった。広さまで変わってるじゃん……!?
あの女の子の仕業か? いや、空間を作り変えるなんて芸当ができるタイプには見えない。それとも幻覚……?
驚いて固まっていると、真っ暗だったホールの照明に次々と火が灯り始めた。
中央には1人の男。黒髪を肩まで伸ばし、丸メガネの奥で漆黒の瞳がにやりと弧を描いている。
「やあ、こんばんは。バーニシア王国からお越しの皆さん」
「アナタはどちら様ですの?」
「その前に聞かせてくれよ。ここに来るまでにポニテの美人さんと会わなかった?」
「今まさに撒こうとしてるよ」
「ふぅん?」
それだけかよ。
直感的にわかる。彼は魔術師だ。裾の長いローブを着て、武器を持たず、体内には膨大な魔素。
もしかして場所が変わったのもコイツのせい?
「クンペル、この空間って……」
「分析は既に完了している。城の構造に闇属性の影響を確認。通路からホールへ構造変化したと推測する」
「えっと、つまり……?」
ケントが困惑してるぞ。その分かりづらい説明なんとかしなよ。
要は場所が変わったのはテレポートや幻覚の類ではないってことかな。空間自体を大改造して作った場所だと。
……それって凄くない?
クンペルの高度な分析能力に魔術師の男は感心したように笑みを深めている。
しかし困った。今日のメンバーには魔術師がいない。しかも内半分は武器を没収されている。対魔術師戦でステゴロはキツイ。
今すぐ自分の武器を用意できるのはウチ、ケント、クンペルの3人。この中の誰かがアイツの相手をするべきだよね。あ、面倒だからウチはパス。
「自分が彼を引き受ける。団長達の優先事項は武器の奪還と国王の捜索であると提言する」
え、いいの? やったー。
実際、この面子で一番対魔術師戦向きなのはクンペルだ。迷ってる暇はない。後ろから足音が近付いてくる。さっきの女の子もそろそろ追いつく頃だろう。
スリエラが苛立たしげに進み出る。クンペルの発言が癇に障ったようだ。
「アナタに言われずともそうしますわ。ワタクシの聖剣に触れるなど許しがたいですもの」
「そうね。そのためにも早くここを切り抜けないと」
「それを許したら僕の立場がないや」
男はそう言って両手をかざす。
その手の間に電気を帯びた黒い塊が現れた。離れていてもバチバチッと音が聞こえる。しかも纏う電気がどんどん強くなってるような……。
「『雷雲の矢』!」
速ッ……!?
まばたきした瞬間、目と鼻の先に黒い稲妻があった。
やば、無理だこれ。
「『魔素干渉』」
──ドゴォッ!
セーフ……助かった……。
後ろを振り返ったら大理石の床が大きく欠けていた。クンペルが直前で雷の軌道を無理矢理捻じ曲げたんだな。
速いだけじゃなく威力も強い。ただの雷撃じゃないみたいだ。
「ありがとクンペル……ちょっと焦った……」
「あら、珍しい」
「団長うるさ──……クンペル?」
「座標検出────成功」
どうした。急に近付くな。怖いよ。座標ってなに?
無言で近付きウチの肩に手を置くクンペル。「何すんの?」と聞く前にクンペルの口が開いた。
「『転送』」
えっ……。
は…………?
………………は?
はああああああああああ!?
どこだよココ……!?
さっきまでいたホールが消え去っている。代わりに今は暗い廊下に自分1人。ケントや団長達、それに魔術師の男の姿もない。
どこかにテレポートされたのか。急すぎるでしょ……。
「せめて一言声かけてよ。ってか、流石に1人は……」
「ッてえ!!」
「うわっ……なんだ、チャムか」
「あ? 文句あンのかテメェ♪」
……強いて言うなら、お前の尻餅がダサい。
さて。
他には誰も転送されてくる気配なし、と。
ここからは2人行動ですか。……コイツと2人行動か。
やっぱり文句あるかもしれない。
「ンで♪ ココは?」
「知らないよ」
廊下は暗いけど大きな窓が並んでいて外の景色がよく見える。かなり上の方の階に飛ばされたみたいだな。何階だここ?
いや、のんびりしてる暇はない。
この状況で平和的なお話合いに持っていくのは絶望的だ。どうしたもんかな。
「おお! なんだこの部屋! スゲェ♪」
「…………なに勝手に入ってんの」
「別にイイだろ♪ お、コレ宝石だよな? 1つくらいパクったってバレねェか♪」
「いやバレるよ」
何してんだお前。何しに来たんだお前。
取り敢えずこの盗人は引きずって行こう。面倒だけどしょうがない。コレのせいで国際問題とか勘弁してくれ。
「闇の世界の宝石なんて絶対ェ高く売れるぜ♪」
「ハイハイソーデスネ」
「ンだよ。珍しく先陣切ってゲートくぐって行くからてっきりテメェもオレと同じ狙いだと思ったんだけどな♪」
「一緒にするな」
「じゃあ今回ヤル気ある理由は何だよ?」
別にやる気があるワケでは……強いて言うなら大臣共の態度が気に食わなかったから?
それでも確かに一番乗りはらしくなかったかもしれない。
「お? オイちっと止まれ♪」
「はぁ、今度は何?」
あんまウロチョロすんな。ウチはアンタの手綱なんて握りたくない。
……って、聞いてんのかコイツ。
どこ行くんだ。なんか重厚な扉の奥に消えていったんだけど。面倒だけど放っておくほうがマズいよね。はあ……。
「オイ見ろシュヨさん♪ ココ宝物庫なんじゃねェの?」
宝物庫だとしたら無防備すぎるでしょ。鍵くらいかけろよ。
でも確かに煌びやかな部屋だ。
執務机の背後の大きな窓から月光が差し込んでいて夜中だというのに室内は明るい。
儀礼用の剣やオブスクリタス王国の地図などが壁のあちこちに飾られている。それに大きな鏡や化粧棚、花も飾ってあった。
何の部屋……? 少なくとも宝物庫でないのはわかるんだけど。
「おっ♪ これオレの鞭じゃねェか♪」
…………その箱、壊れた錠前がぶら下がってるように見えるんだけど。
チャム、お前壊したな?
あーあ、ウチ知らなーい。鍵? 多分最初から壊れてたんじゃないカナ。
「全員分あんぞ♪ お、らよッと!」
「うわっ」
スリエラの大剣投げて寄こすな! デカいんだから!スリエラの身長並みだよ!?
てか、ウチにコレを運べって言ってる?
ウチの不満にチャムが聞く耳を持つ様子はない。団長の短刀を振り回して遊んでいる。
はあ、もういいよ。持てばいいんでしょ持てば。よっこいせ。
「いつまで遊んでるの」
「だんちょーはこんな山刀でよく戦えるよなァ♪」
「鞭使ってるチャムがそれ言う?」
「あン? 鞭は強ェだろォが♪」
使えればね。
よくそんな癖のある武器を使う気になるよね。攻撃力だって高くないのに……あ、むしろいたぶりたいのか。性格悪いもんね。
さて、いい加減この部屋を出て探索でも……。
──ガンッ
「アララ~? シュヨさん、テメェの身長よりデケェ剣背負ってるって忘れてたか♪」
「……」
──ドガン!
「あぶっ!? テメェ気を付けて下ろせよ!?」
わざとだよアホ。
◇ ◇ ◇ Side Orlia ◇ ◇ ◇
「あら、スリエラ」
「飛ばされた先はオルリアさんの所ですのね。レイナさんとチャムは?」
「居ないわ。別の所に飛ばされたみたいね」
突然クンペルがレイナをテレポートさせた時はびっくりしたわよ。
もちろん任務遂行のためにはあれが最良だってことは理解できる。でもちょっと唐突すぎると思うの。
「クンペルはいつも言葉が足りないわよね」
「そんなこと今更ですわ」
「それもそうね」
取り敢えず、ここは何処かしら?
誰かの寝室らしいことはわかるわ。ベッドはもぬけの空だけれど。でも生活感は感じるわね。こんな夜中にどこ行ってるのかしら?
それにしても大きなベッド。天蓋まで付いてるわ。
というか暗すぎ!
確か月が出てたはずよね。月光があれば少しは視界もよくなるでしょ!
カーテンを開けるついでに大きな窓から下を覗き込む。地面が随分遠くに見えた。ほぼ最上階のようね。
「このお城って結構大きいわよね」
「色合いが地味でワタクシは好みではありませんわ」
「スリエラの好みは聞いてないわよ」
カーテンを開けると予想通り月光が室内を照らしてくれる。
やはりただの客室という雰囲気ではない。王族の寝室と考えて間違いないでしょう。調べたら何か情報が出てくるかも。
「オルリアさん、こちらの扉は隣の執務室に繋がっているようですわ」
「わかった。スリエラは執務室を調べてくれる? リアはこっちを調べるわ」
「ええ、承知しましたわ」
さて。
そうは言っても寝室で調べる場所なんてそんなに多くないのよね。何か見つかりそうな場所と言ったらナイトテーブルの引き出しとか……あら、早速発見。
日記かしら?
勝手に読むのは失礼だけど、ちょっと失礼するわね。
「…………この部屋、国王の寝室だったのね」
日々の政務のこと、国の未来のこと、仕事を共にする大臣たちのこと、侍従たちのこと、そして家族のこと。毎日欠かさず事細かに書いてある。マメな人だわ。
妹たちの話はよく出てくるけど子供の話はない。国王はまだ若いのかしら。一度滅びかけた国を立て直すのは大変だったでしょう。
あ、この日付って……。
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8月3日
今日という日は毎年生きた心地がしない。固い鎧が、鋭い刃が、冷たい瞳が、再び私の前に現れるのではないか。何度も何度も夢に見た。血塗れでベッドに横たわる母。音もなくこちらを見つめる漆黒の聖騎士。静かな室内に響くミークリアの泣き声。未だに理解できない。なぜ私達は生かされたのだろう。
バーニシアはまだ変わらず恐ろしい国なのか。ときどき確かめてみたくなる。しかしもしまだあの恐ろしい男の独裁が続いているとしたら? 私達闇族が滅んでいないと知られてしまったら? そのときは今度こそオブスクリタス王国滅亡の日になる。この国の王としてそのような判断はできない。こう考える私は保守的過ぎるかもしれない。王として情報収集を怠っていると言われても仕方ないかもしれない。みんなはそれで良いと言ってくれるけれど、それに甘んじてはいけないと改めて心に刻まなければ。
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これ、オブスクリタス王国が滅亡した日付だわ。
そうよね。11年経とうとも忘れられるはずがない。一夜にして国が滅ぶ。到底信じられない……信じたくないことだわ。
でも「なぜ生かされた」っていうのはどういう意味なのかしら?
考えてみれば今の国王がどういう経緯で王になったのかわからないわね。先代の王家は11年前の事件で皆殺しにされてしまったはずだし。
何者なのかしら、この人物。
「オルリアさん!」
「わっ! どうしたのよ、急に大声出して」
慌てた様子でこちらの部屋にやって来たスリエラ。手には1枚の書類らしき紙を持っていた。
何か見つかったのかしら?
「これを見てくださいまし! ワタクシ達の認識が大きく覆りますわ!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
本格的に話が進んできました。スリエラが見つけた書類についてはまた次回(多分)。
感想などいただけると嬉しいです。




