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第壱話 魔人の目覚め

無限書き直し編をやめたい。

「キャアアアアアアッ!!」


 屋敷に響く女の悲鳴。雷鳴さえもかき消される。


「た、助けてくれぇっ!」


 男が懇願する。

 それに共鳴するように、大きな雨粒が窓に激しく叩きつける。


「や、やめろぉッ!」

「いやぁぁああああっ!!」


 広い屋敷の床に広がる赤い水溜まり。

 壁も、窓も、果ては天井までもが真っ赤に塗り替えられていく。


 耳を裂く悲鳴、慟哭、怒号、懇願。

 逃げ惑い、恐怖にあえぐ人々。


 それをただ見つめる黒い人影。

 大剣を引きずりながら、1人の少女の近くへと歩み寄る。少女は腰を抜かして震えていた。

 大剣が大きく振りかざされた時、少女はきゅっと瞳を閉じて祈るしかなかった。


「誰か……助けて……! 天使様……! 神様……!!」


   ◆ ◆ Side Lequel ◆ ◆


「……ン! おいリン……! 大丈夫か⁉︎」


 聞き慣れた青年の声。爽やかな草の匂い。

 ゆっくりと瞼を開けば、まだ高い太陽の日差しで目が眩む。そこに茶髪の人影が映り込んだ。


「なんだケントか。びっくりした」

「びっくりしたのはこっちだ。凄いうなされてたぞ。大丈夫か?」


 確かに呼吸が浅い。じっとりとした嫌な汗もかいている。寝ていただけなのに異様なまでの疲労感だ。

 これじゃ何の為に昼寝をしていたのかわからない。

 仰向けのままそんなことを考えていたら、白い手袋をつけたケントの手が目元に近付いてきた。その手が目尻を優しく拭う。


「ウチ、泣いてた?」

「ちょっと涙滲んでたぞ」

「…………」

「拗ねんなって」

「拗ねてないし」

「痛っ⁉︎ 殴るなよ!」


 油断してる方が悪い。

 ケントは目に涙を浮かべながら、横腹を押さえうずくまっている。いい気味だ。


「くっそ。その髪ぐちゃぐちゃにしてやる」

「やれるもんならどーぞ」

「ぐっ……絹糸みてーな髪しやがって」


 だから言ったのに。

 まとめても足首まで届く長い薄茶の髪。ウチの髪質は最強なので絡まった経験なんてない。ぐちゃぐちゃになんかできっこないよ。

 ん? なんか普通に髪梳かれてる?


「何してんの?」

「いや、なんか楽しくなってきて」

「はい?」

「別にいいだろ。それよりこんな所で寝てると風邪ひくぞ」


 平気だよ。

 それに今帰るとスリエラにドレスを作れってせっつかれる。復古祭が近付いてきてるせいでね。

 ここなら人目につかなくて絶交の場所なんだよ。


「今年も作る気ないのかよ。お前ら主役だろ」

「やだよ。窮屈だし、動きにくいし、ダンスは踊らされるし。なにも良い事ない。露出多くて寒いしね」

「あぁ、露出……確かに。それで軍服か」


 ちゃんと礼装で出てるんだから、みんな文句ばっかり言わないでほしいよ。


「リアはダンスを踊るのも主役の役目の1つだと思うわよ」


 うげ……この声って……。

 上から聞こえてきた溌剌とした少女の声に思わず顔を顰めた。近くの建物の屋根の上でボブのブロンドヘアの幼い少女がこちらを見下ろしている。

 見上げたら子供らしい蜂蜜色の大きな目と視線が交わってしまい、思わず「げっ」と声が漏れた。


「げっとは何よ? レイナったら失礼ね!」


 なんで団長がここに。どうしてバレたんだろう?

 ケントはこのチビ団長にバラすなんて、そんな非人道的なことはしない。

 はっ、まさかクンペル……!

 あり得る。アイツならウチの居場所を突き止めるなんて簡単だ。それに質問されたら素直に答えてしまう。

 なんてこった。後でシメなきゃ。


「ダンスも1つの交流よ。今まで踊ってないレイナがおかしいの」

「じゃあ全員踊らなきゃいいのに」

「そ・う・じゃ・な・く・て!」


 なんでだよ。

 人間って本当にめんどくさいなぁ。


 しかし口うるさい団長のお説教なんかよりも、今はこのお子様の恰好の方が気になって仕方ない。

 ノースリーブ、腹出し、ミニスカート。細い足もしっかり見えている。


「オルリア寒くないのか?」

「別に? 似合ってるでしょう?」

「そりゃまあ……」


 ほら、季節感合わなすぎてケントも困ってるじゃん。

 今9月半ばだよ? しかもバーニシア王国は雪国。もはや夏の面影はなく、既に肌寒い風が吹き始めている。

 ウチなんてパーカー着ててもちょっと寒いのに。

 きっと見た目通りの子供体温なんだな。


「レイナ何か言ったかしら?」

「何も〜」

「ところでオルリアはリンに何か用事じゃないのか?」

「えぇ、任務が入ったのよ。ほら、なに寝てるの! リアに引きずって行かれたいわけ!?」


 どうせ引きずってくなら屋敷まで送っていってほしい。

 ダメ?

 ケチ。

 ……って、ちょっと団長。掴み方雑すぎ。首が締まるって。ぐえ。

 フードを掴むのは良くないよ。


「さあ! 急ぐわよ!」

「はいはい」

「ハイは1回!」

「……はーい」

()()()()()?」


 …………。

 はぁ、ウチが本名嫌いだってわかってて呼ぶんだもんな。性格が悪い。

 ギリッと握りしめた拳にそっと手を添えられる感覚がした。

 ケントだった。


「リン、落ち着け。オルリアも悪いぞ。ちゃんと謝れよ」

「そうね。あとで何か奢るわよ」

「団長の中でウチって物で釣られるタイプなの?」


 ちょっと心外なんだけど。

 まぁいいや。美味しい物でもたっぷり奢ってもらう事にしよう。


「それじゃ、ちょっとレイナ借りていくわよ!」


 許可取るのケントじゃなくない? ウチは? 当事者に許可取ろうよ?

 団長、聞いて?

 結局ウチは団長に引きずられながらケントと別れた。


   ◇ ◇ ◇ ◇


 改めまして、リクエール・レイナ・フェルサです。七聖天に所属して、今もその任務のため、王都グラスゴーの南にある平原に来ています。


「何をブツブツ言ってるのよ?」

「これが夢だといいなぁって思って」

「まだ寝ぼけてるの?」

「団長こそ気は確か?」


 どこまでも続く草原とキレーな青空。近くに人里は無く、木もぽつりぽつりと生えているだけ。他には何も無い。

 こんな所に何をしに来たのか?魔人探しだ。


 魔人族。

 名前からわかる通り、あまり好ましい存在ではない。

 あらゆる種族の中で魔属性に最も秀で、大昔の大戦に負けて今では魔界に封印されている。しかしここ10年でその封印が弱まり、地上に魔人族が出現するようになってきた。

 ウチらはその魔人族を討伐するために日々駆け回っている。

 そこまではいい。そこまでは。


「このだだっ広い場所をウチらだけで探せって⁉︎」

「仕方ないじゃない。誰にでも倒せる相手じゃないのよ」

「他のみんなは⁉︎ エルマとかスリエラとかさぁ!」

「近隣の集落を廻ってもらってるわ。そういえばクンペルはチャムのこと、ちゃんと連れて来てくれたのかしら?」


 チャムはもういいよ。どうせ二日酔いとかで使い物にならないもん。

 でも他の任務中のノイルを除いて5、6人で探すって……。正気とは思えない。


「めんどくさ。絶対見つからないって」

「愚痴は後よ。あなた飛べるんだから頑張って探しなさいよね」


 ちっちゃい団長じゃ遠くまで見えないし仕方ないか。

 ちょっと団長、睨まないでよ。

 声に出しては言ってないじゃん。なんでわかったの?


 そんなことはともかく、上空から探しても生き物の影ひとつ見当たらなかった。

 下位魔人は身体が大きい。

 ここには隠れられる場所もないし、本当に居なさそうだ。


「まさか、もうどこかに移動してしまったのかしら?」

「じゃあ後はみんなに任せちゃえば良くない?」


 集落の方に行ってるんでしょ?

 移動したとしたら行き先は十中八九人間の集落だ。低位の魔人族の多くは人間を食べるって言うし。

 これ以上この辺を探すのは時間の無駄だよ。帰りたい。


「いいわけないでしょう。魔人を見つけて討伐するまではリア達だって帰れないんだからね!」

「えぇぇ、めんどくさ……」

「文句ばっかり言わないの! それより本当に何も居ないの?」

「居たらとっくに教えてるって。魔人どころか動物1匹……」


 ……ちょっと待って。

 おかしい。生き物の気配が無さすぎる。ここは人里離れた大自然のド真ん中だよ?


「あら、ウサちゃん。どうしたの?」


 ん? あぁ、雪ウサギの子供。

 団長の足元にすり寄ってきたらしい小さなウサギはまさに雪のような真っ白な体毛をしていた。

 なんだ、ちゃんと動物いるじゃん。


 …………。


 いや、待てよ。

 今って9月だよね? 肌寒いけどまだこの辺りで雪は降ってない。

 雪ウサギの体毛が白いのは雪に隠れて身を守るためだ。つまり、このウサギは王都の北にある山脈の方からこの平原までやって来たってこと。

 子ウサギがそんな距離を移動する理由なんて……。


「団長! そこ離れて!」


 言った瞬間、団長の足元に禍々しい渦が現れる。

 団長が素早く飛び退いたのとほぼ同時に、その渦から巨大な口が飛び出してきた。

 やっぱり敵に追いかけられてきてたか……!


「コイツ、黒色魔狼(ブラックハウンド)じゃない!?」


 は!? 黒色魔狼(ブラックハウンド)!?

 それ中位魔人じゃん!

 冗談じゃない! なんで中位魔人が地上に出てきてるんだよ……!?

ここまで読んでいただきありがとうございます。

設定がもりもりなので小出しにしていくつもりです。

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