第7話 新たな体
ベティが目が覚ますが、そこは手術室では無く、見たことの無い薄暗い部屋にいた。
「あれ?どこ?ってそうだ、メイブンさんに腕を何とかって…ある!?」
ベティの右腕には立派な義手が付けられていた。
「すごい。本物の腕みたいね。違和感が無いわ」
義手は体にありえないくらい馴染んでおり、違和感も生身の頃と大差ない使用感だった。
「んん…うるさぁいよぉ」
暗くて分からなかったが、目を凝らしてみると、ソファの上でゴロゴロとするリンシャの姿があった。
ベティは慌てて謝ると、小声でリンシャに問いかける。
「あの、メイブンさんたちはどこにいるんですか?」
「ん?あっち…」
リンシャの指さす先の扉から光が漏れ出ていた。耳を澄ませると、かすかに声もする。
「ありがとうございます」
扉を開くと、そこには四人が机を囲んでトランプゲームをしていた。
「あの、おはようございます。みなさん何を?」
「見ての通りポーカーだぜ。でも、このじいさんが馬鹿みたいに勝ちやがる。三連4カードとか意味わかんねぇぜ。ぜんっぜん種も分かんねぇし」
「よし。俺の勝ちだな」
頭を抱えるバースの隣でメイブンはロイヤルストレートフラッシュを出す。他の三人もそれなりに強い役だったが、メイブンには敵わなかった。
「起きたか、ベティ。腕と目の調子はどうだ?」
「目?…あ!」
両目が見えてることが当たり前だったため忘れていたが、ベティは片目の機能を失っていた。
「リンシャがついでにやってくれてたな」
トランプを片付けながらオルスが言う。
「使い心地はどうだ?お前さんには内臓鎖と暗視眼がついてると思うぞ」
「それはなんですか?」
何となく腕と目のことを言ってるのは分かったようで、自身の義手をペタペタと触る。
「内臓鎖は、鎖が出るように念じれば出てくるぞ」
「念じるだけでいいんですか?詠唱みたいなことはしなくていいのですか」
「お前さんは歩きたい時に、歩け!って言うのか?」
メイブンの言葉になるほどと思いながら、念じる。すると、手のひらが開き、中から一メートル半程度の分銅鎖がジャラジャラと音をたてながら床に垂れる。
「んで暗視眼も同じように、暗視眼、オン!とか念じとけばいいぞ」
ベティが念じるが、視界にこれといった変化がない。
「これは何ができるんですか?」
ベティがあたふたしている中、メイブンが暗視眼の説明をする。
「それは名前の通りだ。夜になると本領を発揮する」
「そうですか。それとこれはどうやったら戻せるんですか?」
ベティは自身の手のひらから垂れる分銅鎖を指さしながら言う。
「その二つは解除と念じれば元に戻るぞ。なんで俺はこんな簡単なことを教えてんだ?」
ベティは分銅鎖をしまいながら申し訳なさそうに言う。
「すいません。私、ちょっと世間に疎くて…」
「疎すぎるわ。別世界から来てねぇと説明つかねぇレベルだぞ」
(ッ!どうしよう。本当に別世界から来たんだよな。このまま隠し通せるかしら…いや、無理か。この段階で私かなりぼろ出してるわね。イチかバチか!)
ベティは決心したようで、メイブンたちに告白する。
「あの…私、多分別世界から来たんです!」
室内に数秒の沈黙が訪れる。
「…頭沸きすぎだ。一度、寝て覚めてこい」
メイブンから辛辣なコメントが返ってくる。しかし、バースとミアナが納得したような、でも少し腑に落ちないような表情をする。
「どうしたんだ?二人とも」
「いや、ベティのアレを別世界のものって言われたら、まぁ納得できるが、だとしても意味わからな過ぎてな」
バースはベティの行動の数々を思い返す。この世では不可能に近いことを幾度も見てきたのだ。
「なんだぁ?お前さんたちはベティの言うことを信じるのか?」
「えぇ、私たちはベティに魔法を見してもらったからね」
「なるほど。おい、ベティ。その魔法とやらを見せてみろ」
ベティが魔法を使えないと踏んだメイブンは適当に返す。
「えっと、ここでやったら多分家具が壊れちゃいますよ?」
「別にやってもいいぞ。できんならな」
メイブンの了承を得たベティは遠慮なくアイスランスを放つ。アイスランスは壁に突き刺さる。
「こいつが魔法?てか、これって俺に向けた奴だよな。インプラントじゃなかったんか」
メイブンはベティの腕を掴み観察する。ベティの腕にはさっき付けたばかりの義手以外は、インプラントを付けているように見えない。
「一旦はベティが別世界から来たということにする。それでお前さんが常識知らずで規格外の魔法を使えることに納得しよう」
「ありがとうございます。それで、この世界の常識を教えてくれますか?」
「常識…か。お前さんはどこまで知ってるのか?」
「何も知りません。そのインプラントとかも」
「インプラント知らねぇのか。あぁ、クソだる。そっから教えねぇといけねぇのかよ。オルス!」
メイブンは心底面倒くさいといった表情をしながらオルスに視線を送る。
「んじゃ、任せたぞ」
「はいはい。俺が教えるんすね」
オルスは呆れたようにため息をつく。