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第肆話 闇の国との再会

【登場人物】

リクエール・レイナ・フェルサ:

本作の主人公。七聖天に所属するめんどくさがりな少女。「リクエール」という名前が嫌いで、「レイナ」や「リン」と呼ばれている。


オルリア:

七聖天団長。子供のような容姿をした明るい性格の少女。口うるさいお節介焼き。


スリエラ:

七聖天の1人でお嬢様言葉を話す女性。美人だが実は四十路手前。口には気を付けるように。


チャム:

七聖天の1人。酒飲みチャラ男エルフ。リンと並び任務をサボりたがる問題児。


ケント:

リンの友人でバーニシア王国聖騎士の剣士。彼のように「リン」と呼ぶ人は少ない。

   ◇ ◇ Side Lequel ◇ ◇


 闇族とは、文字通り闇属性に特化して進化した種族のことを指す。元々は普通の人間だったらしく、一応人間のくくりに加えられている少数民族のようなものだ。

 彼らは集まってオブスクリタス王国という1つの国を建てた。



 その国は11年前に滅んだ。



 小国だったけど、国力はそれなりの国だった。

 闇属性に特化してることはそれだけのメリットなのだ。主に軍事面で。



 それが一晩で滅んだ。



 世界を震撼させる衝撃的な事件だった。

 忘れるはずもない。

 積み上がった死体の山、大地に染み込んだ大量の血、骨組みしか残っていない焼け焦げた街。その国は一瞬にして廃墟になった。


「貴様! 何者だ!」


 今、ウチの目の前には漆黒の鎧を身に纏い、同じく漆黒の槍を構えた兵士たちがいる。兵士たちがいる。

 本当に生きている。生き延びている。

 間違いない。彼らは正真正銘本物の闇族だ。


「こんばんは。バーニシア国王直属聖騎士団七聖天の1人、リクエール・レイナ・フェルサです。あなた達の女王陛下とお話合いに来ました」

「バッ、バーニシアだと……!?」


 その瞬間、彼らの緊張感と警戒心が高まったことは明白だった。

 団長、ごめんね。

 やっぱり平和的なお話合いは難しそうだよ。


   ◆ ◆ 数日前 ◆ ◆


「闇属性の痕跡……レイナ殿、それは確かなんだね?」

「うん、保証する」

「そうか。となると……ミック」


 今、ウチは団長によって無理矢理国のお偉いさん達の会議に参加させられている。議題は王都を襲撃した魔人族の集団について。

 はっきり言ってめんどくさい。

 何が悲しくて偉そうにふんぞり返ってる大臣(おじさん)たちのお喋りに付き合わなきゃいけないんだ。

 そんな中、聖騎士長(リーアム)の呼びかけに応えて1人の男が突然姿を現した。

 ミック・シスランド──世間では表向き存在しないことになっている第六聖騎士部隊、俗に暗部と呼ばれる聖騎士長直轄諜報部隊の部隊長。へらへらしてて掴みどころのない奴だ。


「はいよ、お呼びで?」

「君の報告の重要性が増しそうだからね。この場でもう一度報告してもらえるかい」

「あ~、オブスクリタス王国が滅んでなかったっていうアレのコト?」


 いくつかの椅子がガタガタッ! と大きな音を立てる。同時に会議室はざわめきに包まれた。

 魔人族の話をしてた時は興味なさそうだったのにえらい違いだな。


 混乱して喚きたてる大臣達はどうでもいい。

 それより団長はこの話を知っていたんだろうか?

 ちらりと視線を交わすと小さく首を横に振られた。声は発さないけれど動揺が瞳に表れている。初耳だったんだ。


「静粛に」


 鶴の一声。騒がしかった会議室がシンと静まり視線が上座に集まる。

 凛とした姿勢で座る壮年の男。モノクルの奥で理知的な瞳が鋭くミックを貫いていた。

 彼こそがこの国の王、エドナム・バーニシア。

 ウチら七聖天は本来国王である彼の直属だ。今は聖騎士長のリーアムに権限を委任してる形になる。ま、そんなことはどうでもいい。

 彼に促されてミックは詳細を語り始めた。


「当時から謎の多い事件だったろ。そして1番の謎は国民の大半が跡形もなく消え去ったってコト」

「僕もそれがずっと気になっていました。だから長年暗部に調べさせていたんです」

「で、その成果が出たってワケ★」


 そんな事調べさせてたんだ。真面目だねぇ。

 ミック曰く、場所は地上とは異なる異空間。通称“闇の世界”。四六時中闇に覆われたそこは闇族の故郷だとも言われているらしい。

 滅亡を悟ったオブスクリタス王国は地上から姿を消すことに生き延びる活路を見出したというわけだ。


「決まりですな。此度の魔人襲撃騒動は闇族の手引きでありましょう」


 ……まぁ、誰か言うだろうとは思ってたけど。

 襲撃した魔人に見られた闇属性の痕跡。明らかになった闇族の生き残りの存在。

 結びつけて考えたくなるのも無理はない。

 とりわけバーニシア王国とオブスクリタス王国との間には深い因縁がある。オブスクリタスがバーニシアに魔人を差し向けても不思議に思わないほどの因縁が。


「ちょっと。決めつけるのは早いんじゃないかしら」

「ああ、私も同意見だ。現状ではただの状況証拠にすぎん」


 鉄の宰相カルマス・ダンフリースが同意するなら決まりだな。彼の眼鏡の奥の鋭い眼光が睨みつけるように周りを一瞥していた。それを受けて会議室はシンと静まり返る。

 睨まれたくらいで黙るなら最初から静かにしてればいいのに。


「うむ。私もダンフリースと同意見だ」


 結局王命により七聖天は使者としてオブスクリタス王国に派遣されることになった。


   ◆ ◆ ◆ ◆


「ふわぁああ……」

「レイナ、あなたこの状況でよく欠伸なんてできるわね」


 この状況っていうのは、両手足に枷を付けられてみんな仲良く暗い地下牢に囚われてるこの状況のこと?

 何を今さら。こうなることは予想できたじゃん。

 苛立っている団長を無視してもう一度欠伸をしたら頭を叩かれた。ひどい。


「誰のせいでこうなっていると思っていますの?」

「へーへー」

「反省してくださる?」


 スリエラの視線は非難がましい。

 しょうがないじゃん。アレはどうにもならないって。


 “闇の世界”へは魔法で特殊なゲートを開いてやって来た。

 ゲートをくぐった先はなんとびっくり王城の門の前。取り敢えず門番に挨拶したらこうして捕まった。


「まあまあ、こんな所で喧嘩はよそう。な?」


 もうウチの味方はケントだけだ。スリエラから向けられるジリジリとした視線を彼の背に隠れて逃れた。

 そもそも今はド深夜だよ。欠伸のひとつくらい良いじゃん。あ、人肌のぬくもりが心地良い。このままケントの背中で寝れそうだ。


「甘やかさないでちょうだいケント! レイナは寝ない!」

「だんちょ~、シュヨさんには言うだけムダだって♪」


 シュヨさんってなに? と思ったそこのあなた。

 ウチもそう思う。

 どうやらウチのことを指しているらしい。「その呼び方なんなの?」と聞くのは出会って数年も経たないうちに諦めた。何度聞いてもチャムからは「シュヨさんはシュヨさんだろ♪」としか返ってこない。

 先日酒に溺れて眠りこけていたこの赤髪のエルフは今日はかったるそうに冷たい石畳の床に横たわっている。


「危機感を持ちなさいよ! 状況わかってる!?」

「あまり騒ぐと見張りが来ますわ。はぁ、レイナさんがバーニシアの名前を口になさらなければこんな事にもなりませんでしたのに」

「だって聞かれたし」

「喧嘩しない!」


 ウチ悪くないし。

 ウチだって別に喧嘩したいわけじゃない。もう10年も一緒にやってきた仲間だ。上手く付き合いたいに決まってる。住んでる家だって同じなんだから。


「お前ら一旦落ち着けって」

「外野は黙っていてくださいませ」

「が、外野って……ひどくね?」


 そんな悲しそうな顔するなケント。残念だけど余計な首を突っ込む方が悪い。七聖天(ウチら)はそういう連中だ。

 しかしケントはめげなかった。


「初対面じゃあるまいし一緒に任務やってる仲じゃん。きっと皆イライラしてるんだよ。少し冷静になれって」


 そーだそーだ。夜中に叩き起こされて初めての土地に送り込まれて、挙句早々に捕まった。ずっとイレギュラーが続いてる。

 みんなストレス溜まってるんだ。きっとそう。

 良いこと言うね、ケント。


「夜中に叩き起こされたですって? アナタはいつも十分すぎる程眠っていらっしゃるじゃありませんの」

「夜は寝る時間でしょ」

「確かにおこちゃまは寝るじか……おわッ!? あっぶねェなオイ! ヒトのタマ潰す気か!!」


 ふむ、闇の世界(こっち)でもちゃんとグングニルは呼べる。よかった。

 胡坐をかいたチャムの足の間にグングニルが突き刺さってる光景はなかなか滑稽だ。顔面蒼白でおもしろ。


「警告」


 えっ、クンペルが喋った!?

 あの無口無表情必要なことしか喋らないクンペルが!?


「正体不明の粉末の飛来を確認」


 相変わらずの無表情。空色の髪と白い服のせいかな。彼は冷え冷えとした無機質な雰囲気を纏っている。瓶底メガネの奥の温度感のない視線は天井に向けられていた。

 そういや粉末って何だ?


「リン……!」

「わっ!?」


 寄りかかっていたケントに急に突き飛ばされる。

 びっくりして顔を上げた瞬間、ケントの右腕に黒い粉が付くところが目に入った。


「え、それ……大丈夫なやつ……?」


 ジャケット越しでも油断できない。

 この世界には魔力や異能や魔法がある。多種多様な能力のすべては誰も把握できていない。これが何かしらの能力によるものならその力は計り知れない。

 ケントは首から上以外の肌が露出してないけれど、だからって安心してはいけないだろう。布の1枚や2枚で防げるとは限らない。

 思わずケントの腕に伸ばそうとした手は彼自身によって振り払われた。


「大丈夫、とは言えないでしょうね」

「あン? 誰だテメェは?」


 若い女の子? いつの間にか柵の向こうに立っていた。

 大人びた顔立ち。でもまだ10代だろう。ポニーテールの漆黒の髪、同じく漆黒の瞳、その一方で雪のように白い肌。闇に愛され光を避ける闇族の特徴だ。

 その真っ黒い瞳が鋭くウチらを睨みつけている。殺意に満ちた目だ。


「これは君の仕業?」


 ケントの表情が険しい。それに右腕を庇うような動き……まさか、動かせない……?

 少女の酷薄な笑みがケントの問いの答えだった。


「姉様の手を煩わせるまでもないわ。アンタ達はここで死ぬの」


 少女が片手をかざし、そこからさっき見た黒い粉がふわりと舞い上がる。

 物凄い殺気。これは脅しじゃない。本気でウチらを殺す気だ。


「分析完了。この粉末は接触部に軽度から中度の麻痺症状を発症させる鱗粉と判明。接触及び吸引の回避を推奨する」

「やっぱりそうか。服越しすら効果があるなんてすごいな」


 口調は軽いけどケントの表情は険しいまま。無理もない。喰らったのは利き手だ。

 ウチらも悠長なことは言ってられない。このままじゃ全員麻痺させられて無抵抗で殺される。


「あら、バレちゃった? じゃあ全力でいくわ! 『黒蝶群』!」


 多い多い多い!

 視界一面真っ黒になるほどの蝶の大群が押し寄せてくる。さっきの粉はこの蝶達の鱗粉だったってことね。

 接触及び吸引の回避? 無理無理! 到底人が避ける隙間なんてないよ!


「団長、この状況でもまだダンマリ決め込むの?」

「わかってるわよ。悠長なことは言ってられないわ」

「言質は取りましたわ! 責任はオルリアさんに取っていただきますわよ! 『紅焔(プロミネンス)』!」


 あっつ! こっちまで燃やされそうなんだけど!? 加減は!?

 スリエラの手から放たれた炎は蝶どころか牢屋の柵まで一瞬で焼き払った。おかげで闇族の少女も怯んでいる。


「一旦逃げるわよ!」

「「「「了解!」」」」

「くっ……! 待ちなさ……って、アンタ達足枷は……!?」

「あんなモンすぐ壊せるっての♪」

「はいはいあんまり煽らないの!」


 後ろから悔しそうな叫び声が聞こえてきた。嘘でしょ。あの挑発に乗せられたの? そんなあっさり?

 あの子実は相当単純なのかな。


 ともかく今はあの子を撒かないと。あんなのまともに相手してたら話し合う前に殺されちゃうよ。

 おかしいな。なんでこんな面倒なことになってるんだ。

 とにかくウチらは地下牢から出るために走り出した。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

やっと本筋に入れました(遅い)。

ここから本格的にオブスクリタス王国編開幕です。

感想などいただけたら喜びます。

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